44 聖女アルケミアの依頼
オレ達が迷宮に取り込まれた出来事から約2ヶ月が過ぎた。領主や冒険者ギルドマスターは約束通りオレ達のことを必要以上に口外していないようで特に問題は起きていない。
まだ王都からの呼び出しもないので平穏な日々を送れている。
国王がどんな人物かは知らないが領主が言うには話のわかる人物だとか。
まあそれはその時になったら考えよう。
ミウとユーリは王都に行ってしまい今この町にはいない。
王都にある学園に通っているらしく今までは長期休暇中でアルネージュに来ていたらしい。
この世界にも学園があるようだ。
その長期休暇も先日終わり王都に行ってしまった。
ほとんど毎日のように会っていたから急に寂しくなった感じだ。
まあ別れ際にすぐに王都で再会出来そうみたいなことを言っていたが。
比較的平穏ではあったがこの2ヶ月色々あった。
「レイ、遅いノヨ! 朝食の準備出来てるんだから早く来るノヨ! アンタが来ないと食べられないじゃないノヨ!」
そうまくし立ててきたのは体長30センチくらいの風の妖精エアリィだ。
わけあって故郷に帰れなくなってしまったはぐれ妖精だ。
今は色々あって我が家に居候している。
それはまあいいとして、朝食の席に着く。
アイラ姉とシノブもすでに座っていた。
ちなみに今日の朝食の当番はアイラ姉だ。
朝食のメニューは(異世界風)ハムエッグ、味噌汁付きだ。いい匂いをさせている。
「「「「いただきます!」」」」
四人(エアリィを一匹と数えたら怒られた)揃って手を合わせ食事を始める。
「くぅ~、美味しいノヨ! アタシもう里に帰れなくてもいいノヨ! ここに永住するノヨ!」
エアリィは肉類は食べないので朝食はフルーツ盛り合わせだ。
本気で言ってるのか冗談なのか。
「そういえば冒険者ギルドから呼び出しがあったぞ。なんでも私達に指名依頼が入ったらしい」
アイラ姉が言う。指名依頼か············。
すでに何度か受けているし、そんなに珍しいことじゃない。だが、わざわざ呼び出しとは珍しいな。
朝食を終えると準備をして冒険者ギルドに向かうことにした。
オレとアイラ姉とシノブの三人で。
エアリィは残って孤児院の子供達と果樹園や畑の管理だ。
何気に子供達とエアリィは意気投合していて仲が良い。まあそっちのことは任せるか。
そうして冒険者ギルドに着いた。
まだ朝は早いのだが、それなりに冒険者が集まっている。
オレ達が入ると注目された。
何度経験しても慣れないな············。
というかいちいち注目するのはやめてほしい。
何人かの冒険者とは顔見知りになっている。
一緒にパーティーを組んで依頼をこなしたことがあるからな。
オレ達と組むとレベルが上がりやすいという話はすでに広まっているので組みたがる冒険者は多い。
ギルドマスターが圧力をかけているが、それでもオレ達と組みたがる冒険者は後を絶たないらしい。
注目を集めながら受付に行く。
いつも通りオレ達に対応するのは猫の獣人の受付嬢ミャオさんだ。
「ギルドマスターより呼び出しを受けたのだが」
「はい、伺っております。では奥まで············」
ミャオさんの言葉の途中でギルドの入り口が開き、ざわめきが起きる。
誰か来たのか?
入ってきたのは数人の騎士と一人の女性だった。
騎士はグレンダさん所属の王国騎士団ではなく、リヴィア教会所属の神殿騎士だ。
女性は金髪のロングヘアーで、全体的に白を強調した衣装を着ている美人さんだ。
年はセーラと同じくらいだろうか。
冒険者達は道を開け、女性と騎士達が受付までやってきた。
「指名依頼を出しましたが例の方たちは来ているのですか?」
「は、はい、アルケミア様。こちらの方たちがそうです」
女性の言葉に緊張したように答えるミャオさん。
アルケミア?
どこかで聞いたような名前だが············。
話の内容からして、この人がオレ達を指名した依頼者かな?
「この方たちが············想像していたよりもずいぶん若い方たちですわね」
女性がオレ達を見て言う。
[アルケミア] レベル36
〈体力〉310/310
〈力〉95〈敏捷〉175〈魔力〉945
〈スキル〉
(聖女の資格〈3/9〉)(聖なる守り)
(浄化の息吹)(魔力増加〈中〉)
これがこの人のステータスだ。
レベルが高めだが、魔力が特に高い。
そしてスキルが聖女セーラとほぼ同じだ。
ということはこの人············。
「ミャオ殿、この方は?」
「せ、聖女アルケミア様です············」
アイラ姉の言葉にミャオさんが答える。
やはりそうだったか。
三人いるという聖女候補の一人。
············確かリンが面倒な方とか言っていたような。
「初めまして、私はアルケミア=セントラール。今紹介されたように聖女候補の一人ですわ」
アルケミアが上品な仕草で言う。
育ちが良さそうな品のある振る舞いだ。
「私はアイラ、こちらの男がレイ、女の子がシノブです。聖女であるアルケミア殿が私達にどんな依頼を?」
確かにどんな依頼か気になるな。
候補とはいえ聖女の立場なら大抵の望みは叶いそうだが。
「とある場所まで私の護衛をしてもらいたいのです。依頼報酬は金貨500枚用意いたしますわ」
アルケミアの言葉に遠巻きに見ていた冒険者達がざわつく。大体になるが金貨1枚で約十万円くらいの価値がある。
つまり報酬は五千万円ということだ。
破格の報酬だな。
他の冒険者達がざわつくのも無理はない。
とはいえオレ達はこちらの世界ではあまりお金に困っていないので魅力的な報酬というわけではない。
············贅沢な話だが。
「詳しい話は奥の俺の部屋で頼むぜ」
ここでようやくギルドマスターの登場だ。
オレ達は聖女アルケミアとともにギルドマスターの部屋に通された。