392 奥義炸裂
迷宮の植物と魔物はすべて排除して、残るはアイラ姉が戦う守護者だけとなった。
加勢するべきだと思うが、今のところアイラ姉が優勢に見えるので、余計なことはしないで様子を見ることにしよう。
守護者は植物を操る力で、周囲の枝をアイラ姉に襲いかからせた。
オレ達の相手をしていた植物が再生しなかったのは、やはり守護者がアイラ姉との戦いに集中していたからか。
守護者の表情に変化はないが、余裕がないようにも見える。とてつもない数の枝が一斉にアイラ姉に襲いかかった。
「フフッ、この程度······何度仕向けようと無駄だ!」
アイラ姉は向かって来た枝をすべて斬り捨てた。
アイラ姉の動きが速すぎて、目で追うのがやっとだ。守護者はさらに口から紫色の猛毒のブレスを放った。
かなり危険な毒だと思うが、アイラ姉にそんな状態異常攻撃は効かない。
守護者のブレスを切り抜け、反撃の一撃を浴びせた。
「ーーーーーーーーーー」
守護者が耳に響く叫び声(?)をあげている。
今のアイラ姉の攻撃は、かなり効いたようだ。
〈神毒の効果を抵抗しました〉
オレのメニュー画面にそんな表示が出た。
さっき守護者が吐いた毒が、こっちの方まで届いてきたみたいだ。
猛毒ではなく神毒と表示されている。
なんかヤバそうな名前だな。
「············うっ」
フウゲツさん達が苦しそうに胸を押さえて蹲った。マズい、オレ以外の三人に神毒の効果が出ている。
三人の身体が徐々に紫色に変色していっている。
ヤバいどころか、相当に危険な毒っぽいぞ!?
オレはすぐに解毒魔法で三人を回復させた。
通常の解毒魔法ではなかなか治らなかったので、「聖」属性の解呪も上乗せして、ようやく三人の容態が安定した。
「あ、ありがとう、レイ君······」
「すみません、助かりました」
「私も、もう大丈夫よ」
エイミとミールが少し掠れた声で言う。
フウゲツさんも息を整えて、そう言った。
三人とも状態異常耐性はそれなりに高いはずだが、治療が少しでも遅れていたら危険な状態だった。
オレとアイラ姉なら状態異常は完全無効化できるから問題なかったけど、やはり守護者は油断ならない相手だな。
「百花繚乱······桜花無双撃!!!」
アイラ姉が勝負を決めようと奥義を放った。
守護者は先ほどの攻撃でかなりのダメージを受けているので、これで決まるだろうと思った。
しかし············。
「ああっ!? アイラさんの攻撃が受け止められたよっ」
オレの横でエイミが声をあげた。
エイミの言うように、アイラ姉の奥義が守護者に受け止められてしまった。
今のはとても防げるようなタイミングではなかったはずだが······。
アイラ姉の奥義は、下の階層で迷宮の植物の本体に披露していた。
まさかその情報が守護者に伝わり、学習されていたのか?
奥義を放った一瞬の隙を突いて、守護者は周囲の植物をけしかけ、アイラ姉を拘束した。
「むぅ、私としたことが油断したか······」
すぐに拘束を破ろうと動くアイラ姉だが、守護者の動きの方が早い。
守護者はその巨大な両腕で、アイラ姉を押しつぶそうと振り下ろした。
――――――――――!!!!!
守護者の動きが止まった。
両腕部分は凍り付き、そして強力な「風」の膜が守護者を抑えつけていた。
「ワタシも加勢します、アイラさん」
「足を引っ張ってばかりじゃ、いられないものね」
ミールとフウゲツさんが、いつの間にかアイラ姉の助太刀に動いていた。
何も言わなくても、考えていることは皆一緒だったみたいだ。
オレ達も傍観に徹するつもりはない。
「エ、エンドレスフレイムッ!!!」
エイミも「炎」の最上級魔法を放ち加勢した。
当然オレも黙って見ているつもりはない。
「くらえっ! 神魔斬衝剣!!!」
フウゲツさん達が足止めしてくれている内に守護者の懐に掻い潜り、強力な剣技で胸の部分を貫いた。
守護者の身体がグラリと揺れるが、まだ倒れる様子はない。
「精霊の気配が濃く感じます。おそらく核となる部分は身体の中心です」
今のオレの一撃で精霊の力が露出されたらしく、ミールが弱点部分を見つけてくれた。
胸のダメージでは致命傷にはならなかったか。
「下がれ、レイ! 後は私に任せろ。もう不覚は取ったりせん」
アイラ姉が守護者の拘束を破り、魔剣を構えた。
初めて見る構えだが、凄まじい気迫を感じる。
オレは巻き込まれないように守護者から距離を取った。
「ーーーーーーーーーー」
アイラ姉の異様な雰囲気を感じ取ったのか、守護者が一直線に向かっていく。
だが、もう遅い。
「真の太刀······鳴翔桜吹雪!!!」
アイラ姉の奥義が炸裂した。
といってもアイラ姉の動きが速すぎて、はっきりとは見えなかったが。
一瞬の出来事で、守護者の身体の中心部分が消滅していた。守護者はアイラ姉に襲いかかった体勢のまま、沈黙した。
どうやら、これで決着がついたようだ。