391 決着の時?
神樹の迷宮の守護者との戦いは、激しい乱戦となっていた。迷宮の守護者のステータスはオレの鑑定魔法では見えなかったが、アイラ姉が言うにはレベルは1200という強敵だ。
守護者も迷宮の植物を操る力を持っていて、さらに眷属と思われる魔物も複数現れて、気の抜けない戦いが続いている。
「聖魔退斬剣!!」
聖剣術を放ち、迫りくる植物を排除した。
迷宮の植物の枝や蔦くらいなら神聖剣術を使うまでもないが、斬り払ってもすぐに新たな植物が生えて襲ってくるので、一見キリがないように見える。
だが、おそらくは無限湧きではなく限界があるはずだ。下の階層に居た本体も、体力を消耗しながら操っていたからな。
守護者の体力がどれくらいあるかわからないが、倒し続ければ戦っているアイラ姉が有利になるはずだ。
――――――――――!!!!!
周囲を囲む枝の先からレーザー光線が放たれた。
この攻撃は下の階層でもやってきたから対処法はある。同じ攻撃が通用すると思うな。
――――――――――!!!!!
今度は枝の先から炎の玉が放たれてきた。
撃てるのはレーザー光線だけじゃないのか。
だが、この程度なら大した問題は······。
「うおっ······?」
向かってくる炎の玉をかき消そうと構えようとしたら、足が動かない。
下を確認すると、床の蔦がオレの足に絡みつきながら凍り付いていた。
もしかして蔦が「氷」属性の魔法を使ったのか?
オレは強引に氷を砕いて、その場を逃れた。
「気を付けてください。最上層の迷宮の植物は様々な属性攻撃を使用してくるみたいです!」
ミールの「氷」魔法も蔦が放つ魔法に相殺されて、効果が出ていない。
エイミの「炎」魔法やフウゲツさんの「風」の攻撃も的確に防がれている。
やはりコイツらは学習能力があるようだ。
同じ攻撃をしてもだんだんと耐性を持ち、効果が出なくなっている。
ひょっとしたらコイツらの属性攻撃も、こちらの攻撃を学習して使えるようになったのかも。
「フウゲツさん、エイミ、ミール! こっちに来て!」
今度は枝から凄まじい暴風が巻き起こった。
フウゲツさんの「風」の攻撃を学習したものか?
ともかく攻撃がどんどん多彩になってきている。
三人にオレの近くに集まってもらい、魔法障壁を張って、なんとかやり過ごした。
「あ、あぶなかったよ······」
「私達の攻撃が通じなくなってきてるわ。このままだとマズいわね······」
エイミがホッと息をつき、フウゲツさんが冷や汗を拭った。
確かにこのままだとヤバそうだ。
多勢に無勢過ぎるし、一気に戦力を削る必要があるな。
迷宮の植物が八方から、レーザー光線やら炎やらの攻撃を放ってきた。
オレは展開している魔法障壁にさらに魔力を込めて、攻撃をすべて弾く。
足下の蔦はすでに排除したので周囲に集中できるが、攻撃が苛烈過ぎて、このままだと破られそうだ。
「三人でオレの代わりに魔法障壁の維持を頼む! 強力な範囲魔法でコイツらを一掃する!」
「うん、わかったよ!」
「お任せください、レイさん」
「そっちは任せたわよ、レイ君」
三人に周囲の攻撃を防ぐ魔法障壁のことは任せて、オレは魔法を撃つ準備に入る。
単純な範囲魔法や、今まで使ったものだと効き目がない可能性があるので、出来る限りの魔力を込める。
「テラ·スパークヴァース!!!」
障壁が破られるのと同時にオレは「雷」属性の魔法を放った。
天井付近から発生した雷が床に落ちて、強力な電撃が周囲の植物や魔物を襲う。
もちろんオレ達には被害が及ばないように、新たな魔法障壁を張るのも忘れていない。
「雷」属性は勇者専用魔法だからなのか、同じくらいの魔力を込めても、他の魔法よりも威力が桁違いに出る。
まあオレは勇者じゃないはずなんだけど、そんなことはこの際どうでもいい。
迷宮の植物も魔物も、焼け焦げて炭化して消滅していく。思っていた以上に効果的だ。
「さすがレイ君ね。まさか一発で全滅させるなんて······」
フウゲツさんが関心しているのか、呆れているのか半々な口調で言った。
エイミとミールは普通に称賛してくれたが。
だが、まだまだ油断は禁物だ。
あくまでも一時的に全滅させただけで、すぐに新手が現れるだろうからな。
と思っていたのだが、周囲の植物が再生する様子がない。魔物も同様に新たに現れる気配はない。
もう種切れなのかな?
だとしたらちょっと拍子抜けだけど、それならそれで助かる。
――――――――――!!!!!
激しい衝突音が響いた。
アイラ姉と迷宮の守護者の激突音だ。
そうだ、まだアイラ姉が戦っているんだった。
見たところアイラ姉は傷らしい傷は負っていないが、守護者の方はかなりのダメージを負っているように見える。
周囲の植物が再生しないのは、守護者がアイラ姉との戦いに集中していて、操っている余裕がないからか?
アイラ姉なら、このまま一気に決められるかな?