388 迫り来る迷宮の植物の本体
オレの使用した「聖」魔法の効果が切れ、再び迷宮の植物が襲いかかってくる。
「聖」なる領域を作り出せるこの魔法は、消費魔力が膨大な上に、連続で使用することができない。
たとえ使用するのに必要な魔力が充分であっても、一度使うと再使用するには30分くらいの時間が必要だ。
だが、ほんの10分くらいだが休憩できたおかげで、全員体力がそれなりに回復している。
攻略続行は可能だろう。
迷宮の植物の攻撃はどんどん激しくなっているが、エイミ、ミール、フウゲツさんのレベルも撃退する度に上がっているので、問題なく対応できている。
寧ろ、敵の攻撃よりもこちらの成長の方が早いくらいだ。
どうしてもヤバそうな攻撃が来た場合は、アイラ姉がなんとかしてくれている。
もちろん、オレも皆を守りながら動いている。
問題······というか気になることがあるとすれば、オレのレベルが未だに999から変動ないくらいだ。
アイラ姉のように限界突破するには、どうすればいいのだろうか?
そうこうしている内に299階層にたどり着いた。もう次で最上層だ。
この階層もボスが現れそうな大部屋のフロアだ。
けど、上に続く道が見当たらないんだが。
――――!! ――――!! ――――!!
このフロアの植物も一斉に動き出した。
先へ進む道は無く、来た道もすでに大量の蔦に覆い尽くされ、塞がれている。
ここで迷宮の植物と決着を着けろってことか?
「どうやら、アレが迷宮の植物の本体のようです」
ミールが指差す先に太い枝に蔦が複雑に絡み合ってできた、どう表現していいかわからない巨大な物体があった。
確かにフロア中の植物は、すべてコイツと繋がっているようだな。
[ヒュージ·エレメンタル] レベル―――
〈体力〉2759000/4085000
〈力〉――――〈敏捷〉――――〈魔力〉――――
〈スキル〉
――――Unknown―――――
鑑定魔法使ってみたら表示が出た。
とはいえ、ほとんどのステータスが塗り潰されたようになっていて不明だが。
かろうじて見える〈体力〉が半分くらい削れているが、今までの魔物と比べて、あまりに膨大だ。
[ヒュージ·エレメンタル]
複数の精霊が一つとなった集合体。
ミールの言う通り、コイツが元凶の可能性が高いな。〈体力〉が減っているのは、おそらくこの階層に来るまでに、コイツの一部である、枝や蔦を撃退し続けていたからだろう。
無限湧きかと思ったが、限界はあるようだ。
「風神天星華!!!」
フウゲツさんが元凶に向けて先制攻撃を放った。
鋭利な刃物のような烈風が、絡みついた蔦を切り刻んでいく。
だが蔦はすぐに再生し、フウゲツさんを敵と認識したのか床、壁、天井のあらゆる場所から攻撃を繰り出してきた。
「フウゲツ殿!」
アイラ姉が迫り来る攻撃を防ぎ、フウゲツさんを助けた。それでも迷宮の植物の攻撃は収まらず、次々と二人に襲いかかっている。
オレもこのまま黙って見ているつもりはない。
あれから充分に時間は経ったし、もう一度「聖」魔法を使用した。
「アブソリティ·センクチュアリ!!」
――――――――――!!!!!
オレが魔法を使ったのとほぼ同時に、元凶からまばゆい光が放たれ、「聖」魔法が打ち消されてしまった。
マジか······!? 元凶には効果がないのかよ。
いや、ひょっとして一度使って見せてしまったことで学習したのか?
周りに目を向けると、下の階層では有効だったエイミとミールの魔法も的確に防がれているのが見えた。
同じ攻撃は通用しないと思った方がよさそうだな。
――――!! ――――!! ――――!!
周囲を囲む蔦の先から、次々とレーザー光線を撃ってきた。かなりの威力で2、3発受けるだけで魔法障壁が貫かれた。直撃したら身体に風穴が開きそうだ。
「レイ、フウゲツ殿達を頼む。私の奥義で、あの本体を両断する!」
アイラ姉に言われ、オレは三人を守ることに専念する。アイラ姉の奥義なら元凶を倒すことも、おそらく可能だろう。
問題は、まだここは299階層だから最奥ではないということだ。つまりあの元凶は迷宮の守護者ではなく、ただの中ボスだと思われる。
迷宮の守護者も学習するタイプだとしたら、あまり手の内を曝け出すのは、悪手になりかねないが······。
「百花繚乱······桜花無双撃!!!」
元凶に向かっていくアイラ姉に周囲の蔦が襲いかかるが、それらを流れるように躱し、元凶を斬りつけた。
アイラ姉の奥義によって、元凶が大きく斬り裂かれた。
「ム、これでは仕留め切れんか。ならば弐の太刀······紅葉乱舞撃!!!」
さらにアイラ姉が追い打ちをかける。
元凶もやられっぱなしではなく蔦で攻撃したり、レーザー光線を放ったりして反撃しているが、アイラ姉には一切通用していない。
「これでトドメだ。終の太刀······幻想無限桜!!」
三段構えの奥義がすべて炸裂し、アイラ姉の宣言通り元凶は両断された。
元凶は光の粒となって消滅していく。
部屋を覆う植物も動きが止まり、再び襲いかかってくる気配はなくなった。
どうやら元凶を倒せたと判断していいようだな。
これで残るは最上層の守護者だけだな。