387 一時の休息
絶え間無く襲い来る迷宮の植物を撃退しながら、最上層を目指し進んでいく。
本当に休む暇もなく襲いかかって来るので、なかなかに厄介だ。
アイラ姉は全然平気そうだが、エイミ、ミール、フウゲツさんに疲労の色が見え始めている。
ゲームなどではこういう無限湧きのような敵は、本体か元凶となる奴を倒せば消滅するものなんだけど、その本体らしき敵が見当たらない。
やはり最上層にいると思われる、迷宮の守護者が元凶なのだろうか?
「きゃっ······!?」
「姉さん!?」
エイミが蔦に足を取られ、転んでしまった。
すかさずミールが駆け寄るが、二人に向けて一斉に周囲の植物が襲いかかった。
「ファイア!!」
オレは「炎」の下級魔法を連続で放って、迫りくる迷宮の植物を焼き払い、二人を救った。
しかし焼け焦げた蔦の下から次々と新たに生えてきて、再び襲いかかってくる。
「エイミ、ミール! 走れる?」
「う、うん······大丈夫だよ······!」
「すみません······助かりました、レイさん」
二人の手を引き、植物の猛攻から逃れる。
エイミは派手に転んでいたが怪我はないようだ。
「ミール、一緒に魔法を頼む!」
「わかりました、レイさん。魔力はまだまだ余裕があります」
走りながら魔力を集中し高める。
そしてミールと一緒に特大の「氷」魔法を放った。
コイツらは燃やすよりも、氷漬けにして動けなくした方がいい。
「「ディプソード·プリズン!!!」」
オレとミールが同時に放った「氷」の最上級魔法によって、迫りくる植物を完全に氷漬けにした。
床や壁、天井に至るまですべて凍り付いたため、少なくとも後方からの植物の動きは封じることができた。
やはり焼き払うよりも、この方が効果的だな。
もっとも、あくまでも一時的に封じただけで、しばらくしたら氷を砕き、また出てくるだろうけど。
「レイ、エイミ、ミール! こっちだ!」
アイラ姉の指す先には上へと続く道があった。
アイラ姉とフウゲツさんが上の階層へと登る道を先に進み、オレ達もそれに続く。
現在298階層まで到達した。
最上層まであと少しだ。
――――――――――!!!!!
だが、まだ迷宮の攻撃は収まらない。
壁から木の幹ように太い枝が飛び出し、進路を塞いできた。
さらに床からは無数の蔦が現れる。
本当にキリがないな。なんとか無力化できる方法はないか············あ、そうだ。
「アブソルティ·サンクチュアリ!!!」
オレは「聖」属性の最上級魔法を使った。
周囲に「聖」なる力が広がり、襲いかかってきた枝や蔦がすべて消滅していく。
うっかり、この魔法のことを忘れていた。
オレはあらゆる属性魔法を扱えるのだが、使える魔法が多すぎるのも考えものだな。
完全に今の今まで頭から抜けていた。
まあ、それはいい。
「聖」なるフィールドのおかげで、枝や蔦は襲いかかっては来ず、ただの壁や床になった。
この魔法の効果は10分ほど続くから、その間は迷宮の植物もオレ達を攻撃できない。
これで少しは休憩できるな。
この魔法は消費魔力が大きいが、オレの自然回復力なら大した消耗ではない。
「これは······「聖」魔法ですか」
「聖なる光で魔物も入って来られないみたいだよっ······」
思っていたよりも疲労していたようで、攻撃が来ないとわかるとミールとエイミが膝をついた。
「フム、この魔法は私には使えないようだ。こんな切り札を隠していたのか、レイ」
「ごめんアイラ姉、使えるの忘れてただけ······」
この魔法は(女神の祝福〈仮〉)スキルを手に入れてから使えるようになったからな。
アイラ姉は、まだ特別ボーナススキルを解放していないので使えないようだ。
もっとも解放していなくてもアイラ姉はすでに充分強いのだが。
「助かったわ、レイ君。私も少し休ませてもらうわ······」
フウゲツさんもかなり疲弊していた。
迷宮の植物の猛攻は凄まじかったからな。
レベル100〜300くらいの魔物が無数に、次々と現れていたようなものだったし。
ただ、経験値は得られていたようでエイミ、ミール、フウゲツさんのレベルがそれなりに上がっていた。
疲労している理由にレベルアップの反動も少しはあるのかもな。
「どうする? 一度迷宮から脱出してメンバー交代するか、もう五人パーティーなんて言ってないで全員で攻略することも考えた方がいいんじゃないかな」
神託を達成するのにダンジョンコアを手に入れる必要はないはずだし、もう攻略優先にした方がいい気がする。
「レイの言うことも一理あるが、無限に湧いて来るような相手に多人数で挑んでも、ジリ貧になるだけで根本的な解決にはならぬだろう」
確かに、倒しても倒してもキリがなさそうだからな。経験値稼ぎにはいいかもしれないが、そんなことを言っている時でもないし。
「ワタシなら大丈夫です。攻撃のパターンも読めてきましたから、もう足を引っ張るような真似はしません」
「わたしも少し休めれば大丈夫······」
ミールとエイミは平気だと主張し、このまま迷宮攻略続行を希望した。
「私も平気よ。最上層までもう少しのようだし、一気に進めてしまいましょう」
フウゲツさんも同じ意見のようだ。
アイラ姉は息一つ乱していないし、心配はいらないだろう。
オレも大して疲れてはいない。
間もなく「聖」魔法の効果が切れる。
ちょっとの休憩でも皆の体力は大分回復しているし、このまま突っ走るとしようか。