386 精霊の試練
周囲を精霊と思われる、無数の光の玉に囲まれてしまった。何か、オレ達をロックオンしているように見えるのだが······。
何が起きてもいいように警戒して身構えていると、周囲の光が壁や床、天井に吸い込まれるように消えていった。
そして、それと同時に部屋全体が激しく揺れ出した。
「気を付けろ! 攻撃が来るぞ!」
アイラ姉が叫ぶと周囲に、張り巡らせられていた木の枝や蔦が意思を持ったように、オレ達に襲いかかってきた。
皆、それぞれ散って攻撃を回避する。
「生まれたての精霊のため、聞き取れた言葉が途切れ途切れでしたけど、ワタシ達に試練を与えると言っているようです」
ミールが言う。精霊の試練······。
つまりは立ち塞がる敵を倒せということか。
けど、部屋全体が襲いかかってくる感じで、倒すべき本体が見当たらないのだが。
このフロアごと焼き払ってもいいのかな?
「烈風鳳仙花!!」
フウゲツさんが「風」魔法で襲い来る枝や蔦を切り刻む。しかし、すぐに新たに壁や床から生えてくる。
ちょっとやそっと切り刻んだくらいじゃ意味がない。しかもこの枝や蔦、かなりの強度だ。
一つ一つがレベル200〜300くらいはあるかもしれない。
「アブソリュート·ゼロ!!」
ミールが「氷」魔法で迫りくる植物をすべて氷漬けにした。床や壁ごと凍り付いているので、新たに生えてくる様子はない。
焼き払うより確実かもしれないな。
「ひぃやあーーっ!!?」
すごい悲鳴が響いたので振り向くと身体中、無数の蔦に絡み付かれているエイミの姿があった。
蔦は生き物の触手のようにエイミの身体に食い込んでいて、衣服の中にまで侵入していた。
こんなことを言ってる場合じゃないんだけど、今のエイミは直視するにはアレな状態だった。
「レ、レイ君······んっ······み、見ないでぇ······」
顔を赤らめ、息も絶え絶えに言うエイミが色々とヤバい。このままだとR18な展開になってしまいそうだ。
「真空斬っ!!」
アイラ姉が剣技で、エイミに絡みついた蔦を的確に切り刻み、救出した。
怪我はなさそうだが、衣服がかなり乱れた状態となっていたため、アイラ姉がオレの視界を塞ぎ、エイミは慌てて身なりを整えた。
「姉さん、レイさんを誘惑するのは時と場所を選んでください」
「そんなつもりはなかったよっ!!?」
本気で言っているのか冗談なのかわからないミールの言葉に、エイミは真っ赤になって叫んだ。
誘惑って······確かにちょっとドキドキしたけど。
「······ワタシも姉さんと同じような姿を晒した方がよかったでしょうか?」
そんなオレの考えを見透かしたように、ミールがそう言ってきた。いやいや、時と場所を選べと言ったばかりだろう。
「レイ、ミール! バカなことを言ってないで気を引き締めろ!」
アイラ姉の言う通りだな。
ミールもすぐに周囲の警戒を優先した。
至るところから枝や蔦をが現れ、キリがないどころか、どんどん数を増やしている。
鑑定魔法でも本体らしき存在は表示されず、このままではマズい。
いっそ、本当にフロア全体を焼き払うべきか?
「どうやら上へ続く道は開いているようだ。襲い来る蔦を排除しつつ、先を急ぐぞ!」
アイラ姉の言うように、先に進むための道は開いていた。つまり、コイツらは倒す必要はないということか。
それなら遠慮なく攻略を進めるだけだな。
アイラ姉が先頭を走り、襲い来る植物を排除して、道を切り拓いていく。
オレ達もアイラ姉に続いて駆け抜けていった。
「エンドレスフレイム!!!」
上の階層に上がる直前に、後ろから迫る蔦に向けて「炎」の最上級魔法を放ってみたのだが、見える範囲の植物はすべて焼き払えたが、すぐに新しく生えてきた。
フロア全体を吹き飛ばすくらいの威力で放ったのだが、迷宮の壁はビクともしていなかった。
迷宮は思っていた以上に頑丈のようだ。
296階層、297階層と一気に駆け抜けていく。
というより、絶え間無く迷宮の植物が襲いかかって来るので、休む暇もない。
本当に迷宮そのものが魔物化したみたいだ。
しかも上の階層に進むにつれて、攻撃の激しさが増している。
初めは蔦が絡んできて、締め付けるくらいの攻撃だったが、今は枝が鋭利な刃物のようになっていたり、レーザー光線のような魔法攻撃まで飛んできたりしている。
オレやアイラ姉のレベルなら攻撃を受けても致命傷にはならないが、エイミ、ミール、フウゲツさんはまともにくらえば軽くないダメージを負ってしまうほど強力だ。
オレとアイラ姉で、三人を守りながら進む形となっている。あまり良い状況とは言えない。
いっそ転移魔法で一時撤退を考えた方がいいかもしれないな。