385 神樹の精霊
いよいよ神樹の迷宮の最後の探索が始まる。
メンバーはオレにアイラ姉、フウゲツさん、そしてエイミとミールの五人だ。
ダンジョンコアを手に入れるのを目標に攻略することにしたので、この階層から五人パーティーで探索する。
迷宮の守護者に挑むまでは五人以上でもいいと思うが、念の為だ。
シノブや他のメンバー達は外で待機している。
「さあ、行くぞ。各自、今まで以上に周囲を警戒するように」
現在291階層。アイラ姉とオレが皆を先導しながら、迷宮を進んでいく。
ちなみにオレのレベルは999。
アイラ姉は現在、レベル1127らしい。
エイミ、ミール、フウゲツさんはそれぞれ600前後といったところだ。
パーティーメンバーにエイミとミールを選んだのは、神樹の迷宮の守護者は精霊が関係している可能性があるという、ミールの言葉を聞き入れたからだ。
エルフは精霊との関係が深い種族らしく、普通の人間には聞けない、精霊の声を聞くことができるそうだ。
二人は純粋なエルフではなくハーフだが、オレ達と共にレベルアップしてきたことで、精霊の存在を認識しやすくなったらしい。
迷宮の守護者と会話が出来れば、戦わずに済むかもしれないし、何故神樹に迷宮が現れたのかわかるかもしれない。
まあ守護者が精霊ではなく、ただの魔物の可能性もあるけどね。
「うん、確かにミールの言う通り、精霊の存在を感じるかも······」
慎重に迷宮を進みながら、エイミが言う。
オレは精霊とやらを見たことないので、どんな感じなのか、いまいちわからないが。
「ミールが言うには、神樹の精霊が何かを訴えかけているのだったか?」
「すみません、そんな気がするだけで確証はありません。エルフの里にいた頃は存在をわずかに感じるだけで、精霊の声なんて、まったく聞こえませんでしたから」
アイラ姉の問いに、ミールは自信なさげに言った。
まあ精霊の声が聞けなくても神樹の迷宮は攻略するつもりだし、そこまで気にする必要もないだろう。
女神と獣神の神託が下ったことと、精霊が何かを訴えかけていることが関係あるのかもしれないが、わからないことを考えてもしょうがないしね。
「フウゲツさんは精霊を声を聞くことはできないの?」
ちょっと気になったので聞いてみた。
エルフは精霊と関係が深いそうだが、幻獣人族はどうなのだろうか?
フウゲツさんはオレの問いに、首を横に振った。
「私にはわからないわね。そもそも精霊は目の前に存在していたとしても、見ることすら難しいようだし」
フウゲツさんも精霊の存在は知っていても、実際に見たことはないらしい。
やっぱり精霊の声を聞けるのは、エルフ特有の能力なのかな。
そういった会話を挟みつつ、警戒しながら迷宮を進んでいく。
292階層、293階層、294階層と順調に進めている。いや、順調といえば順調なのだが······。
「妙だな。ここまで魔物の気配がまったくないとは」
アイラ姉が言うように、ここまで魔物に襲われることなく進んで来ていた。
探知魔法でも周囲に魔物の反応はない。
魔物が現れないというのは結構なことなのだが、迷宮に入ってまったく現れないとなると、寧ろ不気味だ。
迷宮の構造は今までと変化はないため、余計にそう感じる。虫だらけだった下の階層とは、景色が違って見えてしまう。
「このまま順調に進めればいいのだけどね······」
「何か良くない前触れか、私達を油断させるための迷宮の罠の可能性もある。レイ達も警戒は怠るなよ」
フウゲツさんも魔物が現れない、今の状況を警戒していた。こんな状況じゃ油断するよりも余計に警戒してしまうが。
そうして295階層までたどり着いた。
この階層はボスが出て来そうな大部屋のフロアだ。だが、相変わらず魔物の気配はない。
「待て、何かいるようだぞ」
アイラ姉が何かを見つけたようだ。
オレもアイラ姉の視線の先を見てみると、何やらフワフワと小さな光の玉がいくつも浮いていた。
目を凝らさないと見えないくらいの光なので、気付かなかった。
「あれは、どうやら精霊みたいですね」
「うん、わたしも初めて見た······」
ミールとエイミが光を見て言う。
あれが精霊なのか?
オレの精霊のイメージは、人の姿をした超常的な存在という感じだったのだが。
正直、あれはホタルの親戚かと思うような見た目だ。
「存在が希薄に思えますから、生まれたての精霊なのではないでしょうか? 母様から、そう聞いた覚えがあります」
生まれたての精霊か。
鑑定魔法で見ても何も表示されない。生き物のようにフワフワ漂っているけど、生物かもわからないな。
けど、特に害はなさそう············ん?
なんか光の玉がどんどん増えていってる気がするんだが。そう思っている内に、あっという間に周囲を覆い尽くさんばかりに増殖していった。
オレ達は無数の光の玉に囲まれてしまった。
精霊達に歓迎されているのなら良いのだが、見た感じ、あまり良い雰囲気じゃないように見えるのだが。