376 話し合いを終え、そして神託下る
その後、休憩を終えてゲンライさん達とトゥーレミシアの話し合いが再開された。
色々と情報交換をして、最後にトゥーレミシアは幻獣人族の里には手を出さないこと、他の魔人族、特に魔王軍などには幻獣人族の里の情報は話さないことを約束してくれた。
トゥーレミシアが人形軍団を率いて侵略してきていたら、とんでもないことになっていただろうからな。穏便に済んでよかった。
しかし、話し合いを終えてトゥーレミシアが人形娘達を連れて帰ろうとしたら、また問題が起こった。
「――――――やだぁ~!! メリッサだけズルいズルい! ヴェルデも残るーーっ!!」
メリッサだけは幻獣人族の里に残らせ、トゥーレミシアは他の人形娘達は連れて帰るつもりだったようなのだが、見ての通りヴェルデが駄々をこねだした。
オレの身体にしがみついて、絶対に離れない姿勢を取っている。
「――――――ヴェルデ、それ以上創造主に逆らうのなら、またバラバラにした後、ゲテモノプールの刑に処すわよ?」
人形娘達のリーダー格のアウルムが、ヴェルデを脅すように言う。
ゲテモノプールって······なんだその罰は?
ヴェルデもその罰が怖いようで震え上がるが、それでもオレから離れずに、ウーッとアウルムを威嚇していた。
「――――――そんならウチも残りたいわ〜」
「――――――もちろん私も主人の側で仕えます」
そしてパールスとサフィルスも、ここに残りたいと言い出した。アウルムともう一人、銀髪の女性シルヴァラがそんな二人に苦言を呈している。
ちなみに人形娘達はアウルムがリーダーで、シルヴァラがサブリーダーという位置付けらしい。
その様子を見て創造主は頭を抱えていた。
「············今は特に殺戮人形を動かす案件はないから、自由にするのは構わないんだけど」
そう言いながらトゥーレミシアがオレを睨みつける。一応、和解(?)したのだが、オレに対して言いたいことがまだまだあるという感じだ。
自由にするのは構わないけど、オレの側にいるのが問題なのだろう。
「貴方······これ以上、私の大事な子達に変なことを吹き込まないで頂戴ね······!!」
トゥーレミシアが引き攣った笑みをうかべて、オレの頭を掴んだ。所謂、アイアンクロー状態だ。
細い指でオレの頭をギシギシと締め付けてくる。
この人、〈力〉はオレよりも上かもしれない。
結論から言うとサフィルス、ヴェルデ、パールスの三人は今まで通り幻獣人族の里に残ることになった。
ゲンライさんとフウゲツさんの許可も出たので、その点は問題ない。
寧ろ、トゥーレミシアの方が最後まで渋っていたが、三人の自主性を尊重することにしたようだ。
「この子達の我儘を聞き入れてくれて感謝するわ。ただ、あの男とふしだらな行為をさせるのはやめさせてほしいわ」
「ウム、レイには私から厳しく言っておこう」
トゥーレミシアの言葉にアイラ姉が頷き答える。
オレにじゃなくて、人形娘達に厳しく言ってほしいのだが。
まあ、一応オレは主人とされているから言う事を聞いてくれるので、トゥーレミシアの逆鱗に触れないように、よく言い聞かせておこう。
「――――――サフィルス、貴女が主人と呼ぶ男が欲情のまま襲いかかってくるようなことがあれば、迷わずコレを使いなさい」
向こうではアウルムがサフィルスに何かを渡していた。何やら禍々しい雰囲気を感じる短剣だ。
(即死の短剣〈アイテムランク9〉)
攻撃力+???〈状態異常攻撃、呪詛付与〉
一度切り付ければ対象にあらゆる状態異常を与え、三度切り付ければ耐性のない者は即死させる効果を持つ短剣。
おい。なんつー恐ろしい物を渡してるんだ。
〈アイテムランク9〉って、聖剣よりもランクが上じゃないか。サフィルスにオレを殺させるつもりか?
オレは(全状態異常無効)のスキルを持っているけど、即死効果って防げるのだろうか?
試してみるわけにもいかないが······。
「――――――サフィルス、創造主が危惧するように男という生物は大変危険なもの。迷いは一切不要。それと話は変わるけど、毎朝の身だしなみについて、肌の手入れに髪質チェック、さらには······」
「――――――アウルム、もうわかりましたから、助言は不用です」
なんだかアウルムって、妹を溺愛しているお姉さんって感じだな。
そしてサフィルスは、そんなアウルムをぞんざいに扱っているように見える。
「――――――アウルムはサフィのこと、えらい可愛がっとるからな〜。サフィに感情が芽生えて嬉しいんやろな〜」
パールスが言う。やっぱりそうか。
ああして見てるだけなら、仲の良い姉妹だからな。
そんなアウルムとサフィルスの様子を、シルヴァラが輪に入りたそうに見ている。
シルヴァラは無口なのでわかりづらいが、アウルム同様にサフィルスを気にかけているようだ。
あっちの方では、ヴェルデと他の人形娘達が何か言い合っている。
特に黄色い髪の少女と桃色髪の少女がヴェルデ達だけズルいとか、自分も遊びたいとか言っているのが聞こえた。
まんま子供同士のケンカみたいだな。
人形娘達はみんな仲が良いようだ。
人形娘同士で色々と揉めていたが、最終的には全員納得して話がまとまったようだ。
トゥーレミシアと連れて来た6人の人形娘達は、突き破った結界を修復して帰って行った。
なんだかんだで話の分かる人だったからよかった。
エルフの里の事件について調べているようだし、今後も関わることになるかもしれないな。
正直、トゥーレミシアは敵に回したくないと思った。
ようやく一件落着と思って一息ついたところで、メニュー画面が勝手に開き、〈神託〉の項目が点滅していた。
〈至急、神樹グランフォネストの迷宮を攻略せよ〉
これが表示された神託の内容だった。
え? なんで今頃、そんな神託が?