375 トゥーレミシアと姉妹
「エルフの里の事件にはダルクローアという、私と同格の神将が関わっている可能性があるわ」
トゥーレミシアがそう口にした。
ダルクローア······聞いたことのない名だが、神将ということは相応の実力者なのだろう。
そんな大物が関わっているかもしれないのか。
「············それは、どういった人物なのですか?」
ミールが絞り出すように言う。
自分達や両親を陥れたのかもしれない人物の情報を聞いて、さすがのミールも表情が強張っている。
エイミも無言だが、同じような表情だ。
「神将の一人で、頭が回る冷酷な男よ。私と同格とは言ったけど性格は最悪で、ハッキリ言って同類と思われたくない、最低のクズヤロウね」
かなり辛辣な言葉だな。
ここまで言うなんて、相当にその人物を嫌っているんだろうな。
ダルクローアという名前を口にもしたくないらしく、吐き捨てるように言った。
「ダルクローアが5年くらい前に、エルフの里で暗躍していたことを突き止めたわ。ただ、ある日突然手を引いたようだけど」
5年前というと、確かエイミとミールの父親が事件を起こしたのと同時期だな。
そんな時期に何やら暗躍していたと。
なるほど、確かに怪しいな。
「何を企んでいて、何故手を引いたのかは、まだわかっていないわ。でも、完全に手を引いたわけでもないみたいね。最近になって、またエルフの里周辺で動きを見せているわ」
それってマズくないか?
もし二人の父親が起こした事件にダルクローアが関わっているのなら、また同じような事が起きるかもしれない。
「そいつが父様と母様を······」
「まだ確定したわけじゃないけどね。続報が出たらメリッサを通して、貴女達にも教えてあげるわ」
トゥーレミシアとバルフィーユがエルフの里の事件について調べてくれているわけか。
それならエイミとミールのトラウマとも言える、事件の真相が掴めるかもしれないな。
とはいえ、トゥーレミシアとバルフィーユも魔人族であり、この二人がエルフの里で何か企む可能性も無いとは言えない気がするが············二人とも魔人族だけど悪い人物という印象はないから大丈夫かな?
「なんなら貴女達、私と一緒に魔人領に来る? デューラが事件を起こしたせいで、エルフ達から鼻つまみにされているんでしょ? デューラとメアルの娘なら悪いようにはしないわよ」
トゥーレミシアが二人にそんな提案を出した。
何か企んでいる感じはなく、本当に二人の身を案じての言葉のようだ。
二人は父親の事件のせいでエルフの里の人達からは嫌われ、奴隷落ちという仕打ちを受けていた。
今まで辛い思いをしてきたのは事実だ。
「せっかくですが、遠慮させてもらいます」
「わ、わたしも············」
二人の返答は否だった。
「あら、残念ね。私のこと信用できないのかしら?」
拒否されたが、トゥーレミシアに不機嫌な様子はない。本当に残念そうな表情だ。
「いえ、あなたが信用できないとかそういうわけではありません。ワタシ達がエルフの里で迫害を受けていたのは事実ですが、今は周りの環境に恵まれているので心配いらない、という意味です」
ミールが父親の事件が原因で奴隷落ちしたこと、そして学園長に救われ、現在は不満のない環境で暮らせていることを簡単に話した。
エイミはミールに同意するように、横でウンウン頷いている。
「そう。幸せに過ごせているのなら、私が余計なことをする必要はないわね」
「まあ、一番の理由はレイさんと離れたくないからなんですけどね」
不意にミールがオレに手を絡めてきた。
そこは良い話で平和に締め括るべきだったんじゃないだろうか?
オレを見ながらトゥーレミシアは眉をしかめた。
「············また貴方? 私の大事な子達とのこともあるけど、この子達にまで手を出していたなんて、浮気性の節操無しなの?」
酷い言い様だ。
優柔不断だという自覚はあるけど、浮気性と言われることは否定したい。
「この男はやめておきなさい。人畜無害そうな顔をして、実はとんでもない変態よ。なにせ私の子達に······」
「トゥーレミシアさん、少し待ってください」
トゥーレミシアの言葉をミールが遮った。
あぶない、今トゥーレミシア、オレが仮面の姿になっていた時のことを暴露しかけた。
トゥーレミシアとミールが何やらボソボソ言い合い、エイミは訳がわからない表情でキョトンとしている。
小声で話しているため、二人が何を言っているのか聞き取れない。
内容がすごく気になるんだが······。
「へぇ······貴方、あの姿は他の人達には秘密にしていたの。これは良いことを聞いたわ」
話し終えるとトゥーレミシアがオレを見て、不敵な笑みをうかべた。美人なのに背筋が寒くなるのを感じる、あまり嬉しくない微笑みだ。
ひょっとしてこれは、弱みを握られてはいけない人に知られてしまったのでは?