閑話② 1 ドワーフ工房
今日はオレとシノブの二人でアルネージュの町の第六地区に来ている。
ここは職人地区と呼ばれていて文字通り様々な職人が働いている地区だ。
オレ達はその地区にあるドワーフ工房という所に用がある。ドワーフとは人間とも獣人とも違うドワーフ族という種族だ。見た目は髭面の背の低いオッサンといった感じで、ゲームなんかに出てくるドワーフとほぼ同じだった。
主に武器や防具を作り出す鍛冶師としての仕事をしているが、武器とかだけでなく鍋やタンスなどといった日用品も作っている。
「おう、注文の品は出来てるぜ。持っていきな」
工房長の部屋に行くとドルフさんがオレ達に応対してくれた。
ちなみに注文の品とは鍋や食器など日用品だ。
アイラ姉のスキル(アイテム錬成)で作ることも可能なんだがスキルで作り出した物は言ってみれば性能は量産品のようになってしまう。
一流の職人が作る物とスキルで作った物では、やはり職人が作り出した物の方が性能ははるかに上だ。
まあ量産品が悪いわけじゃないんだけどね。
「それで、頼んでたやつは持ってきてるんだろうな?」
「これでいい?」
オレはドルフさんに素材召喚で出した物を渡した。
袋の中身は主に鉱石だ。
オリハルコンも少し入れている。
「おお······相変わらず上等な素材ばかりだな。助かるぜ、これで仕事が捗るってもんだ」
他のドワーフの職人達には知られていないが、工房長のドルフさんにはオレ達がミスリルやオリハルコンなどの貴重な素材を商業ギルドに流していることを話している。
職人気質もあり口も堅そうなのでオレ達のことを言いふらすこともないだろうという判断だ。
ドワーフ達の間では誰がオリハルコンを持ち込んだのかで一時は大騒ぎになっていたらしい。
騒ぎを鎮めてもらうためにあえてドルフさんには話した。
もちろんオレ達が異世界人だとか余計なことは話していないが。
その為、こうしてたまに希少な素材を持ってきている。注文した物の対価という名目で。
「親方~、注文受けてた品出来たっす」
小柄な女の子が大きな箱を抱えて部屋に入ってきた。
箱には様々な武具が入っていた。
これ相当重いはずだが······見かけによらず力持ちな子だな。
「おう、そこに置いておけ」
「って親方!? なんすかそれ! 希少な鉱石がいっぱいっすよ!?」
女の子はドルフさんが持っていた袋を見て叫ぶ。
オレが今渡した素材だ。
ドルフさんもしまった、といった表情を浮かべた。
「白金にミスリル、うわ!? これオリハルコンっすか!? どうしたっすかコレ!?」
「勝手に開けて見るんじゃねえ!」
ドルフさんの拳骨が女の子に落ちた。
「う~······痛いっす。ってあれ? お客さんっすか? なんで親方の部屋に············」
涙目の女の子がオレ達に気付いた。
シノブと同じくらいの年かな?
ふわふわの所々跳び跳ねた髪型の可愛らしい子だ。
下っ端口調なのは職人気質だろうか。
「どこかで見たような······あー!? 思い出したっす! 町の英雄様っすよね!? 聞いたことあるっす! じゃあもしかしてこの鉱石持ってきたのも············」
「オメエはもう黙ってろ!!」
再びドルフさんの拳骨が落ちた。
しかしまずいな。
オレ達がオリハルコンとか持ち込んだのがバレちゃったよ。誤魔化すのは無理かな?
「すまねえな、俺の娘が············」
「ドルフ殿の娘さんでござるか?」
シノブが驚いたように言う。
オレもビックリだ。
親子って感じじゃなかったぞ。
「どうもっす、親方の娘のノギナっす! 噂の英雄に会いたいと思ってたので感激っす!」
ドルフさんの娘、ノギナは可愛らしい笑顔でそう言った。
英雄とか言われても正直ピンとこないんだがな············。
「英雄かはさておき、オレはレイだよ」
「拙者はシノブでござる」
とりあえず自己紹介をした。
「レイさんにシノブさんっすね、覚えたっす! ウチと同じくらいの年で英雄とか呼ばれるなんてすごいっすよ! ウチなんてまだ鍛冶師見習いを卒業したばっかなのにっす············」
同じくらいの年······?
シノブのことを言ってるのかと思ったけどオレを見ながら言ってたぞ。
「ノギナって年いくつなの?」
「今年で17になるっす」
え、ノギナってオレと同じ年?
シノブと同じか少し下くらいかと思ってたんだが。
ドルフさんの娘ってことは彼女もドワーフ族だろうし小柄なのは種族特性だろうか?
「レイさん、何か失礼なこと考えてないっすか?」
「いや、そんなことないよ············」
「まあいいっす。それよりも英雄様はオリハルコンの武器を持ってるって噂を聞いたんっすが、本当なんすか?」
どうしよう?
もうここまでバレたならいっそドルフさんに話した内容くらいならノギナにも教えるか。
「ああ、持ってるよ」
オレはアイテムボックスからオリハルコンの剣を取り出してノギナに見せた。
「おお~!? すごいっすよ、本当にオリハルコンの武器っす! さすがは英雄と呼ばれるだけあるっす············あれ? この剣············」
オリハルコンの剣を見て大はしゃぎだったノギナだが、じっくり眺めていると首を傾げた。
「この剣、確かにオリハルコン製っすけど出来がそこらの量産品みたいっすね? 悪い出来ではないっすけど、せっかくのオリハルコンの力をほとんど引き出せてないっすよ」
「おめえもそう思ったか? これ程の素材を使って惜しいと思うぜ」
ノギナの意見にドルフさんも頷いていた。
確かに以前にドルフさんに見せた時にもそんなことを言っていたな。
一流の鍛冶師が作るオリハルコンの剣はどれくらいの出来になるんだろう?
興味が出てきたな。
しかしドワーフ工房はオークの軍勢の件で武器や防具の修復や新調の依頼が大量に来ているとかで大忙しだったよな。
とてもオリハルコンの武器を作ってくれる余裕なんてないかな?
「作りたいっす! ウチに任せてっす、最高の武器を作ってみせるっす!」
試しに聞いてみたらノギナが手を挙げてそう言った。
ノギナって見習い卒業したばかりとか言ってたけどオリハルコンなんて扱えるのかな?
「バカ野郎! おめえにオリハルコンなんてまだ早え! ミスリルの加工すら怪しいだろうが!」
「で、出来るっすよ! ウチ、やれば出来る子っす!」
ドルフさんに反論するノギナ。本当だろうか?
[ノギナ] レベル22
〈体力〉490/540
〈力〉350〈敏捷〉160〈魔力〉120
〈スキル〉
(鍛冶〈レベル4〉)(炎熱耐性)(根性)
これがノギナのステータスか。
鍛冶スキルのレベル4か。
ドルフさんは(鍛冶〈レベル9〉)だ。
スキルのレベルは最高で10だと聞いたし、ノギナは鍛冶師としてはベテランになりかけているといった感じか。
これなら試しに作ってもらうのもいいかもしれないな。