373 トゥーレミシアとの話し合い ②
「私が幻獣人族の里に来たのは、私の大事な子達にはしたない行為をさせたり、ふしだらなことを吹き込んだりしている、そこの男を粛清するためよ······!」
トゥーレミシアがオレを睨みつけながら、そう言ってきた。ヤバい、冷静になったと思ってたのに怒りが再燃しだしている。
「レイ······だから普段から自重しろと、あれほど言っているだろう」
アイラ姉が呆れ半分で言う。
いや、自重しろと言われても、オレ自身はほとんど何もしていないと思うんだけど。
············何もしてないよな?
他の人達も、なんだかトゥーレミシアの言葉に納得しているように見えるんだけど?
「そもそも私の許可なく他人を主人登録していることがおかしいのよ! あなた達も、なんでその男を主人と認めているのよ!?」
トゥーレミシアが怒り心頭に言うが、その主人登録云々がよくわからないんだけど。
オレの立場からすれば、いきなり主人と崇め仕えますと来たため、ハッキリ言えばわけがわからなかったし。
「――――――私は私の意思でこの方を主人として崇めています。この方に敗れて以来、私の中に芽生えた感情に正直に生きたいと思い、今ここにいます」
サフィルスがそう答えた。
初めて会った時のサフィルスはロボットみたいで、感情なんてまるでないように見えた
以前のサフィルスと、今のサフィルスでは別人といっていいレベルで違う。
感情が芽生えた原因って、もしかしてオレが仮面姿で負かしたことだろうか?
「――――――主人はんの側におると、気分良くなるんよ。サフィの気持ちもわかるわ〜」
「――――――主人にくっついていると安心する!」
パールスとヴェルデも続けてそう言った。
懐かれるのはオレとしても悪くないんだけど、正直そこまで特別なことをした覚えはないんだよな。
人形娘達の話を聞いて、トゥーレミシアは納得するどころか、さらに表情が険しくなっていた。
「············やっぱり、あなたは危険ね。この子達がこんなに簡単に私以外の人物に懐くなんてありえないわ」
そう言われても困るのだが。
下手なことを言っても火に油を注ぐだけにしかならないと思うので、余計なことは言わないようにするが。
「えっと······そもそもサフィルスはなんで魔王軍と一緒にいたんですか? さっき魔王軍とはあまり関わりたくないって言っていたのに」
とりあえず気になっていたので聞いてみた。
確か最初は魔王軍幹部が仮の指揮者だとか言って、主人とされていたはずだ。
「仕方無かったのよ。関わりたくはないけど私も立場上、魔王にまったく協力しないわけにもいかないし。だから、まだ命を吹き込んだばかりのサフィルスを実験的な意味で貸したのよ。············ものすごく後悔しているけどね」
そういえばトゥーレミシアって神将と呼ばれる、魔人族の中でもかなり偉い立場なんだっけ?
神将ってのがどれくらいの立場なのか、詳しく知らないけど魔王よりも上とか聞いた覚えがある。
この人は魔王よりも偉いのかな?
そのことについても聞いてみた。
「神将は魔神の祝福を受けた証、称号みたいなものよ。人族で言うところの、勇者や聖女と同じような存在かしらね」
隠すようなことでもなかったようで、トゥーレミシアはあっさり答えてくれた。
なるほど、勇者や聖女が国王よりも偉いかと言われると、どちらとも言えないな。
魔王と神将も比べるような立場じゃないのか。
国王の命令なら、勇者や聖女でも聞かなきゃならないだろうし、この人もそんな感じに嫌々魔王軍に協力していたのかな。
「魔王軍の目的は何なのだ? 人族の国々に侵攻してきて、非常に迷惑しているのだが。それと貴女は魔王軍と関わりはないと言っていたが、魔王軍とは別に何か企んでいるということはないのか?」
アイラ姉が問う。
結局、魔王軍幹部からは禄に情報を引き出せていないからな。
それと、これ程の力を秘めた人形を大量に率いているトゥーレミシアが何か良からぬことを企んでいたら、魔王軍よりもずっと厄介だ。
どちらも聞き出せるなら聞き出したい情報だ。
「魔王の目的と言われてもね。私は関わりないから推測になるけど、人族を魔神降臨の生贄にでもしようとしてるんじゃないかしら?」
魔神ディヴェードとかいうのが、魔人族が崇める神だったかな。
しかし生贄って穏やかじゃないな。
「生贄とはどういう意味だ?」
「そのままの意味よ。魔神をこの世界に降臨させるためには、魔人族以外の他種族の血が大量に必要になるのよ。今の魔王は根っからの魔神信奉者だし、そういった凶行に出ても不思議じゃないわ」
それが本当なら最悪な神だな。
そんなはた迷惑な神が、この世界に降臨したらどうなることか············少なくとも良いことはないだろうな。
「ちょっと前に、私と同格の神将の一人が龍人族の国で魔神降臨を目論んで大失敗したそうだけどね。儀式に必要な物の大半を失ったみたいだし、心配しなくても生贄を集めたって、そう簡単には魔神降臨は実現しないわよ」
それって勇者のスキルを持ったユウという少年が倒した、ナークなんとかっていう長ったらしい名前の奴のことかな?
トゥーレミシアが言うには、魔神降臨には生贄だけでなく複雑な儀式が必要らしい。
神を降臨させるのは簡単じゃないってことか。
ていうかこの人······。
「他人事のように言っているが、貴女も神将という立場なら、魔神降臨を望んでいるのではないのか?」
オレが思ったことをアイラ姉が先に言ってくれた。この人が人形軍団を率いて人族の国を攻めれば、生贄なんて簡単に集まるんじゃないか?
レベル900超えの人形とまともに戦える人なんて、そうそう居るとも思えないし。
「そうね。立場的にはそうしなきゃならないんだけど、寧ろ私の望みは逆よ」
トゥーレミシアが首を振って答えた。
「私は魔神ディヴェードの支配から、魔人族を解放することを望んでいるから」