372 トゥーレミシアとの話し合い
人形娘達の創造主、トゥーレミシアとの話し合いのため、長の屋敷の大広間に移動した。
アウルムとシルヴァラは主の指示に従い、戦闘態勢を解除して、もう戦う意志はないようだ。
オレが魔法で眠らせた他の四人も目を覚ましたが、トゥーレミシアに制されて、おとなしくしている。
それにしても、トゥーレミシアが連れてきた6人にサフィルス、ヴェルデ、パールスを入れて9人か。
戦闘用殺戮人形というのは、これで全員なのかな?
「なあメリッサ、殺戮人形ってこれで全員集合なの?」
気になったのでメリッサに聞いてみた。
メリッサだけは殺戮人形じゃない、別枠とか言っていたかな。
「う〜ん、グライスとプルルスがいないみたいだね。どうしちゃったんだろ?」
まだ他にいるのか。
探知魔法で周囲を調べても他に潜んでいる様子はないし、その二人は連れて来ていないみたいだな。
つまり殺戮人形は全部で11人いるわけか。
創造主トゥーレミシアに加え、レベル900超えの殺戮人形が11人。
さらにはメリッサのような別枠の人形も多数従えているようだし、とんでもない大軍団だな。
人形達だけで人族の国の侵略するのは充分可能だろう。サフィルス達は魔人達にも恐れられていたし、魔王軍よりも上の存在なんじゃないか?
「初めに言っておくけど、私は幻獣人族達の里を侵略しようとか、そういう気は一切ないわよ」
大広間で話し合いの準備が整い、トゥーレミシアがそう切り出した。
大広間には長のゲンライさんにフウゲツさん、そして護衛の人達。
オレにアイラ姉、シノブに迷宮攻略組のメンバー達。その中にはレニーもいて、居心地悪そうに縮こまっている。
向こう側はトゥーレミシアだけが席につき、他の人形達は後ろでキレイに整列している。
サフィルス、ヴェルデ、パールスはオレにピッタリ張り付いているけど。
それが気に入らないのか、たまにトゥーレミシアがオレを睨みつけてきていた。
「だが、儂らは何度か魔人共の襲撃に受けている。かつての魔王軍のように、神樹の力を狙っているのではないか?」
代表してゲンライさんが問いただす。
実際、魔物の大群を率いた魔人が来たり、バルフィーユが来たりしているからな。
侵略の意志はないなんて言われても、簡単には信用できないだろう。
「それはガストの独断の暴走ね。ガストは前の魔王を復活させようと躍起になっていたから、封印されている可能性のある幻獣人族の里に執着していたみたいだわ。空振りだったようだけどね」
ガストというと、確か最初に攻めてきた魔人のことだな。バルフィーユはその魔人を助けに来ただけとか言っていたそうだが。
しかし聞き捨てならない言葉があったぞ。
封印されている?
前の魔王って、当時の勇者に討たれて死んだんじゃないのか?
「当時の魔王は生きておるのか?」
「そうみたいね。私は当時の魔王軍に加担していなかったから詳しくは知らないけど、勇者との戦いの末に封印されたと聞いているわ」
それ、初耳なんだけど。
当時の勇者って色々な所で魔物を封印していたのは知っているけど、魔王まで封印していたのか。
「幻獣人族の里には封印されていなかったみたいだし、ガストが再び来ることはないと思うわよ。つい先日、帰ってきたと思ったら、最高傑作を回収しに行くとか言って、また出ていっちゃったし。護衛役として私の人形も一緒だから動向を把握できるんだけど、少なくとも幻獣人族の里に来るつもりはないみたいだわ」
ここにはリュベネイタルという強力な魔物が封印されていたけど、魔王はいなかったな。
それでここを見限って別の場所を探しているのかな? 最高傑作って何のことだろうか?
よくわからないけど、魔王が封印された場所なんて簡単に見つかるとは思えないし、あの魔人自身は大した強さじゃなかったから、放っておいても大丈夫かな?
「ガストが単独で調べていたみたいだから、今の魔王軍は幻獣人族の里の存在を知らないはずよ。ガストも私も今の魔王軍とはあまり関わりたくないし、話すこともないから安心してちょうだい」
そういえばあの魔人は、自分は今の魔王軍とは無関係とか言っていたな。
トゥーレミシアの言葉を信じるなら、これ以上魔王軍が攻めてくる心配は、とりあえずはないということか。
ゲンライさんとフウゲツ、それにアイラ姉達もトゥーレミシアが嘘をついていないと判断したようだ。
「わかった、お主の話を信じるとしよう。じゃが、ならば何故我が里に来た? 結界を突き破り、侵略の意志ありと見られても文句は言えん侵入をしてまで」
「その点は悪かったと思ってるわ。私も冷静じゃなかったみたいね」
ゲンライさんの言葉に、トゥーレミシアが謝罪で答える。
「私が幻獣人族の里に来たのは、私の大事な子達にはしたない行為をさせたり、ふしだらなことを吹き込んだりしている、そこの男を粛清するためよ······!」
トゥーレミシアの視線がこちらに向いた。
あれ、これもしかして怒りが再燃してない?