閑話⑭ 3 リイネ&エネフィー VS 変態男(※)
※(注)変態男が登場しています。
(リイネside)
正義の仮面を名乗る男に、わたしとエネフィーは二人がかりで挑むこととなった。
エネフィーと散々やり合ったが、体力的にはまだまだ余裕がある。
この男はアイラですら勝敗を喫せなかったほどの相手だが、今のわたし達が二人がかりならば、良い勝負が出来るのではないだろうか。
アイラがこの男を倒せなかったのは(超越者)のスキルを得る前の話で、今のアイラをも上回るとは、さすがに思えないしな。
「さあ、どこからでもかかってきてください」
男は武器も何も持たずに、棒立ちの構えで言う。
せめて服くらい着てくれと思うが、もうそんなことはいい。言っても無駄だろうしな。
ちなみにパールスは今まで通り、闘いを見守るのに徹するようだ。
「エネフィー、左右から攻めるぞ。足を引っ張るなよ!」
「こちらのセリフですわよ、リイネさん!」
模擬剣を構え、わたしは右から、エネフィーは左から男に斬りかかった。
「はっ!!」
男は素手で、わたし達の剣をそれぞれ受け止めた。
模擬戦用の剣とはいえ、これは特別製で普通なら素手で受け止められるような威力ではなかったはず······。
だが、この男がかなりの実力者だというのは承知の上。この程度で驚いたりはしない。
「業炎牙突衝!!!」
わたしは模擬剣に「炎」を纏わせ、男に向けて突き立てた。男はわたしの剣を受け流し、足技で攻撃してきた。
わたしも負けずに男の攻撃を受け止める。
「流水剣、ですわ!!」
エネフィーがわたしと男の攻防のスキを突き、剣技で男を攻撃する。
完全に虚を突いたと思ったのだが、男はエネフィーの剣技を余裕でかわした。
············やはりこの男、強いな。
二人がかりで挑んでも、かなりの実力の差を感じた。正攻法では勝ち目はなさそうだ。
アイラとの闘いでは、この男は素手では敵わぬと悟り、武器を手にしていた。
せめて、わたしも武器を使わせるくらいには追い詰めたい。
「さすがに強いですわね······。それなら私の奥義を受けて見なさい!!」
エネフィーが後ろに下がり、剣を前に構えて魔力を集中している。
模擬戦でそれを使う気か?
「ほう、いいでしょう。私も全力で迎え撃ちましょう」
男はエネフィーの奥義を正面から受ける気だ。
近付くと巻き込まれかねないな。
わたしは二人から少し距離を取った。
「いきますわよ! 四星水竜剣!!!」
エネフィーの剣から魔力が放たれ、男の周囲に4つの水柱が現れる。
4つの水柱は男の全身を覆って、身動きが取れない状態にした。凄まじい水圧ため、脱出は困難だろう。
そしてその状態の男に向けて、エネフィーが剣を振り下ろした。
「見事な奥義です。ですが、これくらいの水圧では私の動きは封じれませんよ」
男が水の牢獄からあっさりと脱出して、エネフィーの剣を受け止めた。
剣を掴まれ、エネフィーはバランスを崩して倒れてしまう。
自身の奥義をこうも簡単に防がれるのは、さすがに予想外だったのだろう。
エネフィーが呆然とした表情を見せている。
「な、なんて強さなんですの······。私の奥義ですら、簡単に破ってしまうなんて······」
レベル500を超え、さらには勇者のスキルを得たエネフィーですら、まるで歯が立たないとは······。
この男、本当に何者なんだ?
「では、お返しにこちらも私の特別な奥義をお見せしましょう。覚悟はよろしいですか?」
今度は男が魔力を集中し始めた。
両手にかなりの魔力が集まってきている。
一体どんな攻撃をするつもりだ?
「はっ!!」
男が魔力を解放すると、小規模な結界で自身とエネフィーを覆い隠した。
周りの被害を防ぐための結界か?
結界を張らなければならないほどの奥義なのか?
厚い魔力の膜が二人を覆い、姿が確認できない。
「け、結界······? これは一体······」
「さあ、これが私の奥義です。では、お覚悟を!」
「え、ちょっ······何を!? ひっ、お待ちくださ············きゃあああっっっ!!!???」
結界の中でエネフィーの悲鳴が響いていた。
尋常ではない叫びだったが、中で何が起きている? 確認したいのだが、躊躇してしまう······。
しばらくすると結界が消えて、二人の姿が見えてきた。
「これで勝負あり、でよろしいですかな?」
「························っ」
立っているのは男だけで、エネフィーは倒れ伏していた。男の言葉にエネフィーは応えない。
わたしはすぐさまエネフィーに駆け寄り、容態を確認した。
「エネフィー、しっかりしろ、おい」
「··················」
駄目だ、完全に気を失っている。
呼びかけても反応がない、
顔が熱くなるくらい真っ赤になっているが、特に身体に異常はないみたいだ。
だが、これはしばらく意識が戻りそうにないな。
「············エネフィーに何をした?」
わたしは男に問いかけた。
正直、聞くのが怖いが聞かないわけにもいかない。
「ご安心を、私の特別な奥義をお見せしただけです。決して危害は加えていません」
確かにエネフィーに外傷などは確認できない、それどころか何故か少しばかし、嬉しそうな表情をしているように見える。
この男の言う奥義とは一体······。
「その証拠として、あなたにも私の奥義をお見せしましょう。はっ!!」
男がそう言うと先ほどエネフィーにしたように、わたしの周囲に結界を張り巡らした。
「これは······か、身体が······」
なんという濃密な魔力······。
どうやらこの結界は相手の動きを封じる効果があるようで、わたしは全身に力が入らず膝をついた。
これは本当に身動き一つ取れず、魔力を集中することもままならない。
「それではいきます。お覚悟はよろしいですね?」
男がゆっくりとこちらに近付いてくる。
当たり前だが、この男は結界内を自由に動けるようだ。なんとか構えを取りたいが、立ち上がることもできず、わたしは武器を落とした。
男はそんなわたしに構わず、どんどん近付いてくる。
な、何をするつもりだ?
男は近付いてくるだけで特に構えも見せず、魔力も集中していない。
だが嫌な予感が······。
しかし、今のわたしにはどうすることもできず、男の奥義を無防備に受けることとなった。