閑話⑭ 1 王女同士の手合わせ
今日もフレンリーズ王国の書庫で、また色々と調べていた。残念ながら、これといった収穫はなかったが。
ちなみに今日はアイラ姉は来ておらず、幻獣人族の里にいる。
区切りのいいところで、調べるのを終わりにした。
この調子だと、これ以上の情報を得るのは期待出来ないかもしれないな。
「――――――主人はん、まだ何か用事あるんか〜?」
今日はパールスがオレの付き添いとして来ていた。毎回三人ついて来ても困るので、一人ずつ順番にということにしてもらった。
なので、サフィルスとヴェルデは幻獣人族の里でお留守番だ。今頃、アイラ姉の教育を受けているだろう。
「ああ、リイネさん達が付き合ってほしいことがあるらしいからね」
本当はこのまま帰ろうかと思っていたんだけど、リイネさんとエネフィーさんがそう言ってきたんだよな。
何かあるのだろうか?
「これからエネフィーと模擬戦をしたいと思っていてな。レイに立会人を頼みたい」
「お願いできませんか、レイさん?」
リイネさんのところに行くと、そうお願いされた。
そういえばリイネさんが国に帰る前に、エネフィーさんと手合わせしたいと言っていたな。
二人は今では相当な高レベルの実力者になってしまったので、国の兵士達では巻き添えの危険があり、立ち会いは無理だそうだ。
「アイラ姉に頼まなかったの?」
「ふふっ、アイラに立会人を頼んだら、存分に闘う前に止められてしまうだろうからな」
アイラ姉が止めるであろうくらい、本気の手合わせをするつもりか······。
それは手合わせで済むのだろうか?
············オレも止めたいんだけど。
今のリイネさんとエネフィーさんを止められるのは、アイラ姉くらいだろう。
そのアイラ姉がいない時を狙っていたのかな?
「立会人は引き受けるけど······危険だと思ったら止めるからね?」
「ふふっ、心配するな、レイ。加減くらい心得ているさ」
リイネさんの不敵な笑みで、さらに不安になってきたんだが。まあ、本当にヤバそうだったら本気で止めよう。
パールスも一緒に立ち会う許可をもらったし、大惨事は避けられるだろう。
二人の模擬戦のために場所を移動する。
手合わせする場所は、兵士の訓練を行うための建物の中だ。王都の学園の修練場より大きい。
今は人払いをしていて、誰もいないそうだ。
確かに、ここなら存分に闘えそうだな。
「レイ、それとパールス······だったな? 建物の周囲に結界を頼む」
「――――――結界のことなら、ウチにお任せあれ〜。ほな、張るで〜」
訓練場は頑丈な素材で建てられているので、そう簡単には壊れないだろうが、今のリイネさんとエネフィーさんの激突に耐えられるかは不安すぎるからな。
パールスにも協力してもらい、訓練場を覆うように結界魔法を張った。
これなら万が一にも、周囲に被害は出ないだろう。
問題なのはリイネさんとエネフィーさんの二人だが。
当然だが、手合わせに使用する武器は、模擬戦用の刃のない剣だ。
二人の力にも耐えられる特別製のものだが。
ただの手合わせでオリハルコン製の武器や、聖剣を使わせるわけにはいかない。
「ふふっ、準備は万端だな。それでは始めるとしようか、エネフィー」
「負けませんわよ、リイネさん」
始める前から、二人の間で火花が散っている。
この二人、仲は良いんだけど、どっちも負けず嫌いだからな。
エネフィーさんは本の迷宮で大幅にレベルアップした上に、勇者のスキルを得ている。
リイネさんもアイラ姉に鍛えてもらっていたのか、いつの間にかレベル500を超えていた。
ステータス的にはほとんど差がない、勇者のスキルの分だけ、エネフィーさんがやや上なくらいだな。
この程度の差なら、勝敗がどちらに転ぶかわからない。
「それじゃあ······始め!」
オレの合図で二人の手合わせが始まった。
リイネさんとエネフィーさん、二人の闘いは軽い手合わせとは言えない凄まじいものだった。
「幻影刃!!!」
「光来魔弾剣!!!」
二人の剣技がぶつかり合う。
模擬剣同士とはいえ、本気で殺しにいってるのではと疑いたくなるほどの激しさだ。
この時点でアイラ姉なら止めていると思う。
「――――――おお〜、二人とも強いんやな〜。魔人領にも、こないに強いのそうはおらんで〜」
パールスは呑気にパチパチ拍手しながら、二人の闘いを見ている。
レベル900を超えるパールスから見たら、二人の闘いは笑って見学できるくらいのレベルなのだろう。
けど、オレはハラハラしながら見ている。
二人のぶつかり合いで起きた剣撃が、訓練場の至る所に飛び散り、壁や天井が崩れ落ちて危険なことになっている。結界を張っていなかったら、とっくにここは倒壊しているだろう。
二人が闘う前に止めるか、やはりアイラ姉を呼んでおくべきだったと、今更ながら後悔した。
「ふふっ、やるな、エネフィー!」
「降参するなら今の内ですわよ、リイネさん!」
二人の繰り出す剣技が、どんどん強力なものになっていっている。
とても模擬戦で使うような技ではない。
さすがにこれはヤバいと思い、止めようと声をかけたが、二人の耳に届いていない。
二人とも激しい闘いに興奮しているのか、完全に周りが見えていないようだ。
ついには剣技だけでなく、魔法まで使い出した。
これ、本気でマズくないか?
「聖」属性の治癒魔法や特級ポーションがあるから、どんな怪我でも治すことはできるけど、打ちどころが悪く、即死してしまえば治せない。
さすがにそんな事態にならないと思うが、二人の様子を見ていると、そんな保証はないように思う。
二人を止めようと動こうとした時、オレの手には例のモノが握られていた。