368 鬱憤晴らしの魔物討伐
水晶球が機能しないことで実力を認めてもらえず、不満たらたらのヴェルデをなんとか宥めた。
あまり長居をするのはマズそうだし、さっさと退散するとしよう。
「もう少し、力をつけてから来てくださいね」
受付嬢がヴェルデ達を慰めるように言う。
結局、力を示すことができず、今回はヴェルデ達の冒険者登録は見送りということとなった。
「――――――なあなあ、せっかくやし何か依頼ちゅうの受けていこうや。主人はんは冒険者登録しとるんやし、受けれるんやろ?」
もう出ようかと思っていたら、パールスが依頼の貼ってある壁を指差してきた。
受けるくらいならできるが。
まあオレもどんな依頼があるのか興味あったし、適当なものを受けてみようかな。
壁に貼られた紙を確認すると、ほとんどが魔物の討伐依頼だった。
どうやら魔王軍達が率いていた魔物が、各地に散って暴れているのが原因らしい。
魔物の討伐とかなら、ヴェルデも思い切り戦えて機嫌が直るかもしれないし、受けてみるかな。
依頼書の一つを手に取り、受付まで持っていった。
「こちらの討伐依頼を受けるのですか? しかしこれはランクB相当推奨の依頼となりますので······」
受付嬢のお姉さんが困り顔で言う。
オレが持ってきたのは首都を出て、すぐ近くにある鉱山地帯に現れた魔物の討伐依頼だ。
ワイバーンやその亜種、他にも高レベルの魔物が集まって、一般人やランクの低い冒険者では、とても近付けない状態になっているらしい。
このまま放っておけば、数を増やして新たな脅威になりかねないとのこと。
「一応、オレのランクBなんだけど」
オレはギルドカードを取り出して、受付嬢に見せた。オレのランクを確認して、驚きの表情をうかべていた。
ランクBは冒険者の中でもトップクラスの称号だからな。その上のランクAやランクSは国の英雄や伝説の勇者クラスになる。
「ラ、ランクBの方だったんですか!? これは······た、確かに。し、失礼しました······!」
ギルドカードを確認した受付嬢が頭を下げた。
周りの冒険者達も信じられないといった反応だ。
年配の冒険者から見たら、オレなんてまだ子供だろうし、こういう反応も仕方無いだろう。
ランクBでこの反応じゃ、ランクAやSだったらどうなっていたか······。
ランクB止まりにしておいてよかった。
冒険者ランクを確認して、依頼を受けるのは問題ないということになった。
場所もそう遠くないし、すぐにでも向かえる。
「あの、ですがその子達を連れて行くのはやめた方がいいかと······。高レベルの魔物が多数確認されていますので、遊び感覚では危険です」
受付嬢がヴェルデ達を見て言う。
ヴェルデ達は水晶球に反応しないくらい、力のない子供だと思われているからな。
純粋に心配してくれているようだ。
この子達はレベル900を超えているとか、本当のことを言うわけにはいかないので、心配させないように無難に返事しておいた。
「――――――むぅ、ヴェルデ本当は強いのに!」
冒険者ギルドを出た後も、ヴェルデは不機嫌な様子だった。まあ、本当のレベルを知られたら、それはそれで問題が起きるだろうし、これでよかったと思う。
「――――――ああ言う反応は新鮮やったわ〜。ウチらを恐れるんやなくて、心配してくれはるなんてな〜」
パールスは先ほどの冒険者達の反応を、寧ろ喜んでいるようだ。
魔人の住む町での人形娘達の扱いが気になるな。
「――――――有象無象の評価などどうでもいいことです。主人や創造主のお役に立てることが最優先事項なのですから」
サフィルスはたいして気に留めていないみたいで、それぞれ三者三様の反応だな。
さっそく町を出て、魔物が集まっているという鉱山地帯まで向かう。
この国は鉱石の採掘が盛んなようだし、魔物のせいでそれが行えないと死活問題になりかねない。
ギルドにいた冒険者のほとんどがランクCやDなので、力不足のため手出しできず、国の兵士達もまだ討伐隊を組めるほど、手が空かない状態だそうだ。
「グルルルッ」「クアアーーッ」
「ゴルル······」
目的の場所までたどり着くと魔物がわんさか集まっていた。思ってた以上の大群だ。
魔物の平均レベル60〜80くらいか。
迷宮では普通のレベルだが、外で現れる魔物にしては、かなり強い方だ。
魔物の種類も様々でまとまりがない。
群れを統率するボスはいないのか?
いや、なんか同士討ちみたいなことをしているし、ボスの座を巡っての争いでもしている感じだ。
魔王軍に飼われていた奴らが魔人の手を離れ、好き勝手暴れているってところか。
「――――――魔物なんて、全部ヴェルデが殲滅してやるんだから!」
ヴェルデは魔物相手に鬱憤を晴らす気満々だな。
ちょっと魔物が気の毒に思えてきた。
「――――――ウチも頑張るで〜」
「――――――主人、殲滅の許可を」
パールスとサフィルスもやる気満々だ。
このレベルの魔物を相手に過剰戦力すぎる気がしてきた。
まあ、魔物相手に遠慮はいらないだろう。
オレは頷き、三人に殲滅の許可を出した。
結果として人形娘達によって、魔物はあっという間に殲滅された。
ハッキリ言ってオレは何もしていない。
三人には寧ろ物足りないくらいの相手だったようだ。
ヴェルデの魔法攻撃で、地形が変わりそうになった以外は問題なく魔物は排除された。
魔物以外、人がいなくてよかったと言っておこう。
ヴェルデも思い切り暴れられて、少しは機嫌が直ったようだ。
たまにストレス発散のために、魔物討伐をさせた方がいいのかもしれないな。
その後、倒した魔物は回収して討伐証明を持って冒険者ギルドに戻り、報告を済ませた。
依頼を受け、討伐完了まであまりに早いと、また騒ぎとなってしまったから、次からは気をつけようと思う。