362 新たな従僕
ようやく長い夜が終わり、朝となった。
昨日があんなに濃い一日になるとは思わなかった。
フレンリーズ王国の書庫では本の迷宮に取り込まれ、幻獣人族の里に戻ったらサフィルスと同型の人形であるヴェルデとパールスが現れたり、そしてその日の夜にはあんなことがあったりと。
おかげで絆スキルのカウントが9まで上がり、後一人で10人達成するところまで来てしまった。
他の人形娘達と同じようにしていたのに、何故メリッサは加護スキルが得られなかったのかはわからないけど。
結局、ミールとミウは最後にはそのまま寝てしまい、オレの部屋で泊まっていく形となっていた。
サフィルス、ヴェルデ、パールス、メリッサもあのままだと一線を越えることになりかねなかったので、最終的には睡眠魔法で強制的に機能停止状態にした。
今はみんな仲良く並んで寝ている状態だ。
············正直かなり危なかった。
こんなところをアイラ姉に見られたら、どうなるかわかったものじゃないな。
けどアイラ姉は、まだフレンリーズ王国から戻っておらず、そのことに少し安心してしまった。
今日は朝の訓練も中止かな。
普段ならアイラ姉がいなくても自主的にやるんだけど、さすがにまだ疲れが抜けていない。
ステータス画面では〈体力〉は全回復しているのだがな············気持ちの問題なのだろうか?
「し、ししし、失礼しましたー!」
しばらくすると、目を覚ましたミウが昨夜の出来事を思い出したのか、顔を真っ赤にしながら自分の部屋に戻っていった。
オレもそんなミウの様子を見ながら、似たような表情をしていたかもしれない。
「レイさん、次回は二人きりで楽しみましょう」
ミールも同じく目を覚まし、意味深なことを言って部屋に戻っていった。
そんなミールが魅力的に映り、それもいいかもなんて思ってしまった。
いかんいかん、中途半端な気持ちでそんなことになっても、良い未来はないだろう。
まだミールに告白の返事をしていないのだし、いい加減に答えを出さないとな······。
ミウとミールが部屋に戻った後、人形娘達も目を覚ました。
機能停止状態というのは、やはりオレ達のように睡眠を取っているのと変わらないようだな。
それにしてもメリッサ以外は加護スキルを得てしまったので、ただでさえ強い人形娘達のステータスが、さらに上がっている。
この子達が、また敵に回ってしまったらどうしよう。根は悪い子達じゃないのは、なんとなくわかったけど、子供っぽくて暴走気味だし、真の主であるトゥーレミシアの出方次第では、どう転ぶかわからないんだよな。
「――――――あ〜♡♡、主人はんからの愛が熱いわ~」
パールスまでオレを主人とか言い出した。
加護スキルでステータスが増した影響を実感しているのか、顔を火照らせながら、自分の身体を触っている。
サフィルスとヴェルデも、自身の身体を確かめていた。
「むぅ、アチシだけ仲間外れにされた気分だよ」
唯一、加護スキルを得なかったメリッサが不満そうだ。どうしてメリッサだけ獲得できなかったのかな?
まあ、オレ自身も加護スキルのことを完全に把握してるわけじゃないから、おかしいことじゃないんだが。
そもそも何故、ああいった行為をしたら加護を与えられるのかも、意味不明なことだからな。
「――――――ヴェルデ、いつまで主人の身体に張り付いているつもりですか? いい加減に離れてください」
「――――――やだ! ヴェルデもお兄さんを主人にする!」
またもやヴェルデがオレから離れたがらなくなっていた。この子までオレを主人にするとか言い出してしまったし。
サフィルスが強引に引き剥がそうとするが、ヴェルデは意地になってオレから離れない。
そんなに懐かれるようなことをした覚えがないのだが?
「――――――お兄さん、ヴェルデの主人になって! ヴェルデ、サフィよりも役に立つ! どんな相手でも殲滅できるよ」
ヴェルデが上目遣いにそう言ってきた。
仕草は可愛らしいのだが、言ってることが物騒だ。殲滅してほしい相手なんて、今は特にいないし。
かといって無下に断ったりしたら、どんな行動するかわからないんだよな。
「えーと、主人になったら、オレの言うことを聞いてくれるのかな?」
「――――――うん! ヴェルデとってもいい子! ちゃんと主人に従うよ!」
ヴェルデが力いっぱい宣言したが不安だな。
そもそもキミが幻獣人族の里に来たのは、我儘言っての暴走じゃなかったか?
不安ではあるが、言うことを聞いてくれると言ってるし、信用してみるかな。
「わかったよ。認めてあげるから、オレの指示にちゃんと従ってね」
「――――――うん!」
オレがそう言うとヴェルデが嬉しそうに返事した。
まあ、今後のことは後で考えよう。
とりあえずはオレの言うことに従ってくれると約束してくれたから、それでよしとしておこう。
「――――――ほんなら新たな主人はん、ウチのこともよろしゅうな〜」
「――――――ヴェルデ、パールス、主人の第一の従僕は私ですからね」
「なんだか楽しそう! アチシもおにーさんのこと主人って呼ぼうかな?」
他の三人も口々にそう言った。
なんだか早まったことをしてしまったかな?
オレが新たな主人とやらになってしまい、真の主であるトゥーレミシアって人は怒ったりしないだろうか?