360 加速する狂乱
サフィルス、メリッサ、そしてヴェルデ、パールスの面倒を一晩見ることになったのだが、なかなかに騒がしい。
飽きずに他愛のないお喋りを続けている。
四人の会話を聞いててわかったこともある。
アウルムという人物が殺戮人形のリーダー格で、創造主トゥーレミシアの右腕と呼ばれているようだ。
他にもシルヴァラ、アーテル、アルブス、フラウムなんて名前も出てきていた。
おそらくこの子達以外の殺戮人形の名だろう。
殺戮人形って何体いるんだ······。
戦闘用だけでなく、他にも色々な種類の人形がいるらしい。
メリッサだけは殺戮人形や他の人形とは違う、何か特別枠っぽいことを言っているが······よくわからないな。
人形達は少数部隊かと思っていたけど、それは間違いで、かなりの大軍団みたいだな。
トゥーレミシアって人は、今の魔王にあまり協力的じゃないらしいのが救いかな。
この子達が魔王軍として人族の国々を侵略していたら、あっという間に世界は魔人達の手に落ちていたかもしれない。
そう考えると恐ろしい存在だな、この子達。
「――――――はぁ〜、そないな男が現れてたんか。それでヴェルデは怯えとったんか。ウチもその男、見てみたかったわ〜」
どうやら話題は、先ほどの温泉施設での出来事についてになったようだ。
謎の男が現れて、ヴェルデを無力化したと話している。
サフィルスには正体を言わないように指示しているため、核心に迫ることは口にせずに黙っている。
「――――――いや、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!」
その話題になった途端、ヴェルデが怯えて蹲ってしまった。
殺戮人形と呼ばれ、魔人達に恐れられる存在に、ここまで怖がられるのは複雑だ。
「あの男とレイおにーさんって、何か雰囲気が似てたんだよね。もしかして、おにーさん本人?」
メリッサにそう言われて、ギクッとしてしまった。
雰囲気が似ていたって、どの辺が!?
確かに同一人物だが、全然違うと思うぞ!?
サフィルスもそうだったが、何かそういうのを見破るスキルでも持っているのだろうか?
これはどう反応するべきだ······。
そう考えていたら、メリッサがオレの身体をペタペタ触りだした。
「ん〜? 似ているような、違うような······?」
「――――――あ〜、ウチも興味あるわ〜。レイお兄さん、ウチも触らせて〜な」
メリッサに便乗して、パールスまで触れてきた。
本当に興味本位らしく、悪意ある手付きではないのだが、普通にくすぐったい。
無理矢理引き剥がすのもどうかと思い、されるがままにしている。
「――――――主人、私も主人の肉体情報に興味があります」
二人を止めてくれるかと思ったら、サフィルスまで一緒になって触ってきた。
最初は手さぐりで触れていただけだったが、だんだんこの子達の目付きが怪しくなってきている気がする。
「――――――ん〜、服の上からじゃわからんな〜。お兄さん、ちょい脱がせてもええか?」
いいわけないだろ。
オレの返事を待たずに、パールスは上着を脱がしにかかってきた。
目付きが怪しい······というより怖い。
興奮しているのか、息も荒くなっている。
人形って呼吸するの? とか、どうでもいいことを考えてしまった。
いや、それよりもこの子、他の子達に比べてまともかと思ってたけど、もしかして一番危ないのでは?
「ヴェルデも一緒に触ってみる? ほら、おにーさんは怖くないよ」
一人参加していなかったヴェルデを、メリッサが誘い出す。これ以上、混沌な状況にしてほしくないんだが。
怖がっていたが興味もあったのか、ヴェルデがおそるおそる参加してきた。
「――――――本当だ、怖くない。なんだかずっと触っていたい。安心する」
怯えた様子が薄れてきたのはよかったが、四人がかりになり、行動がどんどんエスカレートしていっている。
パールスとメリッサが率先して、オレの服を脱がしてきた。サフィルスとヴェルデは、便乗して身体を触ってくる。
この子達、こう見えてかなりの高レベルだから、本気で抵抗しないと止められそうにない。
さすがにこれ以上はマズいと思い、少し本気で四人を引き剥がそうとしたら······。
――――――――――ガチャッ
突然、入口の扉が開かれた。
いや、ノックらしき音が聞こえていた気がしたが、それどころではなく聞き流していた。
部屋に入ってきたのはミールとミウだった。
なんで二人が、この時間にオレの部屋に?
疑問に思ったが、今はそんなことはどうでもいい。
「きゃあああー♡♡!!?」
ミウが悲鳴をあげながら、両手で自分の目を覆い隠した。指の隙間からチラチラ見てる気がするが、きっと気のせいだろう。
今のオレの姿は、上半身はすでに脱がされ、露わにされた状態だ。
パールスの手が下半身にかかっていたけど、なんとか下は死守していたが、衣服乱れて我ながらなんとも情けない姿だ。
「ずいぶんと楽しそうですね、状況説明をお願いしてもいいでしょうか? 事と次第によっては、ワタシ達も参加したいのですが」
ミールが言う。
淡々とした口調だが、何故か圧力を感じた。
状況説明と言われても、どう話せばいいのだろうか?
そういえば今日はアイラ姉がいないから、こういう事態を止めてくれそうな人物がいない。
あれ?
これってひょっとして結構ヤバい状況なのでは?