357 暴れる駄々っ子に正義の鉄槌(※)
※(注)変態男が登場します。
お見苦しい表現もありますので、ご了承ください。
(ミールside)
ヴェルデの放った魔法からミウネーレさんを助けたのは、黒いマスクで顔を隠した男性、正義の仮面さんでした。
······正義の仮面さんがここにいるということは、男性用の方に入っていったパールスはどうなったのでしょうか?
まあ、おそらくそちらは解決したと見ていいのでしょう。
抱きかかえられていたミウネーレさんが床に降ろされます。
ミウネーレさんは腰が抜けたのか、立ち上がれない様子です。
ミウネーレさんは何も身につけていない裸の状態なので、正義の仮面さんはバスタオルを取り出し、被せました。
紳士的な行動ですね。
どこから取り出したのかは割愛しますが。
「さあ、後は私が解決しますから、安心してください」
「は、はいー······あ、ありがとうございますー······」
ミウネーレさんは顔を真っ赤にしながら、なんとか言葉を絞り出すように言いました。
ちなみに今の正義の仮面さんの姿は、腰にタオルを巻いただけの格好です。
いつもの下着姿よりも、身体を隠している面積が広い気がするのはツッコまないでおきましょう。
「――――――主人············」
「サフィルス殿、後は正義の仮面殿に任せて、少し離れるでござるよ」
正体を口走りそうになったサフィルスの言葉を、シノブさんが遮りました。
サフィルスとスミレさんは正体を知っていますからね。シノブさんは、二人がうっかり口を滑らせないようにフォローしています。
「な、なんなの貴方は? 一体何者!? あの子達の仲間なの!?」
正体を知らないフウゲツさんが、正義の仮面さんを問いただしています。
さすがのフウゲツさんも、突然現れた正体不明の仮面の男に動揺している様子です。
正体には気付いていないようですね。
「私の名は正義の仮面。私は彼女達の仲間ではありませんが、この場はどうかお任せください」
「え······だ、だけど······」
「フウゲツさん、とりあえずこの場は、この方に任せてみましょう」
フウゲツさんが対応に困っていたので、ワタシが助け舟を出しました。
ワタシは正体は隠しながら、仮面の男について説明しておきました。
「ん〜? なんかあの男、レイおにーさんと気配が似ているような······?」
メリッサは仮面の男の正体に気付きかけていますね。サフィルスもバラしたわけではないのに正体に気付いたみたいですし、何かそういうことがわかる特殊能力があるのでしょうか?
まあ、メリッサにも後でフォローしておきますか。今はあの緑髪の少女をなんとかするのが先ですね。
全員がヴェルデから距離を取り、正義の仮面さんが前に出て行きます。
ヴェルデは突然現れた仮面の男を見て、酷く取り乱しています。
「――――――あ、あの時の変態っ!!? なんで!? なんでここにいるのっ!!?」
「さあ、緑のお嬢さん。我儘言って好き勝手暴れるのを、これ以上見過ごすわけにはいきません。どうやら貴女には特別なお仕置きが必要なようですな」
正義の仮面さんがヴェルデを指差し、ビシッと言います。ヴェルデは怯えた表情でしたが、軽く頭を振って気を取り直します。
「――――――も、もうヴェルデは人族なんて怖くないもん! 変態だって弱い人族に変わりないし、ヴェルデが殲滅してやるんだから!」
ヴェルデが魔力を集中させています。
さっきまでよりも、さらに強い魔力がヴェルデの全身に集まっているのがわかります。
もしかして、先ほどまでは全力ではなかったのですか?
「――――――みんな吹っ飛んじゃえ! デスプロージョン!!!」
ヴェルデが魔法を放ちました。
あれは爆発系の最上級魔法············まともに炸裂すれば正義の仮面さんだけでなく、この辺り一帯が吹き飛んでしまうでしょう。
「無駄です」
正義の仮面さんは、ヴェルデの放った魔法が大爆発を起こす前に抑え込み、消滅させました。
あれほどの魔力を秘めた魔法を、一瞬で相殺してしまうとは······。
「――――――ウソッ!!? な、なんで!? なんでヴェルデの魔法が消えたの!?」
せっかく気を取り直していたヴェルデが、再び取り乱しています。
ヴェルデは今度は無差別に、正義の仮面さんに向けて魔力の塊を放ちました。
正義の仮面さんの周囲に集まった魔力が、一斉に大爆発を起こします。
「そんな攻撃、私には効きませんよ」
爆発をまともに受けたはずなのに、正義の仮面さんは無傷で姿を見せました。
「――――――いやああーーっ!!? なんでヴェルデの魔法が効かないの!? 来ないで、近寄らないでっ!!?」
取り乱したヴェルデは、狂ったように連続で魔法を撃ち続けます。
しかし、そのすべてがまったく通用していません。
効いていないだけでなく、正義の仮面さんは周りに被害が出ないようにしているようで、あれだけの爆発が起きているにも関わらず、ワタシ達の方には······いえ、周囲に一切の影響がありません。
「な、何者なの、あの男······とんでもない実力者だわ」
フウゲツさんがその様子を見て、驚きの声をあげています。正義の仮面さんのやっていることは、高い魔力だけでなく相当な技術力も必要ですからね。
他のみなさんも、正義の仮面さんの戦い方を息を呑みながら見ています。
「さあ、そろそろおとなしく観念しなさい」
「――――――ひぃっ!? だ、だったらヴェルデの一番強力な魔法で······」
「させませんよ」
さらに魔力を集中しようとしたヴェルデの腕を掴み、集めていた魔力に正義の仮面さんの魔力をぶつけ相殺、霧散させました。
「――――――いやああっ!!? この変態強すぎ!! もういやっ、ヴェルデお家に帰る!! 創造主のところに帰るもん!!」
泣きじゃくるヴェルデが正義の仮面さんの腕を振り払い、翼を広げて飛び立ちました。
一瞬でかなりの高さまで飛びましたね。
「今回は逃しませんよ」
「――――――え、いやあああっ!!? な、なんで人族が空を飛べるの!?」
いつの間にか、正義の仮面さんはヴェルデよりもさらに上に飛んで、行く手を阻んでいました。
あれは「風」魔法を利用して飛んでいるのでしょうか? そんなことまでできるとは······。
「さあ、いい加減に諦めなさい。ひとまず下に降りるのです」
「――――――い、いや······降りたら前にサフィにしてたことするつもりでしょ!? ヴェルデ、そんなの······」
「仕方ありませんね、ならば少々手荒にいくとしましょうか。落ちなさい!」
「――――――っっっ!!!???」
上空で見えにくいですが、正義の仮面さんがヴェルデを押さえつけて、そのまま勢いよく落ちてきました。
「――――――いやあああーーっ!!!???」
ヴェルデが身動き取れず、悲鳴をあげながら落ちてきます。結構な速さで落ちてきたので、一瞬しか見えませんでしたが、ヴェルデの頭が正義の仮面さんの下半身の下敷きになる状態だったような気が······。
――――――――――バッシャーーーーンッ!!!
二人はそのまま温泉の中に落ちました。
かなりの勢いがあり、周囲にお湯が飛び散りました。
温泉はそれほど深くはないので、落ちた二人はすぐに浮き上がってきました。
「さあ、これでお仕置き完了しました。暴れる少女は、この通りおとなしくなりました」
温泉から顔を出した正義の仮面さんがそう宣言しました。正義の仮面さんの腰につけたタオルの下ではヴェルデが羨ま······いえ、ムゴイ状態となっています。
ヴェルデは気を失っているのか、ピクリとも動きません。あまりの光景に、他のみなさんも言葉が出ないようです。
「それでは、私はこれで失礼します」
ヴェルデをその場に残して、正義の仮面さんは去って行きました。
フウゲツさんが何か言おうとしてましたが、止める間もなく走り去ってしまいました。
まあ何はともあれ、これで騒動は終結しましたね。