353 緑の少女の暴走
(フウゲツside)
皆で温泉でのんびりしていたら、外の結界を何者かが通ったのを感じた。
他の皆も気付いたようで、また敵が攻めてきたのかと緊張が走る。
けど無理矢理破ったり、かといって正しい道順で通って来たような反応じゃなかったわね。
まるで、そのまま何事もなく素通りしてきたみたいに。結界はちゃんと機能しているはずなのだけど······。
温泉から出て迎え撃とうと思ったけど、侵入者はすぐに私達の前に現れた。
それぞれ、緑色と紫色の髪と翼を生やした女の子だった。
[ヴェルデ] レベル920
ステータスの鑑定に失敗しました。
[パールス] レベル940
ステータスの鑑定に失敗しました。
緑色の子はヴェルデ。
紫色の子はパールスという名前みたいね。
見た目は可愛らしい女の子だけど、どちらも私じゃ鑑定出来ないくらいの実力者だわ。
マズイわね······。
温泉に入っている時にいきなり侵入者が現れるなんて思ってなかったから、服も武器も手元にないわ。
「――――――何をしに来たのですか、ヴェルデ、パールス?」
「もしかしてトゥーレが何か言ってるの? アチシ、この前ちゃんと報告しておいたよ?」
サフィルスとメリッサが二人に問いかけた。
どうやら、この二人はサフィルスとメリッサの知り合いみたいね。
ということは魔人族の関係者でもあるわけだけど、本当に何をしに来たのかしら?
とりあえずはサフィルス達とのやり取りを見守ることにする。
他の皆も私と同じ判断みたい。
また神樹を狙っているとかなら、黙っているわけにはいかないわね。
「――――――サフィばっかり色んな所に遊びに行って、ズルいズルい! メリッサもバルフィといっぱい遊んでるし! ヴェルデだって遊びたい! 戦いたい!! 殲滅したい!!!」
緑髪の子、ヴェルデは見た目通りの子供のように駄々をこねている。
普通なら可愛らしい光景なんだけど、ヴェルデが叫ぶたびに尋常じゃない魔力が放出されて、周りに被害が出ている。
言っていることも、なんだか不穏だし······。
「――――――メリッサはともかく、サフィは創造主に無断で動いとるやろ? 早いところ戻って謝った方がええで〜?」
紫髪の子、パールスはキリシェさんみたいな、ゆったりした喋り方で冷静みたいね。
会話の内容から、サフィルスを連れ戻しに来たのかしら?
「――――――私は新たな主人に仕えている身です。創造主には後ほど連絡を入れるつもりでした」
「――――――ちょいサフィ、人族に仕えるなんて、創造主を裏切るつもりやないやろな?」
「――――――そんなつもりはありません。ですが、私は自らの感情に正直に生きるつもりです」
サフィルスはレイ君を主人と呼んでいるのよね。
レイ君自身、なんでサフィルスがそんなことを言い出したのかわからないって言ってたけど。
「――――――サフィの言う主人ってあっちの方に反応のある人族のことやろ? サフィがそない言うなんて、どんな人族なんや? ウチも興味出てきたわ〜」
そう言ってパールスは男湯の方の壁をチラリと見た。
今、男湯にはレイ君が入っているはずだけど、パールスそんなことがわかるの?
レイ君達みたいな、探知魔法を使えるのかしら?
サフィルスとメリッサ、そしてヴェルデとパールスがそれぞれ言い合う。
この光景だけ見てると、ただの子供同士の喧嘩みたいね。二人は神樹を狙っているとか、そういう目的で来たわけじゃなさそうね。
このまま見てても話が進まなそうなので、割って入ることにした。
今のところだけど、一応敵意は感じないから。
「ねえ貴女達、里の結界はどうやって通ってきたの?」
まずは気になっていたことを聞いてみた。
「――――――ウチ、結界解除得意やから〜。ちゃんと通った後、元通りにしたから、安心してや?」
パールスが何でもなさそうにそう答えた。
全然安心出来ないわよ!
里の結界がそんな簡単に解かれるなんて。
············まあ、そのことは後で考えましょう。
「貴女達の目的は? メリッサとサフィルスを連れ戻しに来たの?」
「――――――それもあるんかな〜? メリッサはともかく、サフィは創造主に無断で動いとるんやし。けど、ウチらも実は独断でここに来たんやで〜」
思ってたよりも素直に答えてくれるけど、どういうことか、よくわからないわね。
「――――――サフィやメリッサばっかりズルいズルい! ヴェルデだって暴れたい! 殲滅したい!!」
「――――――とまあ、こないな感じにヴェルデが暴走してもうてな? 二人に文句言いに行くって聞かなかったんや。しゃーないから、一人で行かせるんわマズイ思うて、ウチもついてきたんや」
駄々をこねるヴェルデを見て、パールスがやれやれと苦笑いをうかべているわ。
つまりは止めることも出来ないくらいヴェルデが暴走して、パールスはそれに付き合って来たわけ?
その話が本当なら、本当に子供みたいな理由ね。
「――――――ヴェルデは、つい最近まで怯えて創造主の拠点から動きたがらなかったでしょう? もう立ち直ったのですか?」
「――――――もう平気だもん! 創造主はあんな変態滅多にいないから、心配いらないって言ってたし! ヴェルデ、もう人族なんて怖くないもん!」
なんの話かわからないけど、サフィルスの言葉に強く反発してる。
叫ぶたびに魔力が溢れて、洒落にならない状態になってるわ。
「――――――もういい! ヴェルデだって勝手にするもん! 思いっ切り暴れて、この里殲滅してやるんだから!!」
とうとう溢れる魔力を解放してしまった。
身の毛がよだつ殺気も感じる······。
そんな駄々っ子みたいな理由で暴れるつもり!?
見た目通りの子供のような性格だけど、ヴェルデから溢れる魔力はとてつもなく強大だわ。
これは本当にとんでもない事態ね。