352 殺戮人形襲来
(シノブside)
神樹の迷宮も、ついに250階層まで到達したでござる。順調に進んでいるでござるが、やはり師匠やアイラ殿がいないと少々厳しく感じるでござる。
迷宮を自由に出入りできる転移魔法を使えるのが、拙者しかいないのもあるでござるが、やはりお二人がいると安心感が違うでござるから。
今日の活動を終え、長殿の屋敷の前まで戻ってきたところで、師匠と鉢合わせたでござる。
師匠の話によるとフレンリーズ王国での問題はほぼ解決し、リイネ殿達は近々、国に戻るとのこと。
そうなれば学園も再開するだろうという話でござった。
ちなみにアイラ殿はリイネ殿達と込み入った話があるらしく、まだ帰らないとのこと。
「え〜、サフィルスだけズルい〜! アチシだっていっぱい戦いたいのに!」
師匠達が別の迷宮を攻略してきたと聞いて、メリッサ殿が駄々をこねているでござる。
メリッサ殿はまだ神樹の迷宮に入る許可をもらえていないので、羨ましそうにしているでござる。
長殿やフウゲツ殿も、メリッサ殿が特に何かしたわけでもないので、悪い人物ではないことはわかっていると思うでござるが、メリッサ殿を迷宮に入らせてしまったら、何か嫌な予感がするというのも、なんとなくわかるでござる。
師匠は長殿達に、今日の出来事を報告したら温泉に向かうと言っているでござる。
温泉に入っている間、サフィルス殿のことを頼まれたので、丁度良いので拙者達も一緒に向かうことにしたでござる。
サフィルス殿は師匠の側をあまり離れたがらないので、放って置くと男湯までついて行ってしまうでござるからな。
というわけで拙者とスミレ殿、メリッサ殿、サフィルス殿、そしてフウゲツ殿も一緒に入るとのことで、皆で温泉施設に向かったでござる。
脱衣場で着物を脱ぎ、中に入るとミール殿とミウネーレ殿の姿があったでござる。
「おや、シノブさん達も入りに来たのですか」
「一気に賑やかになりましたねー」
拙者達を見て、お二人が声をかけてきたでござる。
お二人以外は入っていなかったみたいでござるが、ミウネーレ殿の言う通り、賑やかになったでござるな。
「エイミ殿とキリシェ殿は一緒じゃないでござるか?」
お二人もいたら全員集合になっていたでござるが、姿が見えないでござるな。
「姉さんはレニーさんと里の人の手伝いをしていますね。あの二人、気が合うのか最近はよく一緒に行動しているんですよね」
「キリシェさんは、さっきまでユーリと一緒にいましたよー。キリシェさん、弟が出来たみたいで可愛いと言ってましたし、ユーリも満更じゃなさそうだったんですよねー。本当のお姉ちゃんはあたしなのにー!」
皆それぞれ色々な交流をしているようでござる。
良いことだと思うでござるが、ユーリ殿がキリシェ殿と仲が良いと聞くと、何かモヤモヤする気がするのは、どうしてでござろうか?
自分でも、よくわからない気持ちでござる。
雑談を交わしながら先ほど、師匠に聞いた話をミール殿達にも話したでござる。
「皆、帰ってしまうのね。賑やかだったから寂しくなるわね」
フウゲツ殿が残念そうに言ったでござる。
学園が再開すれば皆、王都に帰ることになるでござるからな。
今までのように、自由に動くことも出来なくなるでござるな。
「へえ〜、学園か〜。なんだか楽しそう! アチシも行っていいのかな?」
メリッサ殿が学園の話を聞いて興味津々でござる。さすがに簡単には入学出来ないと思うでござるが。
拙者が通っていたのも、学園の地下に現れた迷宮攻略のための特例でござったから。
――――――――――
ん? 今、何か妙な感覚があった気がしたでござるが、気のせいでござるか?
いや、この感覚は以前にも感じたことがあるでござるな。
「············結界を何かが通ってきた」
スミレ殿も感じたようでござる。
やはり今の感覚は、何者かが里を覆う結界を通った時に発生する、魔力の波紋というやつでござるか。
探知魔法で確認すると、2つの反応が里に入ってきているでござる。
敵でござるか?
「おかしいわね······。里の住人に外に出ている者はいないし、魔人や魔物にしては侵入が緩やかだったわ」
フウゲツ殿が首を傾げているでござる。
確かに以前、魔人が侵入してきた時は、もっと強い感覚に襲われたでござったな。
「あ〜! この反応」
「――――――ヴェルデとパールスですね」
メリッサ殿とサフィルス殿は、侵入者が何者なのか、わかったみたいでござる。
もしかして知り合いでござるか?
「――――――私と同じく創造主より命を授かった存在です。主に戦闘面で活躍する二人です」
サフィルス殿と同じというときらーどーると呼ばれる存在でござるか?
聞いた話によると、魔人にも恐れられているということでござるが。
何をしに幻獣人族の里に来たでござるかな?
2つの反応は、まっすぐにこちらに向かってきているでござる。
凄まじいスピードで気が付くと、もう反応が丁度真上に······。
「――――――見つけた見つけた見つけた!!! サフィ、メリッサ! 二人だけで遊ぶなんてズルいズルい! ヴェルデも混ぜて!」
そんな叫びが聞こえると同時に、緑色の髪と翼を生やした女性が舞い降りてきたでござる。
サフィルス殿とメリッサ殿を見て、頬を膨らませているでござる。
「――――――サフィ、勝手な行動して創造主がカンカンやで〜?」
続いて紫色の髪と翼の女性も降りてきたでござる。どちらも色が違うだけで、顔付きがサフィルス殿にそっくりでござるな。
一体何が目的で来たのでござろうか?
穏便に済めばいいのでござるが······。