350 勇者誕生
迷宮を攻略したオレ達は、元の王城の書庫に戻ってきた。目の前にはアイラ姉やリイネさん、そして何人かの兵士が集まっていた。
「レイ、一体何があった? お前達の姿が見えないので、捜していたのだぞ」
アイラ姉にそう問われたので、オレは今までの経緯を話した。
本が迷宮化していて、その攻略をしていたことを。そしてエネフィーさんが勇者のスキルを得たことも。
どうやらオレ達が迷宮に取り込まれ、戻ってくるまで一時間も経っていないらしい。
迷宮攻略に何時間もかけていたはずだが、外と迷宮じゃ時間の流れが違うのか?
いや、でも今までそんなことなかったと思っていたが······。
まあ、いいか。
迷宮化の原因となっていた本は、エネフィーさんの持つ聖剣に吸い込まれるように消えてしまった。
その影響か、聖剣の性能がさっきまでよりも上がっている。
(聖剣レムティオス)
攻撃力+20000
〈勇者の闘気、自動修復、魔法効果除去付与〉
かつて勇者が使用していた聖剣の一振り。
悪しき力を吸収することで性能を増している。
魔王の影が持っていた時は攻撃力10000もなかったはずだが、迷宮化していた本を吸収したことで倍以上上がっている。
以前オレが持っていた聖剣エルセヴィオよりも、性能が遥かに上だ。
もしかしてエルセヴィオも強くなっていく武器だったのかな?
聖剣が真の力を発揮したら、チート級の性能になるというのはゲームでもよくあることだし。
オレが持っていた時は、まだまだ真の力を発揮していなかった可能性がある。
いや、今はそんなことを考えるよりも、エネフィーさんを休ませないと。
徐々に体力は回復しているが、本調子には程遠い。
サフィルスは全然平気そうだが。
「大丈夫ですわ。これくらい、なんてことありませんわよ」
気丈に振る舞うが、少し無理しているのがわかる。
兵士達がすぐにエネフィーさんを介抱する。
疲労しているだけで怪我などはないから、心配はいらないとは思うが。
「しかし、まさか書庫にある書物が迷宮化するとはな······。エネフィーが勇者の資格を得たのも驚きだが」
リイネさんが言う。
エネフィーさんが、ほんの僅かな時間で自分を大きく上回ってしまったことに、なにやら複雑そうな様子だ。
「アイラ姉達の方は、何か収穫はあったの?」
「ウム、いくつか興味深い物を見つけはしたが、残念ながら異世界についての情報はないな」
元の世界に帰る手がかりはなかったみたいだ。
けど、まったく収穫がなかったわけでもないみたいだし、まだ書庫の本すべてを調べたわけでもない。
もしかしたら、今後有益な情報が見つかる可能性もある。
「レイの方は迷宮化した本以外には、何かなかったのか?」
アイラ姉に言われて、他にも本があったことを思い出した。確か他のは······。
「――――――これのことですか? すでに絶滅した種族について書かれた書物です」
サフィルスが1冊の本を取り出した。
そういえば、そんなものもあったな。
あれ? まだもう1冊あったような······。
「後の1冊はレイさんが仕舞われていましたわよね? 今、読むのは危険だと言っていましたけど」
エネフィーさんが思い出したように、そう言った。オレも完全に忘れていた。
何故か封印されていた中に大人用の本が混ざっていたことを。
内容が内容だけに、慌ててオレのアイテムボックスに入れておいたんだった。
「ほう、どんな本なのだ? レイ、見せてくれ」
アイラ姉が言う。
リイネさんやエネフィーさんも、こちらに注目する。
え、ちょっと待って······。
この状況で、大人用の本を出すのはマズイ気がするんだが。もちろんオレの物というわけではないから、堂々と出しても問題ない············わけないよな。
え、マジでどうしよう?
誤魔化せるような雰囲気ではない。
「えーっと······こ、これなんだけど······」
オレは観念してアイテムボックスから、問題の本を取り出した。
本の表紙には何も描かれていないため、中を見なければ内容はわからない。
本を開いたアイラ姉から、すぐに怒号が飛んできたのは言うまでもないだろう。
オレには前科があったため、アイラ姉を宥め納得させるのに苦労したと言っておこう。
この本を封印した人物を恨むぞ。
その横でリイネさんとエネフィーさんは大人用の本を食い入るように見ていた気がしたが、気のせいだったかな?
その後、エネフィーさんが勇者のスキルを得たことは思っていた以上に大事だったらしく、最終的にはフレンリーズ王国全体で大騒ぎとなった。
国の兵士や民からは、祝福の声がそこら中からあがっていた。
一時は国が滅亡する寸前まで魔王軍に追い詰められていたこともあり、勇者誕生は人々の大きな希望になりそうだ。
エネフィーさんも満更でもない様子だったけど、これから色々と忙しくなりそうだな。