349 書物の迷宮攻略完了
魔王の影との攻防の中、オレは剣技を放ち、奴の持つ聖剣を弾き飛ばした。
聖剣はエネフィーさんの、すぐ近くまで転がっていった。魔王の影が聖剣を取り戻そうと動くが、先にエネフィーさんが聖剣を手にした。
「······っ!? こ、これは······!?」
聖剣を持ったエネフィーさんの様子がおかしい。
聖剣とはいえ一時は魔物化していたし、そんなものを手にしたから、何か不具合が起きたのか!?
そんな不安がよぎったが、エネフィーさんの身体からは不具合どころか、逆に「聖」なる力が溢れ出していた。そして、エネフィーさんのスキルには(勇者の資格)というものが加わっていた。
これって名前の通り、勇者になれる資格を持った証のスキルだったよな?
まさか、エネフィーさんが勇者になったのか?
「··················!?」
魔王の影は言葉を発しないが、動揺しているように見える。
エネフィーさんが聖剣を持ったことで、魔王の影のステータスが下がっている。
逆にエネフィーさんとサフィルスは下がっていたステータスが元に戻った上で、さらに上昇した。
エネフィーさんが聖剣の力を使いこなしているんだな。
「わかる、わかりますわ······! 聖剣が私のことを認めてくれたのですわね······!」
エネフィーさんも初めは戸惑っていたが、すぐに気を取り直し、状況を把握した。
そして聖剣を手に構え、立ち上がる。
「··················!!」
魔王の影がエネフィーさんに向けて魔法を放った。しかし、聖剣の効果により、それをかき消した。
魔王の影の動揺がさらに強まる。
――――――――――!!!!!
背後からサフィルスが魔王の影の両腕を斬り落とした。斬られた腕は、床に落ちる前に消滅していく。
聖剣の効果が逆転してしまった今、魔王の影はサフィルスの敵じゃない。
そして今がチャンスと見たエネフィーさんが、聖剣で追撃をかけた。
「これで終わりですわ! 光来魔弾剣っ!!!」
エネフィーさんの持つ聖剣から眩い光の球が放たれ、魔王の影を滅していく。
そして、聖剣から溢れる光に包まれ、魔王の影が消滅していく。
「············っ――――――」
断末魔の叫びをあげそうな様子を見せて、魔王の影は完全に消え去った。
魔王の影を倒したことでエネフィーさんとサフィルスのレベルが上がっている。
特にエネフィーさんは、トドメを刺したから大幅に上昇していた。
勇者のスキルを得ただけでなく、他にもいくつかスキルがレベルアップしていた。
[エネフィー] レベル514
〈体力〉7800/68100
〈力〉45300〈敏捷〉40500〈魔力〉48800
〈スキル〉
(騎士の剣術〈レベル9〉)(身体強化〈極〉)
(指揮)(瞑想)(勇者の資格〈2/7〉)
これが今のエネフィーさんのレベルだ。
格上の敵にトドメを刺したため、一気に300以上上がっていた。
この場にアイラ姉とシノブがいれば、もっと上がっていただろうな。
まあ、それでも相当なレベルアップだ。
リイネさんのレベルを追い越してしまったな。
「私が············幻影とはいえ、魔王を······この手で······」
エネフィーさんが息を切らして、膝をついた。
大幅にレベルアップした反動だろう。〈体力〉は回復していなかった。
それにしても、まさかエネフィーさんが勇者になるとはな。正確には勇者候補か。
聖女と同じく勇者になるためのスキルだったか。
(勇者の資格〈2/7〉)
勇者になる資格を持つ証。
勇者に相応しい行為を7回以上行うことで正式な勇者へと覚醒する。
全ステータス大幅アップ。
特殊属性魔法習得。
危機に陥ると全ステータスがさらに極限上昇。
凄まじい効果だな。
勇者の資格でこれなら、本物の勇者になったらどうなるのだろうか?
しかし、勇者に相応しい行為ってどんなことだ? 表現が曖昧でよくわからないな。
「――――――敵対反応、完全消失を確認。周囲に新たな脅威はありません」
サフィルスが全身の刃物を収めた。
オレの探知魔法にも、もう反応はないし、これで終わりみたいだな。
そういや、守護者を倒したのにダンジョンコアが出てこないな。
それに別の迷宮の守護者であるエンジェに勝った時には(神眼)のスキルを手に入れたが、今回は新たなスキルを得ることもない。
もしかしてまだ何かあるのかと思ったが、それは杞憂に終わり、周囲が光に包まれ、オレ達は迷宮から脱出できた。