348 王女覚醒?
魔王の影という名の、迷宮の守護者が現れた。
今の魔王だか、過去の魔王のものだか知らないが、幻影でもかなりの強さだ。
この世界の魔王って実は大したことないのでは、と思ったこともあったが、考えが甘かったようだ。
サフィルスが全身から刃物を出し、戦闘態勢に入るが大量の魔物を吸収し、さらには聖剣によってパワーアップしている守護者相手では、さすがに分が悪いように見える。
「――――――ソード·スラッシュ」
サフィルスが自身の翼の羽根を引き抜き、剣へと変え斬りかかった。
魔王の影は手にした聖剣で、サフィルスの一撃を受け止めた。
「――――――ソード·フェスティバル」
続けて翼の羽根が何本も抜け落ち、鋭い刃となって魔王の影に追撃を加えた。
魔王の影はサフィルスの剣を受けつつ、襲い来る羽根も次々と撃ち落とす。
「··················!!」
魔王の影が反撃でサフィルスを斬りつけた。
サフィルスは全身の刃物を駆使して攻撃を受けるが、魔王の影の連続攻撃に押されていく。
これはオレも援護した方が良さそうだ。
「エネフィーさんは巻き込まれないように下がってて。オレもサフィルスと一緒に戦ってくる。魔王の影が迷宮の守護者みたいだから、アイツを倒せばここから脱出できるはずだ」
幸いにも大量にいた魔物はすべて魔王の影が吸収したので、もう警戒するのはアイツだけだ。
「待ってくださいレイさん、私も······」
「いや、魔王の影のレベルを考えたら、エネフィーさんが相手をするのは危険すぎる。サフィルスでさえ押され気味なんだから」
オレがそう言うと、エネフィーさんが悔しそうな表情を見せる。
遠回しに足手まといだと言ってしまったようなものだが、実際レベルが違いすぎる。
迂闊に近付くだけでも危険だ。
エネフィーさんもそれがわかっているから、オレの言葉に反論しなかった。
「ホーリーブレス!!」
サフィルスの相手に気を取られている魔王の影に、不意打ちで「聖」魔法を放った。
しかし、その魔法も聖剣の力によってかき消されてしまう。
魔物化から元に戻っても(魔法効果除去)のスキルは健在みたいだな。
まあ、もともとの聖剣の力らしいから当然のことか。というか、この魔王の影、どう見ても完璧に聖剣を使いこなしているな。
「大丈夫か、サフィルス?」
「――――――申し訳ありません、主人の手を煩わせてしまい······」
無表情だが、何だか悔しそうな口調でサフィルスが言う。自分一人の力で倒せないことが恥だと思っているようだ。
やっぱりこの子、最初に比べてだんだん感情表現がわかりやすくなってきているな。
「気にしなくていいから、ここからは二人で攻めるぞ」
「――――――承知致しました。全力でサポートします」
オレとサフィルスは、二人がかりで魔王の影に攻撃を加えた。
魔王の影は通常時よりも大幅にパワーアップしているが、ステータス的には、まだオレの方が上だ。
オレにはステータスダウンの効果も効いていないし、油断さえしなければ倒せるはずだ。
サフィルスが的確にサポートしてくれているし、このまま一気に決めてしまおう。
(エネフィーside)
魔物化した聖剣から吹き出た邪気が、魔王の影という魔物に変化しました。
この魔物が聖剣が魔物化した元凶のようで、魔王の影が姿を現すと同時に聖剣は元に戻りました。
私の鑑定魔法では、どれほどの強さか見えませんでしたが、肌で感じる魔力はとてつもない圧力です。
あの圧倒的強さを秘めているサフィルスさんですら、押されています。
こんな魔物が、我が国の書庫に封印されていたなんて······。
レイさんがサフィルスさんの援護に向かいました。私も共に戦うと言いましたが、危険だから下がっていてほしいと言われてしまいました。
確かにとてつもない強さを見せる魔王の影が相手では、私は足手まといにしかならないでしょう。
私の現在のレベルは200に迫り、ずいぶんと強くなったつもりでいましたが、まだまだ実力不足だということを思い知らされました······。
レイさんとサフィルスさんの二人がかりで、魔王の影を相手にします。
魔王の影はどういうわけか聖剣を使いこなせているようで、勇者様が使うスキルを駆使しています。
その効果で、私とサフィルスさんは大幅に力を抑え込まれてしまっています。
ですが、レイさんにはその効果が出ていないようです。やはり本物の勇者様であるレイさんには、聖剣の特殊効果も受け付けないようですわね。
魔法がまったく通用しない相手ですけど、レイさん達が優位に攻めています。
「蒼牙閻彗翔っっっ!!!」
レイさんが剣技を放ち、魔王の影の持つ聖剣を弾き飛ばしました。
弾かれた聖剣が私の目の前まで転がってきました。
魔王の影はすぐさま聖剣を取り戻そうと、こちらに向かってきます。
私は咄嗟に聖剣に手を伸ばしました。
勇者ではない私が聖剣を扱うことは出来ませんが、再び魔王の影の手に戻ることを防ぐためです。
少し触れるくらいなら問題ないと思っての行動でしたが······。
「······っ!? こ、これは······!?」
〈解放条件を満たしました。新たなスキルを手に入れました〉
そんな声が頭の中に聞こえてきたのと同時に、私の持つスキルに(勇者の資格)が加わっていました。
もしかして、私が勇者に······!?




