閑話① 2 風の妖精エアリィ
「だーかーらー、悪気があってやったわけじゃないノヨ! ここの果実が美味しすぎるのが悪いノヨ!」
目を覚ました妖精が騒がしく口を開いた。
コイツの名前はエアリィ。風の妖精らしい。
やはり今回の霧の魔物はコイツの仕業だったらしい。
最初はただのイタズラのつもりでやっていたらしいが子供達の果実を手に入れてその美味しさに感動して狙うようになったとか。
「妖精族が何故この町にいる? 人前に姿を現すどころか、人里にも滅多に近寄らないお前達が」
グレンダさんが問う。
この世界でも妖精の存在は珍しいのか。
「えっと······それは······ア、アタシにも色々事情があるノヨ!」
答えになっていない。
言いにくい理由でもあるのか目が泳ぎまくっている。
「この町に害をなそうと言うのなら、たとえ妖精族であっても······」
「わわわっ!? 待った、待ーーった!! アタシは別にそんなこと考えてないノヨ!」
剣を抜く構えを見せたグレンダさんを見て、慌ててエアリィは止める。
グレンダさんも脅しのつもりで本当に斬る気はないだろうけど。
まあ害を与えるつもりならもっと被害が出てただろうし、見た感じだが悪い奴には見えない。
······やかましい奴だが。
「正直に言う! 言うから乱暴はやめてほしいノヨ!」
観念したのかエアリィは身の上を語りだした。
さっきグレンダさんが言ってたように妖精族は基本臆病な性格らしく人里には滅多に現れない。
だがエアリィのように人に興味を持つ者もたまにいるようだ。
エアリィも妖精族の里とやらから抜け出して、この町に来たらしい。
そして幻影で作り出した魔物に驚く人の姿が面白くてイタズラしていたと。
······迷惑な奴だな。
「というわけで、ここの果実が気に入ったからしばらくこの町に住ませてほしいノヨ!」
そして図々しい奴だな。
妖精は肉などは食わず、果実や野菜などの森の恵みを糧にしているらしい。
エアリィは相当ここの作物が気に入ったようだ。
別に住むくらいならオレ達は構わないが······。
「悪事さえ働かなければ住むのは問題ないぞ」
この町の領主の息子であるグレンダさんが言うなら問題ないだろう。
「ではエアリィよ。お前はこの町の人達、特にここの子供達に散々迷惑をかけたわけだが、何か言うことはないか?」
アイラ姉が少し強い口調で言う。
「へ、言うこと······?」
「お前は果実欲しさにイタズラをしただろう? その謝罪を聞いていないが?」
「そ、それは······悪かったとは思ってるノヨ?」
アイラ姉の迫力に少したじろぐエアリィ。
「しっかりと謝罪出来ない者には、ここの作物を与える気はないぞ」
「そ、そんな······! いいじゃないノヨ! あんなにいっぱいあるんだからアタシに少しくらい分けてくれたって······!」
うわっ······エアリィ、それは言っちゃいけないセリフだ。アイラ姉はそういう自分勝手な言葉が大嫌いなんだよ。
案の定アイラ姉の表情が少し険しくなっていた。
「シノブ、その妖精をつまみ出せ」
「······了解でござる」
「へ? ちょ······な、なんでなノヨ!?」
アイラ姉に言われてシノブがエアリィを外に出そうとする。エアリィは慌てたように事態を理解できていなかった。
「自分勝手な者を置いておく気はない。外の作物を採ることも許さん。さっさと妖精族の里とやらに帰るがいい」
静かな口調だが、結構怒ってるな。
「ま、待って!? 待ーーって!! アタシここ追い出されたら行くアテがないノヨ!!」
行くアテがない?
アイラ姉の言うように妖精族の里に帰ればいいだけだろう。そう思ったのだがどうやら帰れないらしい。
「帰りたくても里の場所がもうアタシにもわかんなくなっちゃったノヨ!!」
どういうことかと詳しく聞くと妖精族の里は空を飛ぶ島にあるらしく常に移動しているだとか。
そして結界によってその存在を隠しているようだ。
一度見失うと妖精族でも里の場所がわからなくなるらしい。イタズラに夢中になって里の場所を見失ったと。
完全に自業自得だな。
けど故郷に帰れない割にはあまり悲壮感がないな。
「里の中にいても退屈だったから飛び出したノヨ。その内見つければいいだけなノヨ」
そう思って聞いたら、そんな答えが返ってきた。
ああ、そういうこと。
「帰れないとしてもそれは私には関係ないことだ。ともかくここに住むことは私が許さん」
取り付く島もないというやつだな。
さっきのエアリィの言葉にかなり怒っているな······。
これは少し時間をおいて頭を冷やしてからの方が良さそうだ。
エアリィの態度を考えても、火に油を注ぎかねない。
「むーーっ! なんなノヨあの人間は!? あんな拒絶することないじゃないノヨ!」
一度エアリィを外に連れ出した。
そんなに悪い奴ではないが、態度が悪い。
あのままではアイラ姉の逆鱗に触れかねない。
「まあまあ、アイラ姉の頭が冷えたあたりでちゃんと謝ればいいよ」
「そもそもアタシはちょっと脅かしただけなノヨ! それなのにあんなに怒ることないじゃないノヨ!」
やれやれ、こっちはこっちで冷静じゃないな。
この様子じゃ素直に謝りそうもない。
けどちゃんとした謝罪をしなければアイラ姉はエアリィを認めないだろう。
「アンタ達からも言ってなノヨ! アタシは悪くないって」
いや、悪いのはお前だろう。
まあ確かに軽いイタズラだったかもしれないが。
「残念だけど、ああなったアイラ姉はオレじゃあどうしようもないな」
「拙者にも無理でござるな」
オレとシノブは首を横に振った。
ちゃんと謝ればそれで済む話なんだが簡単にいきそうにないな。
エアリィもここの果実を諦められないようだ。
「そんなこと言うならアタシが本気になったらどうなるか見せてやるノヨ!」
エアリィがそう言うと魔力を身体から解き放った。
周囲が濃い霧に包まれる。
おいおい、何するつもりだよ。
「ふっふっふっ······なノヨ! アタシの幻影でこの町を恐怖に陥れてあげるノヨ!」
エアリィがあまり豊かではない胸を張りながら言う。霧の中から色々な魔物の姿が現れた。
だがステータスも何も見えない。
本当にただの幻影のようだ。
直接人に危害を加えることは出来ないだろうが何も知らない人がこれを見たらパニックになりそうだ。
この妖精、ムキになってバカなことをやるつもりだ。
そんなことしたらアイラ姉だけじゃなく、グレンダさんの怒りも買うことになるぞ。
「さあ恐怖の始まりなノヨ!」
そう言ってエアリィは霧の中に消えた。
霧に紛れられると探知魔法でも引っ掛からない。
「······シノブ、あの妖精を捕まえるぞ。放っておくと大変なことになりそうだ。······あいつが」
「了解したでござる。やれやれでござるな師匠」
シノブもエアリィの行動に呆れているようだ。
本当にやれやれだな。
とはいえ探知魔法に引っ掛からないとなると見つけるのは面倒だな。
シノブとわかれて別々に探すことにした。
探知魔法をアテに出来ないし地道に捜すしかないかな。
あの妖精、独特な魔力を発していたし魔力の流れを辿れば見つかるかもしれない。
この時オレは例のごとくアレを手に掴んでいることに気付いていなかった。




