345 書物の迷宮〈最下層〉
9階層で落とし穴の罠に嵌り、迷宮の最下層まで落ちてしまった。
最下層に落ちたオレ達を待ち受けていたのは、大量の魔物だった。
床に散乱している本から次々と魔物が召喚されていて、部屋の中は、あっという間に魔物で溢れ返ってしまった。
待ち受けているのは迷宮の守護者だと思ってたんだけど、最下層はまさかの魔物部屋かよ。
オレ達は大量の魔物に取り囲まれる形となってしまった。
「こ、これほど強力な魔物が、こんなにも大量に······」
さすがのエネフィーさんも、魔物のあまりの数に腰が引けていた。
ゴブリンやオークの変異種や、大型のトロールやサイクロプス、さらには獣タイプの魔物など多種多様だ。
魔物の平均レベルは100ってところか。
ザッと確認しただけだが、高くても200くらいだ。数が多くても冷静に対処すれば、どうにでもなりそうだ。
エネフィーさんの安全を最優先に考えよう。
「サフィルス、遠慮はいらない。周囲の魔物をすべて殲滅してくれ!」
「――――――了解しました、主人」
オレはサフィルスに、そう命令した。
サフィルスの身体中から刃物が現れ、さらには翼を大きく広げて、戦闘態勢に入った。
オレとエネフィーさんも、それぞれ武器を構える。
「「「「「グオオーーッ!!!」」」」」
周囲の魔物が一斉に襲いかかってきた。
数が多いだけに、すごい唸り声だ。
「――――――ソード·フェスティバル」
サフィルスの翼の羽根がいくつも抜け落ち、周囲を旋回し魔物達を切り刻んでいく。
サフィルスの羽根は鋭い刃になっていて、まともに受ければオレでもダメージを負うくらいだからな。
魔物達は為す術もなく倒されていった。
さすがは戦闘用殺戮人形と呼ばれる存在だな。
圧倒的強さで、次々と魔物を斬り倒していく。
いつの間にか、サフィルスのレベルが905に上がっていた。やはりサフィルスも、オレ達のようにレベルアップするんだな。
「私も負けていられませんわ······!」
サフィルスがどんどん魔物を倒すことで余裕が出来て、エネフィーさんも負けじと参戦した。
オレとエネフィーさんは、サフィルスの討ち漏らした魔物を倒していった。
倒した魔物の死体は残らず、霧のように消えていっている。
――――――――――!!!!!
だが、倒しても倒しても周囲に散らばった本から、新たに魔物が召喚されてくる。
いっそ「炎」魔法で本を全部焼き払おうかと考えたが、それで一気に部屋全体に燃え広がったら、オレ達も危ないか。
よく見ると、魔物を倒すたびに床に散らばっている本が少なくなっている気がする。
召喚出来なくなった本が消滅しているのか。
どうやら無限湧きではなく、有限みたいだな。
このまま倒し続けていれば、魔物を全滅させられそうだ。
サフィルスの無双、そしてオレとエネフィーさんも、それに負けずに次々と倒しているので、目に見えて魔物の数が減ってきていた。
その戦闘によって、エネフィーさんのレベルはどんどん上がっていき、もう少しで200を超えそうな勢いだ。
レベルが上がれば魔物との戦闘も楽になり、かなり余裕が出てきている。
レベルが上がっても体力までは回復しないので、その点は注意が必要だが、そこはオレが庇いながらフォローしている。
ちなみにオレは未だにレベル999から変動がない。アイラ姉はレベル1000を超えたので、今のレベルが上限じゃないはずだが、レベルアップする気配がまったくない。
やはり何か特別な条件でもあるのだろうか······?
――――――――――!!!!!
そんなことを考えながら戦っていたら、突如嫌な感覚に襲われた。
なんだ? 特に体調に異常はないが、明らかに妙な感じがしたのだが。
〈勇者の闘気〈邪〉の効果を抵抗しました〉
メニュー画面にそんな表示が出ていた。
勇者の闘気?
以前、オレが持っていた聖剣エルセヴィオに備わっていたスキルのことか?
自分自身と仲間のステータスを上昇させ、さらに敵のステータスを下げる反則的なスキルだったが。
「な、なんだか身体にうまく力が入りませんわ······」
「――――――何者かによる魔術干渉を確認。警戒を強めます」
エネフィーさんが膝をつき、サフィルスも攻撃の手を止めた。
二人ともステータスがかなり下がっている。
オレは抵抗できたが、二人は今の効果を受けてしまったようだ。
エネフィーさんは仕方無いにしても、まさかサフィルスにまで効果が出るとは······。
「「「「「グオアアーーッ!!!」」」」」
逆に周囲のすべての魔物のステータスが上昇していた。力が上がったことにより、興奮状態になっているみたいだ。
一体誰が(勇者の闘気)なんてスキルを使ったんだ? 〈邪〉なんて禍々しい言葉も付いているし。
まさか魔物の中に勇者がいるのか?
そう思って周囲を見回すと、部屋の丁度中心部分に豪華な装飾が施された剣が突き刺さっているのが見えた。
あの装飾には見覚えがある。
まさかあれって聖剣なのか?