342 本の魔物
封印されていた本の1冊を開いたら、迷宮に取り込まれてしまった。
周りは本棚に囲まれていて、迷宮というより、かなり広い図書館みたいだ。
転移魔法を使えないし、出口も見当たらない。
現状、最奥を目指し迷宮の守護者を倒す以外に脱出の手段はない。
幸い、この迷宮は全10階層しかなく、それほど深くはない。
その気になれば攻略は難しくはないだろう。
「迷宮攻略ですか、なんだかワクワクしますわね」
今の状況を把握して、エネフィーさんがそう言った。いきなり迷宮に取り込まれて、不安に思ってるかと心配したけど、そこは大丈夫そうだ。
まあエネフィーさんは、リイネさんに負けず劣らずの気の強い性格だからな。
本当にこういう状況を楽しんでいそうだ。
[エネフィー] レベル82
〈体力〉1220/1220
〈力〉1080〈敏捷〉1150〈魔力〉660
〈スキル〉
(騎士の剣術〈レベル7〉)(身体強化〈中〉)
(指揮)(瞑想)
ちなみに、これが今のエネフィーさんのステータスだ。初めて会った時はレベル30くらいだったが、アイラ姉の訓練のおかげで、ここまで上がっていた。
魔王軍の魔人とも、一対一で渡り合えるくらいに強くなっている。
問題は、この迷宮で出現する魔物がどれくらい強いかだな。今までの経験から、迷宮の魔物は普通よりも強力なはずだからな。
以前、勇者の試練の迷宮でミール達に与えたみたいに、エネフィーさんにも加護を与えるべきか迷ったけど、それは少し迷宮を確認してから考えよう。
加護を与えるには、キスをする必要がある。
さすがに恥ずかしいし、何度やっても慣れるものじゃないからな。
エネフィーさんだって、いきなり男のオレとキスするなんて嫌だろうし。
「――――――迷宮攻略開始します。何が起こるか未知数のため、戦闘形態第三段階より入ります」
サフィルスが背中から翼を広げ、全身からは刃物を出した。
敵として戦った時は手強かったけど、味方だと頼もしいな。
「サフィルス、エネフィーさんを守ってあげてね」
「――――――了解しました。守護対象第一優先を主人、第二を個体名エネフィーと登録します」
サフィルスがそんなことを言っていた。
オレじゃなくてエネフィーさんを優先してほしいんだけど、とりあえずはいいか。
「サフィルスさん、でしたわね? 以前は色々ありましたけど、今は行動を共にする仲間ですわ。よろしくお願いしますわね」
「――――――了解。主人からも仲間との親睦を深めるよう指示されています。こちらこそ、よろしくお願いします、エネフィー」
エネフィーさんとサフィルスが握手を交わした。
エネフィーさんは、以前に一歩間違えれば殺されていたかもしれない相手であるサフィルスを受け入れている。
器が大きいのか、肝が据わっているのか。
まあ、ギスギスした関係になるよりいいかな。
というわけで迷宮攻略開始だ。
オレが先頭になって進んでいく。
MAPで確認する限り、そんなに広いフロアもない。順調に進めれば、今日中に攻略できるだろう。
周りを本棚で囲まれているが、中の本を取り出すことができない。
周囲に浮いている本も、固定されているようで動かせなかった。
ここにある本は、ただの迷宮のシンボルだと思っていいみたいだな。
そう思って進んでいたら周囲の本棚から、いきなり本が飛び出してきた。
敵や魔物の姿はない。
本だけが生きているかのように動いている。
[グリモワール] レベル60
〈体力〉2600/2600
〈力〉10〈敏捷〉710〈魔力〉1070
〈スキル〉
(魔力増加〈大〉)(魔力回復速度上昇〈中〉)
(連続詠唱)(同時詠唱)(詠唱短縮)
本を鑑定魔法で見たら、ステータスが表示された。本の姿をした魔物のようだな。
こういう無機物タイプの魔物もいるのか。
たいして強くはないが、一体だけじゃなく周りの本棚から次々と飛び出してきた。
「魔物ですわね! 相手にとって不足はありませんわよ!」
エネフィーさんが剣を取り出し、構えた。
ちなみにエネフィーさんの武器は特注のミスリル製の剣で、通常の物より性能が高い。
「――――――敵対反応確認。これより殲滅開始します」
サフィルスも翼を広げて、攻撃態勢に入った。
オレも魔剣ヴィオランテを構える。
本の魔物のページが自動的に開き、パラパラとめくられている。
そして開いたページから魔法を放ってきた。
「炎」「風」「水」······あらゆる属性魔法が一斉に襲いかかってくる。
とはいえレベル60前後の魔物の魔法だから、大した脅威じゃない。
今のオレなら、まともにくらってもダメージを受けることがないくらいだ。
オレは魔法を強引に突破して、魔剣で本の魔物を斬り裂いた。
「――――――ソード·フェスティバル」
サフィルスは魔法攻撃を物ともせずに、四方八方に斬撃を飛ばして、魔物を切り刻んでいた。
サフィルスは心配いらないな。
問題はエネフィーさんの方だが······。
「はあっ! 流水剣、ですわ!!」
エネフィーさんも魔法を器用に躱して、魔物を剣技で斬り裂いていた。
オレやサフィルスと違い、エネフィーさんと魔物はレベル差はそれほどなく、攻撃をまともに受ければダメージは避けられないだろう。
だが、魔物の魔法はエネフィーさんに一度として、かすることすらなかった。
エネフィーさんの戦闘技術は、オレよりも上かもしれないな。
しばらくして、本の魔物はすべて殲滅した。
サフィルスはもちろん、エネフィーさんも充分な戦力となっている。
これなら、このまま一気に迷宮攻略できそうだな。