339 殺戮人形の恐怖
オレとアイラ姉は、サフィルスを連れてフレンリーズ王国まで来ていた。
本当は連れて来るつもりはなかったんだけど、サフィルスがオレの側を離れたがらなかったので、こちらが妥協した。
まあ、リイネさんやエネフィーさん達に事情の説明も必要だろうからな。
サフィルスはフレンリーズ王国でずいぶんと暴れたし、どういう反応されるか不安だけど。
一応、サフィルスには帽子を被らせて服装も変えさせているので、パッと見は普通の女の子にしか見えないだろう。
城までたどり着くと、入口の兵士が敬礼して迎え入れてくれた。
勇者だと誤解されてから、兵士達の対応が大袈裟になっている気がする。
見張りの兵士はサフィルスを見ても特に何も言わずに、そのまま通してくれた。
オレ達の関係者ということで信用してくれているようだが以前、暴れた蒼髪の少女だとは気付いていなさそうだけど、大丈夫だろうか?
「レイ、アイラ。来ていたのか」
城の中庭付近を通りかかったところで、リイネさんに声をかけられた。
向こうの方にはエネフィーさんの姿も見える。
聖女アルケミアやグレンダさん達は、今は城に居ないようだ。
中庭には捕らえていた魔王軍の魔人達と、それを取り囲むように多くの兵士達が集まっていた。
魔人達の中には魔王軍幹部の姿もある。
「これは何をしているのだ、リイネ?」
アイラ姉が問う。
魔人達は抵抗せずに、おとなしくしている。
「魔人達に隷属の首輪をかけていたところだ。その後は鉱山地帯に連れて行き、働かせるつもりだ」
よく見たら、魔人達一人一人に奴隷の首輪が着けられている。捕らえた魔人達は、犯罪奴隷同様の扱いにするつもりらしい。
隷属の首輪を着けた奴隷は、主人として登録された者の命令に逆らえなくなる。
ギュランと一部の魔人は、城に残すつもりのようだが。
まあ、侵略してきた奴らだから、妥当な扱いと言えるかな。
「ところで、その少女はどちら様ですの?」
エネフィーさんもこちらに気付き、声をかけてきた。オレの後ろにいるサフィルスを見て、首を傾げている。
エネフィーさんも、サフィルスの正体に気付いていないみたいだ。
どう紹介しようかと思っていたら、サフィルスが自分から前に出てきた。
「――――――私は主人の従僕のサフィルスです。どうぞ、お見知り置きを」
何をするかと思ったら、普通に挨拶と自己紹介をした。アイラ姉がある程度常識について教育していたし、その効果が出たのかな?
しかし、頭を下げた時に被っていた帽子が落ちてしまった。
「······!? お前はっ」
「あ、あの時の少女ですの······!?」
帽子の中で纏めていた蒼色の髪の毛が広がってしまい、リイネさん達がサフィルスの正体に気付いた。
周りの兵士達もそれに気付いて、全員が武器に手を掛け、緊張が走る。
「レイ、アイラ、どういうことだ? 何故、この少女がここにいる?」
リイネさんも、いつでも武器を抜けるように緊張しながら言う。
やっぱりそういう反応になるよな。
「大丈夫だリイネ、エネフィー殿。サフィルスに敵対の意思はない」
アイラ姉がリイネさん達や兵士達を宥める。
アイラ姉の言葉で多少は緊張が収まるが、やはり皆、警戒心強めでサフィルスを見ている。
「お、お前はトゥーレミシア様の人形······。そうか、俺様を助けに来たんだな!?」
そう言ったのは、魔王軍幹部のギュランだ。
サフィルスを見て、勝利を確信したような笑みをうかべている。
周りの魔人達も似たような表情だ。
そういやコイツ、サフィルスに仮の指揮者とか呼ばれていたっけ。
一時的にトゥーレミシアって奴から、サフィルスへの命令権を与えられているらしいけど、もしかしてヤバい事態か?
「おい人族共!! 俺様をこんな目に合わせやがって、後悔してももう遅いぞ! 命令するぜ、殺戮人形の力を見せてやれ!!」
ギュランが命令を下すが、サフィルスは動きを見せない。ギュランは焦って、さらに命令するがまったく動く様子はない。
「な、なんで従わないんだ!? 確かにトゥーレミシア様に命令権を与えられたはず······」
「――――――仮の指揮権はすでに上書きされ、消失しています。私の現在の主人はこの方です。仮、ではなく正式なものですが」
サフィルスがオレの前に跪いた。
全員がオレに注目するので、すごく居心地が悪いんだが······。
「あ、新たな主人だと······!? なんでそんな人族に従い······」
――――――――――!!!
言葉の途中で、ギュランの片腕が斬り飛ばされた。
いつの間にか、サフィルスの全身から刃物が現れている。
「――――――ゴミ? それは主人のことを言っているのですか?」
無表情ながら、鋭い眼光でギュランを睨む。
もしかしてサフィルス、すごく怒ってない?
普段は感情があるのかわからなかったけど、今は物凄い怒気を感じる。
オレのために怒ってくれているようで、それは嬉しい気はするが、このまま放って置くのはマズそうだ。
「ま、ままま、待てっ!? 俺様は、お前の······」
「――――――主人への侮辱の言葉、万死に値します。これより殲滅を開始します」
「ひ······ひぃぃっ!!?」
斬り飛ばされた腕を再生しながら、ギュランはなんとか声を絞り出す。
サフィルスがさらに背中から蒼色の翼を出して、完全に臨戦態勢となった。
その姿を見て、ギュランだけでなく、周りの魔人達全員が怯えている。
ギュランのレベルは210で、他の魔人達は精々50〜80に対して、サフィルスはレベル900。
魔人達では、どう背伸びしても勝てる相手ではない。
「ちょっと待った、サフィルス!」
さすがに止めないと本気でマズそうだったので、オレはサフィルスと魔人達の間に入った。
「――――――今の主人への暴言は許容できません。殲滅の許可を」
「いや、オレは気にしてないから、とりあえず落ち着こう。コイツらは殲滅しなくていいからね」
「――――――······了解しました。主人の命令に従います」
オレがそう言うと、なんとかサフィルスは矛を収めた。ここで冗談でも殲滅しろなんて言ったら、本当にコイツらを皆殺しにしそうだ。
ギュランはサフィルスの怒気を浴びて、気を失っていた。周りの魔人も怯えるか、気を失うかで恐慌状態だ。
改めて、サフィルスの扱いには注意しないとな、と思った。