337 温泉でのスキンシップ
(ミールside)
サフィルスがシノブさんに、温泉施設の使い方を色々と教わっています。
表情に変化はありませんが頷いたり、ちゃんと返事をしているので理解しようとしているようですね。
未だに元気良く泳いでいるメリッサとは対照的に、ずいぶんおとなしい人物ですね。
フレンリーズ王国でレイさん達と、どんな戦いを繰り広げたのか気になります。
「――――――壁の奥に主人の反応があります。突破してもよろしいですか?」
「だ、駄目でござる! そっちは男湯でござるから、女人禁制でござるよ!」
サフィルスが男湯と女湯の仕切りを乗り越えようとしていたので、シノブさんが慌てて止めています。
どうやら男湯の方にはレイさんも来ているみたいですね。
サフィルスはシノブさんに石鹸やシャンプーの使い方を教わり、身体を洗い終えたら湯船に入りました。
スミレさんも一緒に湯船に浸かり、メリッサもようやく満足したのか、ゆっくり浸かり出しました。
「ねえねえ、サフィルス。なんでレイおにーさんのこと主人なんて呼んでるの?」
メリッサがサフィルスに問います。
その言葉を聞き、姉さんやミウネーレさんも興味津々に聞き耳を立てています。
ワタシも詳しい話を聞きたいです。
「――――――私は主人と戦い、そして敗れました。主人との戦いで受けた衝撃は、今でも忘れられません」
詳しい内容は知りませんが、レイさん達がフレンリーズ王国で魔王軍と戦ったという話は聞いています。
サフィルスは魔王軍の切り札のような立ち位置で、魔王軍幹部よりも圧倒的に強いという話でした。
魔王軍幹部の強さがどのくらいかはわかりませんが、確かにレベル900のサフィルスより強いとは思えません。
というか、ワタシ達も相当にレベルアップしているので感覚がおかしくなっていますが、レベル900なんて国の一つや二つ滅びたって不思議ではない強さです。
魔王軍も彼女を制御することができず、ほぼ敵味方関係なく暴れていたそうです。
今の落ち着いたサフィルスを見ていると、あまり想像できませんね。
レベルや強さ的にはレイさんの方が上ですけど、どちらも規格外なレベルには変わりないので、相当な激闘だったのではないでしょうか。
「――――――特に武具を持たずに身一つで私の攻撃をすべて受け流すその姿は衝撃的でした。そして最後の攻撃を受けて私の中で何かが目覚めたような感覚があったのです」
························おや?
戦いの内容に何か違和感を感じますね。
武具を持たずに身一つで戦う姿とはもしや······?
姉さんやミウネーレさんは特に疑問を感じていないようでしたけど、シノブさんは何かを察した表情をしていました。
これは後でレイさんを問い詰める必要がありますね。
「そっか〜、レイおにーさん、バル兄ともまともに戦えるくらい強かったもんね。アチシも戦ってみたいな〜」
そういえばメリッサは、かなりの戦いたがりでしたね。クラントールでは強そうな人を探して、冒険者ギルドで大暴れしていましたし。
ワタシと戦っている時も、終始楽しそうにしていました。
けど、負傷者こそ出しましたが圧倒的強さを持っているにも関わらず、誰も殺したりはしていません。
無邪気なところがかえって厄介ですが、悪人と呼ぶほどの人物でもありませんね。
「お二人とも、本当に魔王軍の一員なんですかー? なんだか全然そんな気がしないんですけどー」
ミウネーレさんが首を傾げて問います。
姉さんも同じことを思っているようで、ウンウン頷いています。
「え〜、違うよ! アチシ達は魔王軍とは関係ないからね。あんな奴らと一緒にしないでよ」
「そういえばメリッサ殿、前にもそんなことを言っていたでござるな。魔王軍とは、具体的にどんな連中なのでござるか?」
シノブさんがメリッサに問います。
ワタシも魔王軍についてはほとんど知らないので、聞いてみたいですね。
「魔王って奴が従えてる魔人の集団のことだよ。アチシは知らないけど、前の魔王が従えてた時はまともだったのに、今の魔王に変わってから脳筋集団になったってトゥーレが言ってた。アチシも今の魔王軍嫌いなんだよね〜、乱暴で下品な奴らばっかりで!」
メリッサが心底嫌そうに言っています。
前の魔王とは、何百年か前に勇者に討たれたという魔王のことでしょうか?
今の魔王は、前の魔王の後継者ということなのでしょうか?
そもそもワタシは、前の魔王のこともよく知りませんが。
――――――――――ガラッ
「なんだ、皆も入っていたのか」
「あら〜、勢ぞろいね〜、賑やかでいいわ〜」
入口の扉が開き、アイラさんとキリシェさんが入ってきました。
キリシェさんの言うように、どんどん賑やかになってきますね。
「アイラ〜、キリシェ! オンセンって気持ち良いね!」
「ウム、マナーを守りおとなしく入っているのだな。シノブがちゃんと教育しているのだな」
メリッサの言葉に、満足そうにアイラさんが言いました。さっきまで存分に泳いでいましたけどね。
シノブさんは苦笑いをしていましたが、特に何も言いませんでした。
「あなたはサフィルスちゃんだったわね〜。私はキリシェよ〜、よろしくね〜」
「――――――肯定します。主人からも、仲間と親睦を深めるよう仰せつかっています」
「もう固い言い方ね〜? もっとリラックスしていいのよ〜。あら〜肌スベスベね〜、羨ましいわ〜」
「――――――過度な接触はやめてほしいと告げます」
キリシェさんがサフィルスに抱きつき、もみくちゃにし出しました。
キリシェさん、怖いもの知らずですね。
サフィルスはワタシ達の倍近いレベルなんですよ?
まあ、サフィルスもあまり不快に思っている様子ではありませんが。
「わ〜、楽しそう! アチシも混ぜて!」
そこにメリッサも加わり、さらに騒がしくなりました。ついでにスミレさんも混ざりたそうにしています。
姉さんとミウネーレさんは巻き込まれないように、ちょっと距離を取りました。
「まったく······まあ、この面子でおとなしくしろというのが無理なのかもしれないな」
それを見て、アイラさんが頭を抱えています。
魔王軍について、詳しく聞く雰囲気じゃなくなりましたね。
その後、全員のぼせそうになるくらいの長湯になりました。