335 レイの新たな下僕?
「それで、これは一体どういうことなのだ、レイ?」
アイラ姉が蒼髪の少女をチラッと見て、そう言ってきた。それはオレが聞きたい。
オレ達は今、幻獣人族の里の長の屋敷の前にいる。あのままフレンリーズ王国にいたら、誰かが通りかかる可能性があるからな。
蒼髪の少女はフレンリーズ王国で散々暴れてしまっていたから、見られたら大騒ぎになるかもしれないので、一緒に転移してきた。
「えーと、オレを新たな主人とするって、どういうことかな?」
オレは未だ跪いている蒼髪の少女に問いかけた。
今のところ、襲いかかってくる様子はない。
以前は話し合いなんて出来る様子ではなかったのだが、今の蒼髪の少女は普通に話が通じるっぽい。
相変わらず無表情だが、前みたいにロボットのような無機質な感じではない気がする。
「――――――貴方様に誠心誠意尽くし、従います。私は貴方様を生涯仕えるべき主人だと判断致しました」
答えになっているような、なっていないようなことを言う。
こちらを油断させて何か企んでいる可能性もあるが、そういうふうにも見えない。
本当にオレに仕えに来たのか?
グラム達、ゴーレムやスライムのメイドさん達のような感じだろうか?
オレは主人なんて器じゃないと思うんだけど。
それにしてもこの子、本当に以前とは雰囲気が違う。どういう心境の変化だろうか?
「レイ、この少女に何をした?」
蒼髪の少女の様子を見て、アイラ姉が怪訝な表情でオレに問いかけてきた。
何をしたと言われると、ものすごく答えづらい。
「えーと······この子は前に話したフレンリーズ王国で現れた、正体不明の少女なんだけど······」
とりあえずは無難に説明する。
アイラ姉に魔王軍の拠点で現れた少女のことを話してはいたが、実際見るのは初めてだったな。
この子が例の少女だと説明した。
「······なるほど、確かに強いな。リイネ達が敵わなかったというのも納得だ」
アイラ姉が鑑定魔法で、蒼髪の少女のステータスを見たようだ。
蒼髪の少女は小柄で華奢な見た目だが、レベル900もあるからな。
少なくともこの子、学園地下迷宮で現れた弱体化していた冥王よりも強いんだよな。
「あれ、サフィルスじゃん? なんでここにいるの?」
どうしようかと悩んでいたら、そんな声が聞こえてきた。声の主はメリッサだ。
横にはシノブやスミレの姿もある。
どうやら里の復興を手伝っていて、今帰ってきたようだ。
「――――――メリッサ、あなたこそ何故ここに? 創造主があなたから定期連絡が来ないとお怒りでしたよ」
「あれ? サフィルス、なんか雰囲気変わったね?」
蒼髪の少女が逆に質問する形で答えた。
やはり二人は顔見知りらしいな。
メリッサもトゥーレミシアって奴が作り出した人形だって話だからな。
正直、未だにメリッサが人形だって信じられないけど。
まあそれはいいとして、メリッサにとっても今の蒼髪の少女は普段とは様子が違うように見えるようだ。
口調も以前は機械的なものだったのが、今は流暢に話しているし。
「師匠とアイラ殿の知り合いでござるか? メリッサ殿とも顔見知りのようでござるが」
シノブが首を傾げながら蒼髪の少女について聞いてきたので、簡単に今までの経緯を説明した。
「――――――創造主より与えられた私の名はサフィルスです。新たな主人の手足となり誠心誠意を持って尽くすことを誓います」
蒼髪の少女、サフィルスが改めて自己紹介をした。
こうして見ると、普通に礼儀正しい可愛い女の子だよな。以前、冷血に魔王軍の連中を血祭りに上げていたのが信じられないくらいだ。
「··················ボクよりも強い」
スミレがボソリとそう言った。
スミレもこの子の異常な強さを感じ取ったみたいだ。
少し悔しそうな口調に聞こえたのは気のせいだろうか?
「あら〜、可愛い子が増えてるわね〜?」
気の抜けそうな口調で、そう言ってきたのはキリシェさんだ。
ミウやユーリも一緒だ。
さらにエイミとミールもやってきた。
もう日が暮れる時間帯で、里の復興を手伝ってたりで出掛けていた皆が続々と帰ってきたようだ。
長の屋敷の前が一気に騒がしくなる。
「また新しい女性を誑かして連れてきたんですか、レイさん?」
オレの前で跪いている蒼髪の少女を見て、ミールがジト目でそう言った。
冗談でも誑かしたとか言うのはやめてほしい。
··················冗談、だよな?
その後、ゲンライさんやフウゲツさんに事情を説明して、サフィルスを幻獣人の里に滞在させてもらう許可をもらった。
ただ、まだ彼女が本当にオレを主人と仰ぎ、仕えるためにここに来たのか、それとも何かを企んでいるのか判断つかないため、オレが監視役をすることになってしまったが。
もしフレンリーズ王国の時のように暴れたりしたら、止められる者が限られるからな。
アイラ姉やシノブ以外はレベルとステータス的に厳しいだろう。
「ほ、ほほ、本当に一緒の部屋で過ごすんですか······!?」
自室に戻ってきたところで、怯えた声でそう言ったのはレニーだ。
サフィルスは里に滞在している時は、オレと同室ということになった。
つまり就寝時などは、オレとサフィルスとレニーの三人で過ごすことになるわけだ。
そのことにミールとミウが不満気な様子だったが。
「レニーはサフィルスのことを知っていたのか?」
「は、はい······トゥーレミシア様の戦闘用殺戮人形は色々と有名ですから」
レニーが言うには、戦闘用殺戮人形は魔人族にとっても恐怖の対象となっているようだ。
そんなサフィルスと同じ部屋で過ごすことになるのだから、レニーは完全に怯えていた。
まあ、もともとオレに対しても怯えた反応だったので、今までとあまり変わらない気がするが。
「サフィルス、レニーと仲良くしてあげてね」
「――――――了解しました、主人」
ちょっと不安だが、まあなんとかなるだろう。
なんだかんだで、サフィルスもおとなしくしているし。こうしていると、本当に普通の女の子にしか見えない。
トゥーレミシアって奴についても色々聞いてみたいし、しばらくは様子を見ることにしよう。