閑話⑬ 4 サキュバスの召喚
(リーナside)
裏通りの建物を根城にしていた犯罪者達は全員捕らえて、レイさんが騎士団の詰所に連行していった。
けどまだ魔道具に反応があるということで、それを確かめるために、あたし達は奥の部屋まで向かった。
レイさんは犯罪者達を連れていったので、ここにいるのはあたしとリーア、リーフィさん、そしてシノブちゃんの四人だけ。
「これは······魔物を呼び出す召喚陣というやつでござるか?」
シノブちゃんが言うように、部屋の中は特殊召喚陣が描かれていて、魔物を召喚するための魔道具もいくつか置かれていた。
あの犯罪者達は魔物を呼び出すつもりだったのかな?
「色々なアイテムが置かれているのですよ。これはこれで特ダネの予感がするのですよ」
リーフィさんが興味津々に、部屋の中を見回している。
「ですが召喚用の魔道具はどれも欠陥品ですわね。肝心の召喚陣には魔力が込められていませんし、これでは召喚の儀式なんて行えないでしょう」
リーアがそう言うってことは、そうなのかな?
ということは、あたし達は犯罪者達が何か企んでいたのを未然に防いだってこと?
「ねえ、リーアの魔道具って、この魔法陣に反応してたの?」
「そうみたいですわね、お姉様。ただ反応しているだけでこれ以上何もなさそうですけど。一体何に反応しているのでしょうか······」
もうこれ以上、ここにいる意味もなさそうだし、後のことは騎士団の人達に任せればいいよね。
そう思ってあたし達は部屋から出ようとしたら、突然リーアの持つ魔道具が光り出した。
「な、なに······!? 魔道具の様子がおかしいよ、リーア!?」
「これは······部屋の魔法陣に、魔道具の魔力が吸われて······」
よくわからないけど、リーアの持つ魔道具はレイさん達が何度も魔力を送っていたから、膨大な量が溜まっていたみたい。その魔力が部屋に描かれている召喚陣に吸収されて······。
「リーア殿、その魔道具を手放すでござる!」
シノブちゃんがリーアが持っていた魔道具を弾き飛ばした。
魔道具は床に落ちた衝撃で壊れちゃったけど、ちょっと遅かったみたい。
魔道具が壊れて、溢れ出した魔力が魔法陣に吸われていく。
――――――――!!!!!
魔力を吸収したため、召喚陣が発動しちゃった!? 魔法陣が光り輝き、何かが現れる。
ど、どうしよう!?
強力な魔物とか現れたらマズイよ!?
けど、召喚陣から現れたシルエットは意外と小さい。あたし達と同じくらいの大きさの人型だ。
「ふふっ、うまく実体化できたわね。いきなりこんなにも濃密な魔力が注がれるなんて、ラッキーだったわ」
はっきりと姿が見えてきた。
少し年上のお姉さんって感じの見た目だ。
ちょっと肌が露出し過ぎの服装だけど。
人間に見えるけど耳が少し尖っていて、背中からは蝙蝠のような翼が生えている。
「わわっ、確かサキュバスって種族でしたかね? 話には聞いたことありますけど、実際見たのは初めてなのですよ」
リーフィさんが言う。
サキュバスって精神世界の住人で、夢魔族の一種だったっけ?
あたしも詳しくは知らないけど。
ひょっとしてミリィさんの仲間かな?
あれ? よく見たら身体がだんだん薄くなってきてる。
「あら? 実体化を維持するには、まだ魔力が足りてないみたいね。ならあなた達の魔力を頂いちゃおうかしら」
精神世界は夢と現実の狭間にあるとかで、そこの住人があたし達のいる世界に来るには、膨大な魔力を集めて実体を作り出さなきゃいけないんだったかな?
ミリィさんはユウ君の魔力で召喚されたらしく、実体化に必要な充分な量をもらったって言ってた。
どうやらこのサキュバスは必要な魔力が足りてないらしく、このままだと消えちゃいそう。
「魔力吸収」
サキュバスが両手を前に出し、あたし達の魔力を吸収した。
あたしとリーアとリーフィさんは、一瞬で結構な量を吸われたことで身体の力が抜けて立てなくなる。
「拙者に、その技は効かないでござるよ!」
シノブちゃんだけは魔力を吸われなかったみたい。武器の小太刀を抜いてサキュバスに斬りかかった。
「きゃっ!? な、何この子······なんで魔力吸収が効かないのよ! それに動きが早すぎ······」
シノブちゃんの反撃に、サキュバスは慌てふためいてる。けどシノブちゃんも本気で斬るつもりはなかったみたいで、当たらない程度の脅しで追い詰めている。
サキュバスも攻撃を避けながら、シノブちゃんの魔力を吸収しようとするけど、まったく効果が無い。
シノブちゃん、ものすごく強い······。
「こ······の! 調子に乗るんじゃないわよ!」
サキュバスはシノブちゃんには敵わないと判断したようで、立ち上がれずに蹲っているリーフィさんのもとに跳んだ。
もしかして人質にするつもり?
あたしとリーアも、まだうまく立つことができないから、サキュバスを止められない。
「ふふっ、あなたの身体······少し借りるわよ」
「ちょ······な、何をするつもりなのです······――――――」
そう言うと、サキュバスはリーフィさんの身体に吸い込まれるように消えた。
リーフィさんは抵抗しようとしたけど、サキュバスの姿はすでに消えて、どうしようもない。
「ふふっ、······あははは! うまく憑依できたわ。思っていたよりも良い身体ね」
リーフィさんが人が変わったように笑い声をあげた。人が変わったというより、声と口調がサキュバスと同じだよ。
「まさか、リーフィ殿の身体に乗り移ったのでござるか!?」
シノブちゃんの言う通りだと思う。
夢魔族って人の精神に入り込んで、色々な夢を見させることができるって聞いたことがあるけど、こんな身体を乗っ取って操ることまでできるなんて······。
サキュバスをなんとかしたくても、リーフィさんを傷つけるわけにもいかず、シノブちゃんはどうしようか困ってる。
これって結構マズイ事態じゃないかな?
4話で終わらせるつもりだったのですが思っていたより長い話になってしまいました。後1〜2話続きます。