(番外編)魔人族側の動き④
(バルフィーユside)
俺は魔剣調達のため、セツナの武具工房にやってきた。前に打ってもらった魔剣は全部壊れちまったからな。
「セツナ、いねえのか? 入るぞ」
声をかけても返事がねえから、勝手に入らせてもらった。セツナが留守にすることなんて、そうそうないと思ったんだが。
中に入ると工房の奥の部屋から、やたらでかいイビキが聞こえてきた。やっぱり寝てやがったか。
奥はセツナの寝室だ。
今更、遠慮する必要もねえだろうから、俺は躊躇することなく部屋に入った。
部屋の中は酒の匂いで充満していた。
床には空の酒瓶がいくつも転がっている。
セツナは布団も被らず、下着姿で豪快に寝ていた。黙っていれば美人だってのに、今は色気の欠片も感じない姿だ。
「おら、起きろ。何みっともなく眠りこけてやがるんだよ」
軽く蹴飛ばしてセツナを起こした。
セツナはしばらくボーッとしていたが、俺の顔を見て、ようやく目を覚ましたようだ。
「んあ〜············げっ、バルフィーユ様かよ。勝手にアタシの寝室に入ってくるなよ」
「げっ、とはご挨拶だな。上客が来たんだから、もっと嬉しそうな反応しろよ」
セツナは俺の見るなり顔をしかめやがった。
失礼な奴だぜ。
何度か武器を打たせただけで、そこまで面倒事は持って来たことはないはずだが。
セツナは魔人族とドワーフのハーフだ。
魔人の血を引いているためか、純粋なドワーフのような小柄な身体付きではなく、普通の人族くらいの体型だ。
ドワーフの血も引いているため鍛冶の腕は相当で、コイツの打った武器に、結構世話になっている。
「······で、何の用ですかい? また魔剣を壊したから、新しく打ち直せって依頼かい?」
「おう、話が早いな。そういうこったぜ」
セツナは面倒くさそうに、頭をポリポリ掻きながらそう言った。
「はあ〜、またですかい。で、今度はどれを壊したんです? サタンジェネラル? ナイトロード? それとも······」
「ああ、全部だ。全部」
「··················は?」
「お前に打ってもらった魔剣、三本とも壊しちまった」
俺の言葉を聞いて、間の抜けた表情を見せた。
しかし、しばらくすると怒りの表情に変わった。
「ふざっけんなよ、アンタ!? アタシの力作なんだと思ってやがんだ! いつもいつも簡単に壊しやがって、作る方の身にもなれよ、ちくしょう!!」
こりゃあガチでキレてるな。
確かに三本全部壊したのは初めてだったが。
「悪かったな。だが、仕方無えだろ? あの程度の魔剣じゃ俺の本気には耐えられないんだからよ」
俺にとって魔剣は加減用の武器だ。
「はあ〜、あの程度なんて言ってくれるが、アタシの魔剣は魔王に献上すれば、幹部の席を約束してくれるくらい価値があるんですぜ?」
「じゃあ献上してやればいいじゃねえか。幹部になりゃ、今よりも酒が飲み放題になるんじゃねえか?」
ドワーフの血を引いているだけあって、コイツは相当な酒好きだからな。
魔王の側近にでもなれば贅沢三昧できるだろうよ。
「はっ、あんな魔王の下で働くなんてゴメンだね。この前も幹部の奴らが武器をいくつか注文してきたから、思いっ切り手を抜いて作った武具を渡してやったよ。素晴らしい出来だとお褒めの言葉をいただいたがな」
セツナの作った武具は、手抜きでもそれなりに使えるからな。
魔王や幹部連中もコイツの腕を買ってるから、よく依頼に来るらしい。
実際、魔人領でセツナ以上の鍛冶の腕を持つ奴を俺は知らない。
「アンタみたいな、お得意様が何人かいるからな。わざわざ魔王の下につかなくても問題無いんだよ」
まあコイツの腕を考えたら、客には困らねえだろうな。わざわざクソッタレな魔王の下につく必要なんざ、確かにねえな。
「まあ、そんなくだらない話はいいさ。それよりも壊した魔剣をここに出してくれよ」
「おう、ほらよ」
一応、魔剣は回収しといたからな。
言われた通り出してやった。
セツナはバラバラに壊れた魔剣を見て、眉をひそめた。
「······いつもよりも派手に壊し過ぎじゃないですかい? 冥王と戦った時だって、ここまで酷くなかったはずだろ。今度はどんな化物と戦ったんです?」
「俺が何と戦おうが、どうでもいいだろ」
「······ちなみに流星剣の方は使わなかったんですかい?」
「いや、使ったぜ。さすがにそっちは壊してねえよ」
セツナがとりあえず見せてみろと言うから、流星剣も取り出してやった。
「壊れちゃいないが、傷だらけじゃねえかよ! 本当にどんな化物と戦ったら、こんなことになるんだよ」
「それよりも魔剣の修理、早めに頼むぜ」
「はあ〜、わかりましたよ。素材の方はちゃんと用意してくれてるんですかい?」
「おう、そこはしっかりしてるから安心しろよ」
俺は持ってる素材を片っ端から取り出した。
ミスリル、アダマンタイト、レア鉱石、星光鉱石などなど。
それなりにレア素材が揃ってるはずだぜ。
セツナも満足そうに一つ一つ確認している。
「なあ、バルフィーユ様なら、オリハルコンとか伝説の素材は集めて来れないんですかい?」
「無茶言うなよ。いくら俺でもオリハルコン級の素材を簡単に見つけられるわけねえだろ」
一通り素材を確認したら、セツナがそんなことを言ってきた。
もしかして、まだ寝ぼけてるのか?
「バルフィーユ様なら結構簡単にそういうのを調達してきそうな気がするんだがな~。オリハルコンが大量にあれば神剣級の武器も作ってみせますぜ?」
いくら俺でも無えものは持って来れねえよ。
確かにセツナの腕ならオリハルコンくらいの素材があれば、神剣級の武器も作れるかもしれねえがな。
弱い素材からでも、聖剣級の武器は作っちまうくらいだからな。
「わかったよ。もし手に入ったら優先的にお前に譲ってやるよ。あんま期待すんなよ?」
「へへっ、約束しましたぜ。ついでに珍しい酒なんかもよろしく頼みますわ」
口約束で良いんなら、いくらでもしてやるぜ。
酒くらいなら伝手を頼ればアテがあるが。
それにしてもオリハルコンか。
セツナが作り出す神剣にも興味があるし、少し本気で探してみるのもいいかもな。
オリハルコンを大量に持ってる奴とか、どっかにいねえもんかな?