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突然異世界転移生活 ~たまに変態が出没する異世界冒険記~  作者: キューブック
第五章 幻獣人族の里 神樹の迷宮編
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322 その頃の幻獣人族の里 〜狂魔人の襲来⑨〜

(アイラside)


「それよりも············お久しぶりですね、バルフィーユさん。ワタシのことを覚えてますか?」

「お前はデューラの娘の······確かミール、だったか? なんでお前まで幻獣人族の里(こんなところ)にいるんだよ?」


 ミールとバルフィーユがそんな会話を交わした。

 二人は顔見知りだったのか?

 ミールはハーフエルフで、バルフィーユは魔人族、接点などないように思えるが。


「ということは、あっちにいるのは双子の姉の方のえっと······()()()だか()()()だったか?」

「エ、エイミ! エイミだよっ!?」

「ああ、そんな名前だったな」


 今、明らかにわざと間違えたな。

 ミールの名はしっかり呼んでいたし。

 エイミが慌てて訂正し、バルフィーユが可笑しそうに表情を緩めた。


 ただの顔見知りではなく、それなりに親しい関係に見えるな。


「お前らがいるってことは、ひょっとしてデューラとメアルも幻獣人族の里(ここ)にいるのか?」


 デューラとメアルというのは確か······エイミとミールの両親の名前だったか?

 リプシース学園長から聞いた覚えがある。

 デューラが父親、メアルが母親の名だったな。


 バルフィーユの言葉に、エイミとミールの表情が曇った。



「父様と母様はもう······。バルフィーユさんはエルフの里での出来事はご存知ないんですか?」

「魔人領の外の話なんて知らねえ。あんまり興味も持たなかったしな。特にエルフの里は内部の情報をなかなか出さねえし······。というかちょっと待て、その口振り······何があった? まさか死んだのか? あの二人が」

「··················」


 ミールの沈黙が、バルフィーユの言葉を肯定している証だった。

 以前聞いた話によると、父親がエルフの里で大暴れをして、妻である二人の母親と多数のエルフを殺害した(のち)、討たれたのだったか。




「ちっ······、戦いを続けるって雰囲気でも気分でもなくなっちまったな」


 バルフィーユが武器を収めた。

 さっきまでの獰猛な笑みは消え、完全に戦意がなくなっているようだ。



 シノブの薬によって回復したフウゲツ殿達が油断なく構えながら、こちらに来る。

 戦意はないように見えるが、バルフィーユの力は異常だ。フウゲツ殿達は警戒して、迂闊には手を出さない。


「詳しく話を聞きてえが、ゆっくり聞ける雰囲気でもねえな。簡単に教えろ、エルフの里で何があった?」

「それは······」


 ミールが躊躇いながらも、エルフの里での出来事を話した。突如、正気を失った父親が起こした惨劇······私達も学園長から聞いている内容だ。(本編87話参照)



「············なるほどな」


 今の話を聞いて、何か考え込んでいる。

 いまいち状況が掴めないな。

 エイミとミールの両親は、魔人族であるバルフィーユと親しい間柄だったということか?


「せっかく楽しい戦いだったが、やることが出来ちまったぜ。勝負はお預けだ、アイラ」


 バルフィーユが初めて私の名を呼んだ。

 どうやら、このまま撤退するつもりのようだ。


 私としても異論はない。

 このまま戦っていたら、どういう結果になるかわからない。それにバルフィーユを確実に仕留めたいと思うほど憎んでいるわけではないし、まだ自分の力を上手く制御出来ていないからな。


「というわけで、俺は帰らせてもらうぜ。色々騒がせて悪かったな。詫びとしてレニーとメリッサ(そいつら)を置いていくから、好きなだけこき使ってやってくれ。こう見えて、そいつらはそれなりの実力者だ。色々と使えるはずだぜ」


 そいつらというのは、エイミ達に縛り上げられている二人のことか。

 小さな女の子はメリッサ、気弱そうな男はレニーというらしい。


「ちょ、ちょっとバルフィーユさん!? そんなの聞いてないですよ!?」

「おう、今決めたからな。お前らはしばらくここで情報を集めとけ。心配しなくても、ちゃんと迎えに来てやるからよ」


 なにやら勝手に話を進めているが······。

 一応、お前達は幻獣人族の里(ここ)を襲撃してきた敵だろう?

 それなのに仲間を置き去りにするつもりか?


 レニーという男が泣きそうな表情で、バルフィーユに抗議していた。

 やっぱり男ではなく女なのか?

 男だと思っていたが、この泣き顔を見ていると自信がなくなってきた。


「お前はコイツら相手に会話に慣れて、少しでもその気弱な性格を治しておけ。そこの女(エイミ)なんかは、お前と気が合いそうだしな。ここなら魔人領に戻るよりも、まともな扱いしてもらえるんじゃねえか?」


 レニーの抗議など何処吹く風だ。

 メリッサという女の子は、特に反論はないようだ。


 バルフィーユの背中から漆黒の翼が現れ、飛び上がった。そんなことまで出来るのか、この男は。


「ああ、そうそう、これだけは言っておくぜ。レニーとメリッサ(そいつら)をこき使うのは構わねえが、()()()()? もし、そいつらを始末しやがったら、俺が本気でこの里を根絶やしにしてやるからな。それだけは覚えておけ」


 バルフィーユから洒落にならない殺気が放たれた。気を強く持たないと、この殺気だけで命を奪われそうなほどだ。

 脅しのつもりだろうが、本気でもあるな。

 もし、この二人を殺してしまえば、本気でバルフィーユと敵対することになるだろう。


 そう言い残して、バルフィーユは猛スピードで去っていった。


「バルフィーユさ〜ん!? 待ってくださいよ〜!」


 レニーが泣きながら叫んだ。

 見ていて、なんだか同情してしまう表情だ。


「あ〜あ、置いてかれちゃった。ねえシノブー、もう暴れないから、これ(ほど)いてくれない?」


 メリッサは大して慌てる様子はない。

 対照的な二人だな。

 フウゲツ殿達もバルフィーユという脅威が去って、ホッと息をつき、そして残されたこの二人をどうするべきか頭を悩ませていた。



 荒れ果てた里をどうにかしなくてはならないし、まだまだやることが山積みだな。


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