321 その頃の幻獣人族の里 〜狂魔人の襲来⑧〜
(アイラside)
(超越者)というスキルを手に入れたため、私のステータスの数値が、今までよりも桁違いに上昇した。
あまり実感が沸かないが、これが神の領域というやつなのか?
「クククッ、嬉しいぜ。まさか人族に神の領域に足を踏み入れる奴が現れるとはな。レイ辺りなら、その内にもしかしたらとは思っていたんだが、お前さんの方が先だったか」
そしてバルフィーユも同様のスキルを持っているようだ。今まで使わなかったのは、相手に合わせていたからか?
「ハーーッハハハハッ!!! やっぱ気兼ねなく力を解放出来るのはいいな! 最高だぜ、この感覚」
バルフィーユが発する力は、先ほどまでよりも桁違いだ。攻撃をしたわけでもないというのに、力を解放しただけで里全体が大きく揺れた。
「シノブ、皆を連れてもっと離れていろ。悪いが巻き込まない自信はない」
「り、了解でござる、アイラ殿!」
シノブも私のパワーアップ、そしてバルフィーユの異常な力を感じ取ったようだ。
フウゲツ殿達を連れて、素直に場を離れた。
「さて、と······魔剣は品切れか。まあ、あったとしても今の俺の力には耐えられないだろうがな。ならこっちを使わせてもらうか。神剣ほどの力はねえが丁度良いだろう」
バルフィーユが再び、何もない空間から武器を取り出した。先ほどの魔剣よりも桁違いの力を感じる剣だ。
〈流星剣フィアフルメテオ〉 鑑定不可
予想はしていたが、やはり鑑定出来ないか。
鑑定不能ではなく鑑定不可と微妙に違うのが気になったが。
そんなことよりもあの剣、間違いなく私の魔剣よりも性能は上だ。それも桁違いに。
このままでは不利だな。
ならば進化した(真・アイテム錬成)を使うとしよう。
先ほど進化したばかりで詳しく使い方を見る時間などないが、どうやらこのスキル、アイテムとアイテムを組み合わせて別の物を作り出す、もしくは強化することが出来るらしい。
要は合成というやつか?
試しに私の魔剣と予備に持っていた、オリハルコンの剣を組み合わせてみた。
〈魔剣ヴィオルーテ☆2〉
攻撃力+6200〈身体強化、魔力増加付与〉
一瞬にして魔剣の攻撃力が倍近く上がった。
組み合わせたオリハルコンの剣は消失してしまったが、これはかなり有用だな。
まだまだオリハルコンの剣は予備があるので、可能な限り組み合わせることにした。
〈魔剣ヴィオルーテ☆10〉
攻撃力+72000〈身体強化、魔力増加、斬撃強化付与〉
星が10になったところで組み合わせられなくなった。これが限界ということか。
おかげでかなり性能が上がったが、それでもバルフィーユの剣の方が強い力を感じる。
まあ贅沢を言ってはいられない。
私は強化した魔剣を手にして構えた。
「へえ、何をしたのか知らねえが、魔剣が強化されてるな。ますます面白えな、こりゃあ」
「全力でゆくぞ、バルフィーユ。死んでも恨むなよ」
「ハハハハハッ! いいぜ、さあ来いよ!」
私とバルフィーユが同時に動いた。
何度も剣を交え、自身の力と魔剣の強度を確かめる。これだけ強化しても、やはり剣の性能は向こうが上か。
――――――――!!!!!
攻撃がぶつかり合う度に、大地が激しく揺れ動く。
シノブやフウゲツ殿達が周囲に被害が出ないように、必死に結界を張っているのが見えたが、あまり意味を成していない。
すまないが周りに気を配る余裕がない。
少しでも気を抜けば、あっという間に殺されるだろう。
「終の太刀······幻想無限桜!!!」
「ハハハハハッ! 紅魔爆炎衝!!!」
お互いの剣技がぶつかり合う。
私の剣でバルフィーユの全身を斬り刻んだが、私も奴の剣で深く斬られた。
私の身体から少なくない量の血が流れる。
(強化再生)スキルでもすぐには治らない。
「いいぜえ、これだよ! 俺はこういう戦いを待ち望んでいたんだよ! まだまだいくぜっ!!」
バルフィーユも決して少なくない出血をしているが、まったく気にしている様子はない。
むしろ心底嬉しそうな表情だ。
レイの言っていた通り生粋の戦闘狂だな。
まあ、私も人のことを言えんがな!
お互いに、身体の傷など気にせずに斬り合う。
自然と私も笑っているようだ。
これほどの格上を相手に出来ることなど、そうはない。全力でぶつかり合えるのが、こうも気分が良いとはな。
「ハハハハハッ! お前も女の割にはずいぶんな戦闘狂みたいだな? 俺と同類の感じがするぜ」
「女だからといった差別は嫌いだと言ったはずだが?」
自分を戦闘狂だと思ったことはないが、この状況では否定は出来ないな。
「クククッ、そうだったな。なら、こういう戦いの楽しさをレイにも教えてやってくれ!」
雑談するような軽口をたたきながら剣を交え合う。喋りながらも、お互いに攻撃のチャンスを伺っている。
どれだけ打ち合っていただろうか。
私達は勝負を決めるべく剣技を繰り出――――
―――――――――!!!!!
――――そうとしたところに私とバルフィーユの間に巨大な氷が出現した。
これは魔法攻撃によるものだろう。
これほどの「氷」魔法を使えるのは······。
「すみません、アイラさん。真剣勝負に横槍を入れる形になってしまって。しかし、このままお二人がぶつかれば幻獣人族の里が消滅しかねないと思いましたので」
やはりミールの「氷」魔法だったか。
キリシェからの念話で、エイミとミウネーレと一緒にクラントールの町に行っていたと聞いていたが、戻ってきていたのか。向こうの方には二人の姿も見えた。
縛り上げられた見慣れない男女二人の姿もあるが?
ミールの言葉を受けて、冷静になって周囲を見回すと、私とバルフィーユの戦闘によって里はさらに酷い有り様となっていた。
「ごめんバル兄、負けちゃった。てへっ☆」
エイミとミウネーレに縛り上げられて連れて来られた、小さな女の子が舌を出しながらそう言った。
「何やってやがんだよ、メリッサ。おい、レニー。お前らには近くの町で、適当におとなしく時間潰してろって言ったはずだが?」
「ご、ごめんなさい、バルフィーユさん······。メリッサさんが全然言うことを聞いてくれなくて······」
縛られたもう一人の男の方(顔付きが女性っぽく見えるが、おそらく男だと思われる)が申し訳なさそうに言った。
会話の内容から察するに、バルフィーユの仲間か?
見た目は小さな女の子と気弱そうな男だが、二人ともかなりの強さを秘めている。
クラントールでミール達と戦うことになり、結果捕らえられたということか。
「それよりも············お久しぶりですね、バルフィーユさん。ワタシのことを覚えてますか?」
「お前はデューラの娘の······確かミール、だったか? なんでお前まで幻獣人族の里にいるんだよ?」
ミールが前に出て、そう言った。
バルフィーユは意外そうな表情で答えた。
どういうことだ?
ミールとバルフィーユは顔見知りだったのか?