319 その頃の幻獣人族の里 〜狂魔人の襲来⑥〜
もう一方の決戦です。
(アイラside)
キリシェからの念話を受け、転移魔法で幻獣人族の里に戻った私の見た光景は、散々な有り様だった。
よほどの強敵が攻めてきたようで、里は見るも無惨に荒れ果てていた。
「ユヅキか? これは一体何があったのだ?」
負傷している人達を介抱しているユヅキの姿が見えたので、現状を問う。
キリシェからは新たな魔人が攻めてきたとしか聞いていないので、詳しくはわからない。
「アイラ、戻ってきてたのか? おれも迷宮から出てきたばっかで詳しくわからねえんだ。今、フウゲツ姐さん達が魔人の所に向かって······」
――――――――――!!!!!
話している途中で凄まじい音が響いてきた。
まだ戦闘が続いているようだ。
どうやら悠長に話している時間はないようだな。
「ユヅキ、負傷者は任せたぞ」
この場はユヅキに任せ、私は戦いの場へ急いだ。
戦いの場に駆けつけると、シノブと長身の男が激闘を繰り広げていた。
戦いは互角······今のところはシノブが優位に運んでいるように見えるな。
「どうでござるか!? 降参するのなら今の内でござるよ」
「ハハハハハッ! バカ言うなよ、こんなに面白え戦いなのに終わらせるわけねえだろ!」
男は戦いをやめる気はないようだ。
今はシノブが優勢だがこの男、おそらくまだ本気を出していない。
キリシェからの念話でも聞いていたが、相当な手練れだ。
「ならばその戦い、私も混ぜてもらうぞ」
当然、私も黙って見ている気はない。
ドルフ殿に打ってもらった魔剣を構え、戦いの場に躍り出た。
「アイラ殿、来てくれたでござるか!」
シノブが心底安心した笑顔を見せた。
ウム、よく頑張ったな。
周囲には巨大狐の姿のフウゲツ殿、そしてキリシェにユーリ、スミレ、長のゲンライ殿の姿があるが皆、戦闘不能状態だ。
シノブの薬で傷は回復し、命の危険はなさそうだが皆、消耗していて戦えそうにない。
この魔人、たった一人でこの場の全員を相手にしていたのか?
「お前も俺と戦ってくれるのか? コイツらにも言ったが、俺は女だろうが遠慮しないぜ」
「ほう、それは好都合だな。私は相手が女だから手加減して負けた、などといった言い訳が嫌いでな」
男の言葉に私はそう返した。
里を襲う悪人と思ったが、言葉や表情にあまり不快に思うような点はないな。
[バルフィーユ] (鑑定不能)
鑑定魔法を使ってみたが、名前以外何も表示されなかった。バルフィーユ?
聞き覚えのある名だな。
「そうか、お前がレイの言っていたバルフィーユという魔人か」
「へえ、お前さんもレイの知り合いか?」
レイの名を出すと、魔人は楽しそうな笑みをうかべた。レイの話だと、コイツはかなりの戦闘狂だったか?
「そうだぜ、俺の名はバルフィーユ。レイとは楽しい戦いをさせてもらったぜ。アイツはこの場に来ねえのか?」
「残念だが、レイは別件で手が空かないのでな。代わりに私がお前の相手をさせてもらおうか」
レイはリイネやアルケミア殿達と共に、フレンリーズ王国を襲う魔王軍の相手をしているからな。
「そうか、アイツが来ねえのは残念だな。ところで、お前はレイのなんなんだ?」
「私の名はアイラ。レイの姉······のようなものだ」
「レイの姉······か。お前さんにレイの代わりが務まるのか見せてもらおうか」
そう言うと魔人、バルフィーユが構えを取った。
武器を持たずに無手だな。
だが、スキのない構えから相当に格闘に自信があるとわかる。
「シノブ、下がっていろ。皆の治療を頼む。ここからは私がこの男の相手をする」
「了解でござる、アイラ殿!」
シノブを下がらせ、私は前に出た。
他の皆のことはシノブに任せれば大丈夫だろう。
「お前一人で戦うのか? 別に二人がかりでも俺は構わねえぜ」
「レイから話は聞いているが、私自身の手でお前の力を見極めさせてもらう」
バルフィーユが構えを取った。
二人がかりで良いと言っている割には、私を甘く見ているような雰囲気はないな。
「まずは小手調べだ、いくぜっ!!」
バルフィーユが一瞬で間合いを詰め、長身の足技で私に攻撃を加えてきた。
私は魔剣で奴の蹴りを防ぐ。
バルフィーユはさらに間髪入れず、連続で足技や拳での攻撃を仕掛けてくる。
一撃一撃が重い。
だが、この程度で私を倒せると思うな!
「ぐおっ······!?」
私の反撃を受けてバルフィーユは一度下がった。
一刀両断するつもりで斬ったのだが、なかなかの反射神経だ。
肩を少し掠めただけか。
わずかに出ていた血もすぐに癒えて、傷が塞がっている。再生能力持ちか。
私も持っているスキルだが、厄介だな。
「俺の身体をこうも簡単に傷付けるとはな。剣技の冴え具合はレイよりも上に見えるな」
「レイの剣の師事をしたのは私だからな。まだまだレイに負けるつもりはないぞ」
バルフィーユが笑みをうかべて言う。
どうやらコイツの物事を見極める目は相当のようだな。あまり手の内をさらけ出すのは悪手になりそうだ。
「ハハハハハッ! 面白え、なら存分に楽しませてもらうぜ!」
バルフィーユは何もない空間に手を入れ、剣を取り出した。
先ほどまで使っていた魔剣はシノブが壊したのだが、まだ予備を持っていたのか。
だが、剣と剣の戦いならば望むところだ!
「フム、いいだろう。私の剣を受けて楽しむ余裕があるのならな!」
異世界に来てから、拮抗した相手というのがあまりいなかったからな。
やはり実力者相手というのは心躍る······。
私の方こそ存分に楽しませてもらおうか······!