315 突然の強襲
(アルケミアside)
フレンリーズ王国を侵略しようと目論んでいた、魔王軍の大部分を無力化出来ましたわ。
後は拠点にいると思われる残党だけですが、それもリイネ様やレイさん達が向かったので、解決するのも時間の問題でしょう。
捕らえた魔人達の収容も終わり、私達は首都の中に戻ってきました。
魔人達をどうするのかは、国王様の判断にお任せしましょう。
「リイネさんだけでなく、アルケミアさんまで以前よりも大幅にレベルアップしていますのね。たった一撃で魔物の大半を浄化してしまうなんて」
フレンリーズ王国の王女エネフィー様が、畏敬の念のこもった眼差しを向けてきましたわ。
以前、この国に来た時は私にここまでの力はありませんでしたからね。
「レイさん達のおかげで私はこれだけレベルアップできたのですわ。アルフィーネ王国では色々ありましたので」
様々な国を巡ってきた私でも、ここ最近までの日々は目まぐるしいものでしたわね。
とても充実していたという意味ですけど。
「私も彼らにお願いすれば、アルケミアさん達のように強くなれるのかしら······?」
「エネフィー様ならばきっと強くなれますわよ。レイさん達も快く協力してくれると思いますわ」
エネフィー様は王女という立場でありながら、魔物の討伐などで自ら前線に赴く勇気ある方です。
レイさん達の協力があれば、今よりももっと強くなれることは間違いありませんわ。
「伝令! 正門方面より何かがとてつもない速さで迫って来ています!」
エネフィー様とそんな雑談を交わしていたところで、見張りの兵士の慌ただしい声が響きました。
また魔王軍が攻めてきましたの?
周囲の兵士や神殿騎士達にも緊張が走ります。
遠見の魔道具に映し出された町の外の映像では、人型の小さな影がこちらに向かってきているのがわかります。
魔物ではない? 人?
あまりに速く動くので詳細がわかりません。
しかし首都の外壁はレイさんとアイラさんが修復し、以前よりも強度が増しています。
素材にオリハルコンなどを混ぜたと言っていましたから。
魔王軍の幹部ですら、今の外壁には傷一つつけることはできなかったのです。
何者かわかりませんが、ここまで侵入することは不可能······。
――――――――――!!!!!
首都の外壁が勢いよく砕かれ、吹き飛びました。
周囲に砂煙が巻き起こります。
オリハルコンが混ぜられた外壁が、いとも簡単に······。
い、一体何が起きたのです!?
「――――――仮の指揮者の反応あり。しかし反応は微弱、詳細は不明。速やかに捜索を開始します」
砂煙の中から現れたのは、蒼色の髪に翼を携えた小柄な少女でした。
この少女が外壁を破壊しましたの?
[サフィルス] レベル900
ステータスの鑑定に失敗しました。
レベル900!? あまりの高レベルのため、鑑定に失敗してしまったようです。
一体何者ですの?
そして、この少女の目的は一体······。
「何者ですの!? まさか魔王軍の一味!?」
エネフィー様や兵士達がすぐに臨戦態勢に入りました。私と神殿騎士達も構えます。
「――――――敵対反応多数。速やかに殲滅します」
少女の蒼色の翼から無数の羽根が抜け落ち、周囲に無差別に飛び散りました。
「なあっ······!?」
「ぐはっ!?」
羽根は鋭利な刃物のようになっていて、周囲の人々を貫いていきます。
鋼鉄の盾や鎧すらも簡単に貫いてしまいました。
私はすぐに「聖」の範囲魔法を使い、人々の傷を癒やします。
「皆さん、離れて下さい! この少女に近付いてはなりませんわ!」
私は前に出て少女に「聖」魔法を放ちました。
少女は容易く「聖」魔法を弾きます。
少女が私に目を向け、魔力を集中させています。
「聖女様!」
「アルケミア様、お下がりください!」
神殿騎士の方々が私の盾になるように前に出ました。
いけませんわ!
見た目はただの小柄な少女ですけど、恐ろしく危険な存在ですのよ!
「――――――ブレード・サイクロン」
少女を中心に烈風が放たれました。
烈風は鋭い刃のように周囲の人々を切り刻み、吹き飛ばしてしまいました。
私の前に出ていた神殿騎士達も、周囲の兵士達も全身を刻まれ、倒れ伏しました。
「ううっ······」
「······がっ······は」
私は騎士達が庇ってくれていたので、軽い傷を負っただけで済みました。
ですが、周囲には命が危険な方も見受けられます。
私の「聖」魔法で彼らの命を繋ぎ止めるだけで精一杯です。
「な、何者······ですの貴女は。目的は······なんですの······」
エネフィー様も兵士達に守られて、致命傷は免れたようです。全身に傷を負っていますが、少女に剣を向けながら懸命に立っています。
「――――――仮の指揮者。個体名ギュランはどこですか? 創造主より、その者の指示に従うよう仰せつかっています」
少女が初めて返答らしい言葉を発しました。
ギュラン······魔王軍幹部のことですわね。
やはりこの少女も魔王軍の一味ということですか。
しかし、秘めている力は明らかに魔王軍幹部であるギュランを上回っています。
レイさん、アイラさんはこの場に居らず、私だけでは厳しい相手······。
これは私も覚悟を決めた方がよろしいようですわね。