313 その頃の幻獣人族の里 〜狂魔人の襲来⑤〜
(バルフィーユside)
俺は魔剣ナイトロードを取り出し、構えた。
さすがにシノブとスミレを相手にするには、素手はキツそうだからな。
「スミレ殿、迂闊に近付くのは危険でござるよ」
「············わかってる。アイツの剣、かなり危険······」
二人が俺の剣を見て警戒しているな。
そこまで強力な剣じゃねえぜ?
性能的には、お前らの武器と同じくらいのはずだ。
「今度はこっちからいくぜ······!」
俺はシノブに向けて、剣を振り下ろした。
シノブは自身の剣で、俺の攻撃を受け止めた。
少々加減したとはいえ、俺の一撃を受け止めるとは大した奴だ。
「······スキあり」
横からスミレが斬りかかってきた。
こいつは二刀流だ。
俺は二本の剣を受け流した。
しかしスミレの持ってる剣、片方は前に戦った冥王の護衛の深淵の守護者が持ってたやつに似ている気がするんだが······。
いや、そんなわけねえか。
あの剣は俺でもヤバいと思うほどの力を秘めているはずだしな。
スミレは確かに強いが、あれを扱えるとは、さすがに思えねえ。
よく見たら似ているが別モノみたいだな。
「その程度じゃ俺のスキは突けねえぜ」
「くうっ······」
スミレは俺の攻撃を二本の剣で必死に受け止めている。表情変化が乏しいが、焦ってる感じだな。
意外とわかりやすい奴だぜ。
「ならば、これでどうでござるか!」
俺の背後からシノブが斬りかかってきた。
甘えよ。
スミレを後ろに強く弾き、俺はシノブに剣を振り下ろした。
――――――――――!!!!!
俺の剣がシノブを真っ二つに斬り裂いた。
おかしいな? 今のくらいなら簡単に防ぐと思ったんだが、殺しちまったか?
と一瞬考えたが、斬り裂いたシノブの身体が煙のように消えていった。
今のは幻影か?
いや、幻影にしてはしっかり手応えがあったが······。
「スキあり、でござる!」
俺の死角から五体満足のシノブが現れ、斬りかかってきた。
俺は反射的に剣で斬り裂いたが、そのシノブも煙のように消えた。
実体のある幻······(分身)スキルか?
2体、3体と次々と現れてくる。
深淵の守護者も使ってきたスキルだが、コイツも使えるのかよ。
············面白えな!
「ハハハハハッ! いいぜ、どんどん来いよ!」
俺は片っ端から分身と思われるシノブを斬っていった。(分身)は精々4〜5体が限度のはずだが、もう10体以上は現れているな。
それだけシノブの潜在能力が高いってことか。
「······ボクもいることを忘れちゃ困る」
シノブの(分身)に混じって、スミレが斬りかかってきた。コイツは(分身)は使えねえようだな。
シノブの分身を斬り捨てながら、スミレを蹴り飛ばした。
「うぐっ······」
「スミレ殿!? おのれ、容赦しないでござるよ!」
斬りかかってきたシノブの剣を受け止める。
コイツが本物のようだな。
(分身)は実体があるが、本体の何分の一の力しか持てないからな。
明らかに力が違うぜ。
「クククッ、やるなぁ? 俺の見立てじゃ、お前らなら魔王でも倒せると思うぜ」
ここまで手応えのある奴は、魔人領にもそんなにいねえ。お世辞でもなく今の魔王なら倒せるだろうな。
「その余裕、崩して見せるでござる!」
シノブが連続で斬りつけてくる。
(分身)は種切れのようだな。
俺も反撃するがシノブは素早く動き、捉えきれなかった。
シノブはスピードだけならレイを上回っているな。
「ハハハハハッ! なら、これはどうだ? 暴風地焔庄!!!」
俺は複数の属性が混じった、複合魔法を放った。
俺を中心に大地が裂け、焼け付く熱風が噴き出す。これなら逃げ場はねえだろ?
――――――――!!!!!
おっと、加減を間違えたな。
シノブだけでなく長やフウゲツ達まで巻き込まれてるぜ。
まあ、コイツらなら死にはしないだろうよ。
「闘魔封殺剣、でござる!!」
うおっ!?
熱風をかいくぐって、シノブが剣技を放ってきた。
反応が間に合わず、少し斬られちまった。
「まだまだでござる!」
息をつく間もなく、次々と剣技を繰り出してくる。
マジで速え、そして強いな。
――――――――ピシッ
おおっ、マジか!?
魔剣ナイトロードの刀身にヒビが入った。
ちっ、やっぱこんな程度のナマクラじゃ、俺の力には耐えられないか。
――――――――!!!!!
刀身が完全に砕け散り、シノブの剣が俺の身体を斬り裂いた。
肩から腹にかけて深く斬られ、血が流れ落ちる。
クククッ······、まさか俺を傷付けることが出来るとはな。
レイだけじゃなかったか。
俺を心底楽しませてくれる奴は······!
「どうでござるか!? 降参するのなら今の内でござるよ」
シノブは後ろの仲間を気に掛けつつも、俺から目を離さずに言った。
フウゲツ達は傷付いちゃいるが、ちゃんと生きているな。
「ハハハハハッ! バカ言うなよ、こんなに面白え戦いなのに、終わらせるわけねえだろ!」
この程度の傷なら、俺の身体はすぐに回復する。
シノブになら本気を出しても良さそうだ。
――――――――――!!!!!
俺は抑えていた魔力を解放した。
これだけの力を解き放つのも、ずいぶん久しぶりだ。
まだまだ楽しませてもらうぜ。
「ならばその戦い、私も混ぜてもらうぞ」
そんな声が聞こえてきたかと思うと、俺とシノブの間に一人の女が現れた。
また援軍か。何者だ、この女?
明らかにシノブ以上の力を感じるぞ。
「アイラ殿、来てくれたでござるか!」
その女を見て、シノブが心底安心した表情を見せた。
相当にこの女を信頼しているみたいだな。
それも納得出来るくらいの強さを感じる。
おいおい、どんだけ強者がいるんだよ。
とんでもねえ所だな、幻獣人族の里は。
クククッ、こいつは俺も本気で戦えそうだな。




