312 その頃の幻獣人族の里 〜狂魔人の襲来④〜
(フウゲツside)
私達の里に攻めてきた魔人は、シノブちゃん達の話だとレイ君ですら苦戦した相手だという。
だからって、このまま見逃すつもりはないわよ。
コイツは以前、捕らえたガストという魔人を助けるために来たみたいね。その魔人はすでに姿がない。
みすみす逃したのは悔しいけど、あの魔人は口が堅く大した情報を引き出せなかったし、そのことは後回しにしましょう。
シノブちゃんとスミレちゃんは、負傷してるゲンライ達に薬を渡している。
あっちは任せて大丈夫そうね。
「初めから本気でいくわよ」
出し惜しみするつもりはない。
私は本気で戦うために(幻獣化)した。
九本の尻尾を生やした、この巨大狐の姿になると、私の力と魔力が大幅に増すのよ。
レイ君が私のこの姿を見て、九尾の狐と呼んでいたわね。なんでもレイ君達の世界では伝説級の存在らしいわ。
フフッ、とても威厳のある響きだし、これからはそう名乗らせてもらおうかしら。
「ほう、長の爺もなかなかだったが、それをさらに上回ってるな。こいつは楽しめそうだ」
魔人は私のこの姿を見ても怯む様子はない。
むしろ楽しげに笑っているわね。
その余裕、すぐに崩してあげるわ!
私は九本の尻尾の先から、それぞれ異なる属性魔法を放った。
私の尻尾は腕のように自由自在に動かすことができる。九つの魔法を同時に撃ち出すことも可能なのよ。
魔人は私の魔法を回避したり、相殺したりで防いだ。そのスキを突いて、私は魔人に飛びかかった。
「クククッ、すげえ力だな。長の爺を軽く上回ってるぜ」
魔人は両手で私の身体を受け止めた。
なんて力なの······。
(幻獣化)した私でも簡単に抑え込まれる。
「調子に乗らないでほしいわね······!」
私は一旦、後ろに下がった。
今のだけでわかったわ······。
コイツの力は私を遥かに上回っている。
この状態では勝ち目がない。
私は(真·覚醒)スキルを使った。
長期戦は不利、短期決戦に賭けるわ。
「へえ、そこまで力を引き出せるとはな。ずいぶん前に戦った〈闘〉の冥王に匹敵しそうじゃねえか」
「その余裕、いつまで続くかしらねっ!!」
(真·覚醒)の効果で私の力が何倍にも増した。
けど、これには時間制限があるから、悠長にしてはいられないわ。
私は捨て身で魔人に飛びかかった。
「ハハハハハッ! いいねぇ、これこそまさに戦いってやつだぜ! 思う存分相手をしてもらうぜ」
魔人も少しばかし本気になったみたい。
私と魔人が激しくぶつかり合う。
――――――!!! ――――――!!!
――――――!!! ――――――!!!
「なかなか楽しかったぜ、だがこれで終わりだな」
「うぐっ······っ······」
私の持てる力をすべて出し尽くしたわ······。
それでも、この魔人には及ばなかった。
魔人の重い一撃を受けて、私は地に伏した。
一体何者なの、この魔人?
もしかして、コイツが今の魔王なの······?
「······させない!」
スミレちゃんが、トドメの一撃を放とうとしていた魔人に攻撃を仕掛けた。
魔人はスミレちゃんの二刀流の剣を、それぞれの手で受け止めた。
「スミレ殿、一人では危険でござる!」
シノブちゃんもスミレちゃんの横に立って、武器を構えた。ゲンライ達の治療は終わってるみたいね。
ただ傷は回復してるけど、ゲンライも(真·覚醒)を使っていたみたいで、今は反動で動けそうにないわ。
キリシェさんとユーリ君も魔力切れで戦えそうにない。もうこの状況で動けるのは、シノブちゃんとスミレちゃんしかいないわ。
二人の力はよく知っている。
特にシノブちゃんは、私よりも遥かに強い力を秘めている。それでも、この魔人に勝てるかどうか······。
逃げてと言いたいけど、今の私にはその力すら残っていない。
「今度はお前らが相手してくれるのか? わかってると思うが、俺は女子供でも容赦しないぜ」
ゲンライ達を相手にして、さらに私とも戦ったっていうのに、魔人はまるで疲れている様子はない。
「師匠には及ばないでござるが不肖シノブ、相手をしてもらうでござるよ!」
「······ボクも全力で戦う」
シノブちゃんとスミレちゃんが魔人に向かっていった。
(バルフィーユside)
幻獣人族の女との戦いは、かなり楽しめた。
おそらく覚醒系スキルによる一時的なパワーアップだと思うが、相当な強さだったぜ。
さて、次はガキ二人が相手をしてくれるらしい。
シノブとスミレ、だったな。
子供とはいえ、コイツらから感じる力はこの里の中でも一番強い。
クククッ、最高だな······幻獣人族の里は!!
「スミレ殿、正面から挑むのは危険でござる! 拙者に合わせてでござる!」
「············わかった」
シノブとスミレが俺を翻弄しようと素早く動き回る。マジで速いな。
そして左右から同時に斬りかかってきた。
「おっと、うおっ······なかなか重いな」
スミレの二本の剣を足で弾き、シノブの剣を両手で受け止めた。
小柄なくせに力が強いな。
特にシノブのは、片手で受けるのは無理そうだったぜ。
コイツらの武器······どっちも聖剣クラスの力を感じるな。もしかしてコイツらも勇者なのか?
「さすがに素手じゃキツそうだな。俺も武器を使わせてもらうぜ」
俺は収納していた武器の一つを取り出した。
魔剣ナイトロード。
コイツらの相手には、これが丁度良いだろう。
さあ、まだまだ楽しませてくれよ!