311 その頃の幻獣人族の里 〜狂魔人の襲来③〜
(シノブside)
神樹の迷宮の攻略も順調に進み、190階層まで突破したでござる。
ディリー殿とアトリ殿に加護を与えたことにより、拙者にも新たなスキルが加わり、大幅に力を増したおかげで攻略が捗るでござる。
············あれは与えたというより、拙者が一方的に蹂躙されていただけの気もするでござるが。
ディリー殿とアトリ殿、そしてスミレ殿が三人がかりで······いや、思い出すのはやめようでござる。
迷宮攻略も順調に進めていたところに、迷宮外にいるユーリ殿から念話が入ったでござる。
なんでも里に、再び魔人族とやらが攻めてきたようでござる。
長殿や他の方々が総出で戦っているそうでござるが、劣勢に追い込まれているという。
ユーリ殿とキリシェ殿も、長の援護に向かうと聞いたところで念話が切れたでござる。
ちなみに同じく迷宮外にいるミール殿達は、クラントールの町に出掛けてしまい、今、里にはいないそうでござる。
共に迷宮攻略に来ているフウゲツ殿、スミレ殿、ユヅキ殿に今の念話の内容を話したでござる。
「魔人族······また性懲りも無く来たのね」
「長が苦戦するほどの相手かよ······。また、そんなのが攻めてきたのか」
フウゲツ殿とユヅキ殿が難しい顔で言う。
「······戻ろう、シノブ」
スミレ殿の言う通り、迷宮攻略は中断すべきでござるな。転移魔法を使い、拙者達は迷宮を脱出したでござる。
迷宮から脱出し、里まで戻るととんでもない有り様でござった。
よほど激しい戦闘が行われていたようで、破壊跡があちこちに拡がっていたでござる。
「ユヅキ、あなたは皆の無事を確認してきなさい!」
「ああ、わかったぜ、フウゲツ姐さん!」
フウゲツ殿の指示を受けて、ユヅキ殿が里の方々の無事を確認するべく動いたでござる。
「············まだ戦闘が続いてる」
スミレ殿の言う通り、再び戦闘音が響いてきたでござる。どうやら長殿やユーリ殿達がまだ戦っているようでござるな。
フウゲツ殿が真っ先に駆け出し、拙者とスミレ殿もそれに続いたでござる。
戦いの場まで着くと件の魔人が長殿、キリシェ殿、ユーリ殿にトドメの一撃を放とうとしていたところでござった。
フウゲツ殿が不意打ちで攻撃を仕掛けたでござるが、まったく効いていないようでござるな。
しかし魔人の攻撃は中断できたでござるな。
里に攻めてきた魔人は一人だけのようでござる。
拙者もフウゲツ殿に続くでござる!
「助太刀に来たでござ······おや? あの魔人は······」
近くまで来て初めて、見覚えのある魔人だと気付いたでござる。
この魔人は······。
「······ご主人様と互角に戦ってた魔人」
スミレ殿も気付いたみたいでござる。
この魔人は以前、龍人族の国で師匠と激闘を繰り広げた、バルフィーユという魔人でござる。
何故、此奴がここに?
もしかしてメリッサ殿も、どこかにいるのでござるか?
いや、それよりも······この魔人は師匠ですら苦戦したほどの相手。
今の拙者でも、どうにかできるかどうか······。
これは由々しき事態でござるな············。
(バルフィーユside)
俺の前に現れたのは長の爺以上の力を感じる女の幻獣人族。
そして龍人族の国で見た、ガキ二人だった。
女の幻獣人族はともかく、龍人族の国いたはずのガキ二人は、なんでここにいるんだ?
「よお、見た顔だな。俺のことを覚えてるか?」
「確か······バルフィーユ殿でござったな?」
おうおう、覚えてやがったか。
ってことは、人違いじゃないようだな。
確か、このガキの名前は······。
「その通りだ。お前はシノブ、でよかったよな? もしかしてレイの奴も幻獣人族の住処にいるのか?」
「いや······師匠は出掛けていて不在でござるが」
そいつは残念だな。
レイがいたら、あの時の続きが出来ると思ったのによ。
それにしても師匠、か。
クククッ、なるほどな。
なんでコイツらが幻獣人族の住処にいるのか疑問に思ったが、よく考えたら幻獣人族は勇者の保護下に入っていたとかいう話だったな。
つまりここにいる人族共は勇者の関係者ってわけか。なるほどな、道理で強いわけだぜ。
「シノブちゃん、スミレちゃん、この魔人のことを知ってるの?」
フウゲツとか呼ばれていた幻獣人族の女が、二人に問いかけた。
シノブが簡単に龍人族の国でのことを話した。
「······レイ君でも苦戦するほどの魔人なのね。それで、あなたの目的は何? 仲間を助けに来たの?」
「まあ、そんなとこだな」
別に俺にとってガストは仲間とかいう間柄じゃねえが説明が面倒だし、する必要もねえか。
「つまりは俺はもう目的を果たしているわけで、これ以上幻獣人族の住処に用はねえ。そんな俺をどうする?」
「こんなに大暴れしておいて、黙って帰すと思うのかしら?」
幻獣人族の女が負傷して起き上がれずにいる長の爺や、人族の女と子供を見た後、無表情で俺を見た。
おうおう、こりゃあ相当怒ってるな。
「ならどうする? 戦うってんなら相手をしてやるぜ」
戦いならば俺の望むところだ。
シノブともう一人、スミレとかいうガキも相当な力を感じるな。
龍人族の国で見た時は勇者に保護されたガキくらいにしか思ってなかったから、たいして気にかけもしなかったから気付かなかったな。
特にシノブから感じる力は、他の奴らとは桁違いだ。
「いいわよ、私は獣神様に仕える神子フウゲツ。特別に相手をしてあげるわ。この里に手を出したこと、後悔しなさい!」
獣神の神子、か。
クククッ、面白くなってきたぜ。
まだまだ楽しめそうだな。