307 殺戮人形
魔王軍の奴らを追っている内に、大きめの建物が見えてきた。思ってたよりも大規模な頑強そうな砦だ。
結構、本格的な造りに見える。
「ここが魔王軍の拠点か」
リイネさんが一度立ち止まる。
ここまで走って来て、息切れしている様子はない。グレンダさんも同様だ。
遅れて馬に乗った騎士達も到着した。
「なんだ、何事だ!?」
「人族共が何故ここに······!?」
「おい、ギュラン様はどうしたんだ!?」
逃げ帰ってきた魔人と、事情を知らない魔人が何やら言い合っている。
逃げ帰ってきた魔人は未だパニック状態が収まっておらず、説明が要領を得ていない。
「なんだか知らねえが、ノコノコやってきた人族共をやっちまえ!」
詳しく話を聞くことを諦め、砦から出てきた魔人は武器を抜き、オレ達に襲いかかってきた。
逃げ帰ってきた魔人は、慌てて砦の中に入っていった。
「フフッ、いくらでも来るがいい!」
望むところだと、リイネさんが迎え撃つ。
「三人一組で迎え撃て! 決して油断をするな!」
グレンダさんが騎士達に指示を出して、魔人達を相手する。魔人達のレベルは60〜70くらいだ。
一対一でもなんとかなりそうだが、三対一なら尚更、問題なく抑え込めている。
リイネさんやグレンダさんは無双状態だ。
オレも二人に続いて、魔人達を無力化していく。
「な、なんなんだコイツら!?」
「つ······強すぎる」
リイネさんとグレンダさんのあまりの強さに、魔人達は完全に逃げ腰になっていた。
「おとなしく投降するならば、命までは取らんぞ」
リイネさんに刃を突きつけられて、魔人達が押し黙る。やっぱり、あのギュランって奴が一番強かったみたいだな。
たいして時間をかけずに、ほとんどを無力化できた。
なんか切り札的存在がありそうなことを言ってたはずだけど、ただの口から出任せとかだったのかな?
そんなことを考えたのがマズかったようだ。
――――――――――!!!!!
砦の奥の方から、凄まじい破壊音が響いた。
やはりフラグを立てるものじゃないな。
音は何度も鳴り響き、だんだんこちらに近付いてきている。
「ひぃぃっ······た、助け――――――」
――――――――――!!!!!
建物の壁が派手に吹き飛んだ。
一緒に何人かの魔人も吹っ飛んできた。
なんだ? 何があったんだ?
「何事だ? お前達、何を企んで······」
「ひぃっ······早く逃げないと皆、殺され······」
吹っ飛んできた魔人は普通に生きているな。
なかなかに頑丈なようだ。
リイネさんが、その魔人達に何があったか問いかけるが、怯えきっていて話にならない。
だが、すぐに元凶と思われる影が、崩れた壁の向こうから現れた。
「――――――殲滅対象、確認。これより任務を遂行します」
現れたのは小柄な少女だった。
蒼色の長い髪をなびかせた、美少女と言える可愛らしい容姿だ。
だが、その顔に感情らしきものを感じない。
ミールやスミレのような無表情とは違う、無機質と言った方がしっくりくる。
まるで人形みたいだ。
「お、俺達じゃない······! 殲滅するのはそっちに······」
魔人の奴らまで、この少女に怯えているぞ?
この少女は魔人の仲間じゃないのか?
少女の肘から鋭い刃が生えてきた。
さらに指先の爪も長く伸び、鋭利な刃物のようになった。なかなか物騒な見た目だ。
「――――――対象の殲滅を開始します」
少女が両腕を振るうと、刃の先から斬撃が飛んだ。斬撃の当たった石の壁や、床が簡単に切り裂かれた。
「ひぃぃっっ!? や、やっぱり制御出来てねえ!?」
「だからギュラン様以外が動かすとマズいって言っただろ!?」
今の斬撃、当たりはしなかったけど明らかに魔人達もお構いなしだった。
敵味方関係無しなのか、この少女?
[サフィルス] レベル900
〈体力〉1125000/1125000
〈力〉134000〈敏捷〉142900〈魔力〉82500
〈スキル〉
(神将の加護〈大〉)(状態異常耐性〈極〉)
(身体強化〈極〉)(物理攻撃強化)(斬撃強化)
(硬質化)(防御貫通)(限界突破)(――――――)(――――――)
やばいぞ、この少女······。
レベルもステータスも高い上に、戦闘特化のスキルだらけだ。
魔王軍幹部のギュランよりも強い。
それも圧倒的に············。一体何者なんだ?
[サフィルス]
神将トゥーレミシアが命を吹き込んだ戦闘用殺戮人形。主に仇なす目の前の敵をただ殲滅する存在。
名前をクリックしたら、そう表示された。
戦闘用殺戮人形って物騒だな。人形っぽいとは思ったけど、本当に人形だったのか?
というか、神将トゥーレミシアって誰だよ。
神将って魔王を上回る存在って話だったよな?
神将といえば、ユウが倒したというナークなんとかって奴にバルフィーユ、そしてトゥーレミシア。
神将って何人いるんだよ。
魔王を上回る存在がこんなにも居るってことは、ひょっとして、この世界の魔王ってそんなにたいした奴じゃないのか?
いや、そんなことを考えるより目の前の少女をなんとかしないと。
リイネさんやグレンダさんのレベルを、遥かに上回っている。
オレとも、それほど差がないレベルだ。
············まさかこんなヤバい奴がいるとはな。




