306 魔王軍の拠点を強襲
リイネさんが、魔王軍幹部ギュランとの一騎討ちで圧倒している。
その様子を見てチャンスと思ったのか、町の入口の門が開き、聖女アルケミアを先頭に騎士達が出てきた。
アルケミアの「聖」魔法によって、魔物が次々と消滅していく。
魔王軍の奴らもパニック状態だし、もう戦いは終わりかな?
「楼演牙突衝っ!!!」
「ぐはぁっ······!?」
リイネさんが強力な突きを放ち、ギュランの身体を貫いた。
ギュランは血まみれになって倒れた。
結構グロい······。オレは血とか見るのは苦手なんだよな。
ギュランは、まだ生きているみたいだ。
だが意識を失い、傷も再生する様子はない。
どうやらリイネさんは、このまま生け捕りにするつもりのようだ。
「ギュ、ギュラン様がやられた······!?」
「あ、あいつはきっと人族じゃない、化け物だ!」
ギュランが倒されたのを見て、魔王軍の奴らは完全に戦意を失っているな。
化け物と言われてムッとした表情で、リイネさんが奴らを睨む。
睨まれた奴らは、腰を抜かしそうな格好で怯えていた。
「お、おいっ······ギュラン様が手に負えないのを俺達が相手にするなんて無理だ! 砦に戻ってアレを動かすしか······」
「だ、だがアレは万が一の事態のためにお借りした人形で······。それにギュラン様以外が動かしたら、どうなるか······」
「今が万が一の事態だろ!? そんなこと言ってる場合かよ」
なんかあっちの方の奴らが、気になる会話をしている。アレってなんだよ?
幹部以上の何かがいるのか?
そういうフラグを立てるのはやめてほしい。
アルケミア達が出てきたことで、魔王軍の混乱はさらに増し、もう完全に敗走状態だ。
魔物達も蜘蛛の子を散らすように逃げ出している。
「レイ、グレンダ。まだ魔王軍の連中の拠点には何かあるようだ。このまま一気に叩きに行くぞ!」
意識を失っているギュランを他の騎士達に引き渡し、リイネさんが言う。
リイネさんにも、今の奴らの会話が聞こえていたか。
「······承知致しました、リイネ様」
このまま勢いに任せて突っ走っていいのか、少し迷っていたがグレンダさんはリイネさんに従い、魔王軍の拠点に向かうつもりだ。
アイラ姉がいないから、リイネさんを止める人がいない。まあでも、魔王軍の奴らが新たに何か企む前に潰しておいた方がいいのは確かだ。
「アルケミア殿、この場の指揮はお任せする。エネフィーもアルケミア殿に協力して、残党共の殲滅を」
「ええ、お任せを。リイネ様」
「··················」
リイネさんの言葉にアルケミアは頷いたが、エネフィーさんは何か言いたげな表情で、無言を貫いている。
「どうした? エネフィー」
「······いえ、私も行きたいところですけど、足手まといになるだけですわね」
どうやらエネフィーさんは、リイネさんの強さに嫉妬しているようだ。
ライバル関係みたいな感じだったから、そんなリイネさんが自分より圧倒的に強くなっているのは複雑なようだ。
「······すぐにでも、あなたの強さに追いついてみせますわよ」
エネフィーさんは小声でそうつぶやいていた。
この場は、アルケミアやエネフィーさん達に任せて大丈夫だろう。
「さあ行くぞ! 皆、わたしに続け!」
リイネさんが魔王軍の拠点目指して走り出した。
グレンダさんがそれに続き、他の王国騎士達も慌てて馬に乗って、リイネさんを追った。
リイネさんとグレンダさんはレベル400を超えているため〈敏捷〉が高く、馬に乗るよりも自分で走った方が速い。
他の騎士達はそうはいかないから、二人を追うのが大変そうだ。
オレも走って、リイネさん達の後を追った。
魔王軍は首都のすぐ近くにある森の中に、拠点を構えているという話だったな。
道中、出てきた魔物はリイネさん達を見るなり、一目散に逃げ出していた。
魔物に恐れられるって、なんだか複雑な気分だ。
拠点に向けて、必死に撤退している魔王軍の奴らをオレ達は追っている。
その気になれば追い付いて捕らえることも可能なんだが、リイネさんはこのまま泳がせて、奴らの拠点まで案内させるつもりだ。
「しかし魔王軍幹部と聞いていたから期待したのだが、手応えがなかったな」
「リイネ様、あのギュランという幹部は相当な強さでした。我々が強くなりすぎただけです」
走りながらリイネさんとグレンダさんが、そんなことを言っている。
まあオレも拍子抜けだと思ってたけど、よく考えたらギュランの強さは、初めてこの世界に来た頃のオレやアイラ姉なら相当に苦戦してたと思う。
レベルもあれから大幅に上がり、スキルという、この世界特有の力も手に入れた。
そのため、たいしたことないように見えただけでギュランも相当な強者のはずだ。
だが、この世界にはまだまだ強い奴らがいるのは間違いない。
調子に乗って油断しないように気を引き締めないとな。
そうこうしている内に、かなり大きめの建物が見えてきた。あれが魔王軍の拠点のようだ。