閑話⑫ 3 想定外の騒動(※)
※(注)変態男が登場します。
(リーフィside)
先日はレイっちに突撃取材するために寮の部屋まで行ったのに、何も聞けないまま帰ってきてしまったのですよ。
いや〜、男の人ってああいう下着を持っているんですね。見る機会なんてないですから、ついつい夢中になってしまいましたよ。
おっと、そうじゃなくて目的が逸れてしまいましたが、まだ私はレイっちが例の学園を賑わせている仮面の人物ではと疑っているのですよ!
まあ、本当に疑っているのではなくあんなすごい格好をした人の正体がレイっちだったなら特ダネ大スクープ間違いなしだと思ってるだけなのですけどね。
前に実物を一度だけ目撃したことがあるのですが、裸同然の変質者にしか見えませんでしたから。
その正体がレイっちだったとしたら······。
学園中の女生徒の黄色い悲鳴が聞こえてきそうなのですよ! レイっちは人気ありますからね。
かくいう私も少し期待しちゃっていたり······。
まあ、それはないだろうなぁと思ってたりもするんですけどね〜。
「リーフィ、これはさすがにマズいのでは?」
フレネイアさんが小声でそう言ってきました。
今、私とフレネイアさんとフェニアさんの三人で学園校舎の学園長室に侵入したところなのですよ。
とっくに日が沈んだ時間帯なので校舎内に人の気配はないのです。
ちなみに学園長室は厳重な鍵がかかっていたのですが、フェニアさんの魔道具で開けたのですよ。
「大丈夫なのですよフレネイアさん、フェニアさん。私達は別に盗みを働きに来たわけではないのですから。ただちょこっと名簿とプロフィールを覗きに来ただけなのです」
学園長室には学園の教師や生徒の経歴が書かれた名簿があるはずです。
レイっちやアイラさんは学園に来る前は何をしていたのか、どこの国の出身なのか何もわからないですからね。
ちょいと名簿をチラ見させにもらいに来たのですよ。何か情報が得られるかもしれないのですから。
「夜中に学園長室に無断で侵入なんて······学園を退学になってもおかしくありませんわよ?」
フェニアさんもそんなことを言っているのですよ。
「ですけど、なんだかんだでお二人ともついてきたということは興味あったからなのですよね?」
「「············」」
私の言葉に二人とも反論しません。
フレネイアさんもフェニアさんも何故か例の仮面の人物に興味津々ですからね。
正体に迫れる可能性が少しでもあるのなら乗ってくると思ったのですよ。
さて、肝心の名簿はどこにあるのでしょうかね?
手分けして学園長室を探してみます。
机の引き出しの中などに············。
――――――――――!!!
引き出しを少し開けた瞬間、凄い音量の警報が響き渡ったのですよ!?
防犯用魔道具!?
こ、これはマズい事態なのですよ!
「リ、リーフィ!? 何をしたんですの!?」
「う、うっかり防犯装置を触っちゃったみたいなのですよ!」
フレネイアさんが非難の声をあげましたが、もう遅いのですよ!
部屋の外から足音が響いてきたのです。
け、警備の人が駆けつけて来たんですかね!?
「フレネイアさん、リーフィさん! 絶対に声を出さないでくださいね! ステルスモード!」
フェニアさんが持参した魔道具を使用しました。
その効果によって私達の姿が見えなくなりました。姿が消えただけでなく気配まで消えているようなのです。
さすがはフェニアさん、便利な魔道具を持っているのですよ。
「侵入者はどこですか!」
私達の姿が消えたのと同時に部屋の入口の扉が開かれたのですよ。
入ってきたのは長い黒髪のメイド服を着た······確かグラムさんという方なのですよ。
最近、学園長の秘書として活躍している有能な人物と聞いています。
人間ではなくゴーレムだという話を聞いた覚えがありますが、今はそんなことどうでもいいのですよ!
「······おかしいですね? 確かに魔道具が作動していますのに」
グラムさんが周囲をキョロキョロと見回しています。フェニアさんの魔道具の効果で私達の存在に気付いていないのですよ。
「············ですが、何者かが侵入した形跡はありますね。まさかすでに逃亡した? ならばまだ学園敷地内にいるはずですね」
グラムさん以外にもメイド服を着た人達がたくさん集まってきたのですよ。
グラムさんがメイドさん達にそれぞれ指示を出しています。
「ディリー、アトリ。あなた達は学園外で不審者が出てこないか見張っていなさい!」
「はい、ですです!」
「了解しました、グラム様」
「あなた達はそれぞれ散って学園内をくまなく探しなさい。不審者を見つけたら必ず捕らえなさい!」
「「「はっ!」」」
メイドさんが各方面に散って私達を探しに行ったのですよ。
私達は声を殺し、この場に留まります。
しばらくするとグラムさんも部屋から出ていき、周囲に人の気配はなくなったのですよ。
「ど、どうするのですリーフィ!? こんな騒ぎになっては名乗り出るのもマズいですわよ」
フレネイアさんが小声で抗議してきたのですよ。
確かに今更、正直に名乗り出ても許されるかわかりませんね。
「こうなったらこのまま気付かれずに脱出するしかないのですよ! 幸い、フェニアさんの魔道具で姿は隠せているのですから!」
まったく成果がありませんけど今日のところは諦めるしかないのですよ。
「この魔道具は時間経過で効果が薄まりますからね? もう代わりの魔道具はありませんのよ」
どうやら悠長にしている時間はないみたいなのですよ。私達は足音をたてないように慎重に学園から脱出を計ります。
「む? こちらの方に気配が······」
何人かのメイドさんが周囲を見回しているのですよ。まだ私達の姿は見えていないようですけど、効果が薄まりだしています。
「そっちの空き教室に入ってやり過ごしますわよ!」
フレネイアさんの指示を受けて、使われていない教室に入り身を隠したのですよ。
メイドさん達は私達に気付かず、他の場所を探しに行きました。
もうフェニアさんの魔道具の効果がほとんどなくなってきているみたいなのですよ。
「チャンスなのですよ、今は周囲に人の気配はないのですよ! このまま一気に脱出しましょう!」
ラビッタ族の聴覚を発揮する時なのですよ!
今は教室の外には誰もいないので一気に突っ走って脱出を······。
――――――――シュルルルッ
「「きゃああっ!!?」」
外に出ようと扉に手をかけたところ、後ろでフレネイアさんとフェニアさんが悲鳴をあげたのですよ。
振り向くとお二人がどこからか現れたロープで複雑に縛り上げられていたのですよ!?
一体何が起きたのですか!?
「夜中に学園に侵入し、騒ぎを起こしているのはあなた方ですな?」
男性の声が聞こえたのと同時に魔導照明に明かりが灯り、教室内が明るくなったのですよ。
私の視線の先には両手にそれぞれロープを持ち、お二人を縛り上げている男がいました。
「ああっ!? あなたは例の仮面の······!!」
私は思わず声をあげました。
男は黒いマスクで顔を隠し、下着一枚だけのほとんど裸のような格好をした人物······。
そう、まさに私達が正体を探ろうとしていた仮面の人物でした。
な、何故この人がここに······!?
私の聴覚でもまったく音も気配も感じませんでしたよ!?
「こんな夜更けに騒ぎを起こすとは不届き千万です。私のお仕置きで少しばかし懲らしめてあげましょう」