305 隣国王女エネフィー視点
(エネフィーside)
私はフレンリーズ王国、第一王女エネフィー。
今、我が国は魔王軍の襲撃を受けて危機に陥っています。
周辺の町や村が次々と襲われ、ついに首都にまで魔王軍の魔の手が迫ってきました。
もちろん私達も、黙ってやられていたわけではありません。
しかし魔王軍との戦力差は絶望的で、日に日に追い詰められてしまっています。
友好国であるアルフィーネ王国に救援を求めましたが、間に合うかどうか······。
それに魔王軍の中には、ギュランと名乗る幹部がいます。奴の実力は圧倒的で、我が国の部隊はことごとく返り討ちに合いました。
たとえアルフィーネ王国からの救援が来ても、奴を倒せる可能性は極めて低いと思います。
そうして首都の外壁がついに破られ、魔王軍が侵入してきたと報告を受けました。
我が国も最期の時が············。
そう覚悟をしていたのですが、その後、信じられない報告が来ました。
アルフィーネ王国からの救援が来て、侵入してきた魔王軍をあっという間に追い払ってしまったと。
私は慌てて町の入口まで向かうと、破られた外壁もすっかり元通り、いえ······以前よりも頑丈に修復されていました。
夢でも見ている気分でしたわ。
アルフィーネ王国からの救援は、リイネさんと聖女アルケミアさん率いる、王国とリヴィア教の騎士団でした。
王国騎士団、神殿騎士団、合わせても100名ほどで、正直に言えば頼りない人数だと思ってしまいましたわ。
しかし、鑑定魔法で見ると一般騎士でもレベル80前後ととてつもない実力を持っていました。
我が国で一番強い兵士長のレベルが、ようやく70に達するくらいですのに、これは異常ですわよ!?
リイネさんから詳しく話を聞くと、騎士団がありえない高レベルなのは、同行している男女の二人の活躍とのこと。
男性はレイさん。女性はアイラさん。
どちらも私と同じくらいの年齢に見えますわね。
貴族でも騎士でもなく、ただの平民の冒険者と聞いて、首を傾げましたわ。
何故、ただの冒険者がリイネさんや騎士達と行動を共にしているのです?
腕の立つ冒険者だとしても、不自然な気がしますわ。
理由を聞いて驚きましたわ。
二人は成長促進スキルを持っていて、パーティーを組んだ者のレベルが上がりやすくなると。
それでリイネさんや騎士達をレベルアップさせたとのことです。
私自身が二人と手合わせをして、その効果を実感しました。ほんの少しの手合わせで、私のレベルが大きく上がったのですから。
これほどのスキルを持っているのなら、国として抱え込むのは当然のことですわね。
希望が見えてきたところに、再び魔王軍が襲撃してきました。
しかも最悪なことに、魔王軍幹部のギュランが直々にやってきたそうです。
あの魔人によって、我が国のいくつもの部隊が壊滅的被害を受けています。
私も直接対峙したことがありますが、まったく歯が立たず何人もの兵士達が身を挺して庇ってくれたおかげで、命からがら逃げおおせることができたのです。
ギュランが相手では、兵士が何人束になってかかっても勝ち目はありません。
再び絶望しそうになったところに、リイネさんが町の外に出て迎え撃つという、無謀なことを言い出しました。
当然、私は反対しましたがリイネさんは聞き入れず、外壁を飛び越え、町の外に出てしまいました。
さらにレイさんと、アルフィーネ王国騎士団隊長がリイネさんに続いて外壁を飛び越えました。
············ありえない光景に目を疑いましたわ。
外壁を飛び越える?
普通はそんなこと出来るはずありませんわよ。
しかし、実際に目の前で······。
リイネさん達は自分はレベル400を超えているとか言っていましたけど、あれは本当でしたの!?
成長促進スキルというのは、そこまで強力なものでしたの!?
町の中からでも、外の様子を見ることができる遠見の魔道具を使い、リイネさん達の戦いを見守ります。
町の外には信じられない数の魔物が集まっていました。しかしリイネさん達は、たった三人で強力な魔物を次々と打ち倒しています。
す、すごすぎですわ······!?
これは三人だけで、魔物を殲滅することも······。
そんな三人を止めるために、魔王軍幹部ギュランが前に出てきました。
その姿を見るだけで、私は身体が震え上がりそうになりました。
リイネさんはギュランと一騎討ちをするつもりのようです。レイさん達はリイネさんを止めないんですの!?
しかし、私の心配は無用だったようで、リイネさんはギュランを一方的に叩きのめしていました。
私や我が国の兵士達ではどうしようもなかった魔王軍幹部を······。
以前に顔を合わせた時は、リイネさんと私の実力は互角くらいでしたのに。
そんな場合ではないのに、今のリイネさんを見ていると、その強さに嫉妬してしまいますわ。
「エネフィー様、町の入口の門を開けて下さい。リイネ様達がああして戦っているのに、黙って見ているなんてできませんわ!」
聖女アルケミアさんが、私にそう訴えかけてきました。本来なら、外壁が破られるまでに迎え撃つ準備を整え、決戦に臨むつもりでしたが······。
リイネさんがギュランを圧倒しているため、他の魔王軍の魔人達がパニックになっています。
確かに、今がチャンスですわね······。
それに聖女アルケミアさんも、リイネさん達に匹敵するレベルだそうです。
これは本当に魔王軍に打ち勝つことが出来そうです。
「······わかりましたわ。すぐに門を開いて下さい! リイネさん達に続き、魔王軍をこの場で殲滅しますわよ!」
「「「はっ!!」」」
私の指示を受けて、入口の門が開かれます。
聖女アルケミアさんを先頭に、騎士団が外へと出ていきます。
もちろん、私達もそれに続きますわ!