304 リイネVSギュラン
魔物の群れを蹴散らしていたら、魔王軍幹部ギュランが現れた。
リイネさんはギュランと一騎討ちするつもりだ。
周囲を取り囲む魔物や魔人族達は、今のところ手出しするつもりはないみたいだな。
なら、オレとグレンダさんも様子見だ。
「本当に一人で俺様に挑む気かぁ? 後ろのお仲間に頼ってもいいんだぜ」
ギュランが両腕を前に構えると、爪が伸びて鋭利な刃物のようになった。
見た目はなかなかに迫力があるな。
「お前こそ、周りの部下や魔物をけしかけて来てもいいんだぞ?」
リイネさんは、まったく恐れている様子はなく、不敵な笑みでギュランを挑発している。
この人、本当に王女様なんだろうかと思ってしまう。
「レイ、いつでも動けるようにしておけ。万が一の時は、すぐにでもリイネ様を援護するぞ」
グレンダさんが小声でそう言ってきた。
もちろん、そのつもりだ。
いざとなったら転移魔法で、この場からの離脱も考えている。
「ギャハハハッ! いいねえ、お前みたいな威勢のいい王女がこの国にもいたが、最近は俺様を恐れるばかりで退屈してたんだよ。お前もすぐに、俺様の恐ろしさを覚えさせてやるぜ」
それってエネフィーさんのことかな?
魔王軍幹部ギュランに対して恐れを抱いていたし、エネフィーさんはコイツと何度か戦ったことがあるみたいだな。
「御託はもういい、かかってこい」
リイネさんが武器を構えた。
まずはギュランの出方をうかがっているようだ。
「オラァァーーッ!!!」
ギュランが両手の爪を突き出し、リイネさんに襲いかかった。
リイネさんは素早く横に避けて、反撃の突きを放った。
「ぐはっ!? な、なかなか素早いじゃねえか······」
肩を貫かれて、ギュランがリイネさんから距離を取る。ギュランの肩の傷はだんだんと塞がっていく。
それなりに再生能力は高いみたいだな。
「どうした? そういうお前は欠伸が出る動きだな。わたしを甘く見ているにしても、お粗末だぞ」
「な、なにを〜!? 少し手加減してやったら調子に乗りやがって······!」
リイネさんがさらに挑発する。
ギュランはわかりやすいくらいに、怒りの表情をうかべている。
そうしてギュランが次々と攻撃を仕掛けるが、リイネさんは涼しい顔で受け流す。
[リイネ] レベル416
〈体力〉43700/43700
〈力〉29200〈敏捷〉25400〈魔力〉25700
〈スキル〉
(騎士の剣術〈レベル9〉)(身体強化〈極〉)
(指揮)(同時詠唱)(詠唱破棄)
(異世界人の加護〈小〉)
ちなみにこれがリイネさんのステータスだ。
レベルもステータスも、ギュランを圧倒的に上回っている。
魔王軍幹部ってことで警戒し過ぎていただけで、たいしたことなかったのかな?
それともギュランが幹部の中でも飛び切り弱いだけなのか?
「この女······! 調子に乗るのもそこまでだっ!!」
ギュランが一度、リイネさんから距離を取った。
そして全身に魔力を集中させて、身体を強化、変化させている。
どうやらこれは(魔人化)というスキルの効果のようだ。
真の力を解放して、第二形態に変身するつもりか。
ギュランの身体がさらに一回り大きくなり、全身も鋼鉄並の強度がありそうな、硬い皮膚に変化している。
両手の爪も、さらに鋭利になっていた。
さらに(咆哮)と(力強化)も使い、攻撃力を上げている。
どうやらガチで本気になったっぽい。
「へへへっ······俺様を本気にさせたことを後悔しやがれ!」
第二形態となったギュランが、リイネさんに襲いかかった。
巨体になったが、動きはさっきまでよりも機敏になっている。
だが············。
「真閃疾風葬っ!!!」
「グギャアアーーッッッッ!!?」
リイネさんが光速の突きを次々と放ち、ギュランの身体が蜂の巣のようになった。
(魔人化)で真の力を発揮して、ステータスが大幅に上がっていたが、それでもレベル400超えのリイネさんには及ばなかった。
「ギュ、ギュラン様······!?」
「そんなバカな!? ギュラン様がこうも一方的に······」
周囲の魔人族が完全に狼狽えている。
ギュランの様子を見る限り、出し惜しみをしているふうでもない。
どうやら本当に、今のが全力だったようだな。
「こ、こんなことが······。な、何者なんだ、てめえは······!?」
「名乗っただろう? アルフィーネ王国第二王女、リイネだ」
「ただの王女がこんなに強いはず······」
あれだけリイネさんの攻撃を受けても、まだ倒れる様子はない。
見た目通りのタフな奴だ。
――――――――――!!!
町の入口の門が開き、騎士達が出てきた。
アルケミア率いる神殿騎士団、王国騎士団、それにエネフィーさんや隣国の兵士達の姿もある。
遠見の魔道具でリイネさんの戦いを見ていて、こちらが有利だと判断したのかな?
「ホーリーブレス!!」
アルケミアが「聖」魔法を放ち、魔物達を消滅させていく。
魔王軍幹部のギュランが一方的にやられ、狼狽えていた魔人族達は、今のアルケミアの魔法を見て完全にパニックに陥っている。
これはもう勝負ありかな?