4 アルネージュの町 冒険者ギルドにて
しばらく馬車で進むと町が見えてきた。
アルネージュという名の町で、この大陸ではかなり大きな町らしい。
「それでは私達はここで失礼します」
「············ふんっ」
セーラが頭を下げる。
リンはムスッとした表情のままだ。彼女は男嫌いらしいので、不可抗力とはいえ馬車の中で身体に触ってしまったことが余程嫌だったのだろう。
「師匠、大丈夫でござるか?」
「不可抗力とはいえ、あれはレイが悪いぞ」
シノブが心配してくれているのは馬車の中でリンに思い切り引っぱたかれたことだ。
リンとオレとではかなりのレベル差があるので痛くはなかったのだが凄い音が響いたので心が痛い。
まあアイラ姉の言う通りなので甘んじて受けたのだが。
こうして聖女セーラ達と別れたオレ達は町へと入った。町の入口では門番が入ってくる人間をチェックしているようだけどオレ達はセーラの計らいであっさり入ることが出来た。
町のどこへ行くかだが、話し合った結果まずは冒険者ギルドという場所に向かうことにした。
冒険者ギルドで冒険者として登録すればギルドカードがもらえてそれが身分証になるようだ。
オレ達は身分証など持ってないのでこれは必要だろう。それに男としては冒険者という響きに心踊るものがある。
セーラ達の話しによると冒険者ギルドはゲームとかでよく聞く設定とほぼ同じようなものだった。
まずランクがあり、新人はFからスタートする。
ランクは大きく分けてこんな感じだ。
[ランク]
(F)新人・・・・・・・・・・・レベル5~10
(E)普通の冒険者・・・・・・・レベル10~30
(D)ベテラン・・・・・・・・・レベル30~50
(C)熟練者・・・・・・・・・・レベル50~70
(B)冒険者のトップクラス・・・レベル70~80
(A)国の英雄クラス・・・・・・レベル80~150
(S)伝説の勇者クラス・・・・・レベル150以上
あのサイクロプスはランクBでなんとか倒せる強力な魔物だったらしい。
オレ達ってもしかしてヤバイくらい強い?
けど、なんでオレ達のレベル······こんなに高いんだ?
そんなことを考えている内に目的の冒険者ギルドに着いた。かなり大きな立派な建物だ。
入るのに少し戸惑うくらいだ。
しかしアイラ姉を先頭にシノブも入っていった。二人とも堂々としてたな······。
オレもそれに続いた。
中に入ると多くの冒険者がいた。みんな身体が大きく強そうだ。
アイラ姉は堂々と受付まで向かう。
受付にはかなりの美人のお姉さんがいた。しかも頭には猫耳を生やしている。
獣人というやつだろう。やはり異世界だけあって人間以外の種族もいるようだ。
「ようこそ冒険者ギルド、アルネージュ支部へ。当ギルドへのご用件はなんでしょうか?」
お姉さんが丁寧に言ってくれる。
美人な上に優しそうな印象だ。
「冒険者として登録したいのだが、可能だろうか?」
アイラ姉が用件を言う。
お姉さんは意外そうな表情でオレとシノブを見る。
「え~と······それは三人とも、ということでしょうか?」
「ああ、その通りだが出来ないのか?」
お姉さんの問いにアイラ姉が言う。
アイラ姉は雰囲気からただ者ではない感じがするが、オレとシノブはただの子供にしか見えないかもしれない。
オレはよく童顔だと言われるからな。
「いえ、失礼しました。三人とも登録は可能ですが、その前にこの水晶球に触れてください。適正を確認します」
「この水晶球はなんなのだ?」
「これはステータスレンズと言って、触れた者の強さと犯罪歴がわかります。一定の強さがないと冒険者としては認められませんし、犯罪歴のある者を登録するわけにはいきませんので」
なるほど、もっともな話しだな。
話しによるとこの水晶球は冒険者としての力がある場合は青く光るらしい。
何か犯罪を犯していれば赤く光るとか。
犯罪歴がなくても力がなければ無反応らしい。
まずはアイラ姉が水晶球に触れる。
水晶球は青く輝いた。
目が眩みそうになるくらい強い光だ。
「こ、これは······凄い資質があるようですね」
お姉さんが光の輝きに驚いている。
どうやら実力によって光り方が違うらしい。
「では次は拙者が······」
そう言ってシノブが水晶球に触れる。
アイラ姉と同じように青く輝いた。いや、アイラ姉よりは若干、光が弱いようだ。
「え、この子もこんなに輝くなんて······」
お姉さんは目を丸くしている。じゃあ次はオレが触れてみるか。
結果は同じく青く輝いた。
アイラ姉より弱く、シノブより強いといった感じだ。強さを表すというならレベルの通りだな。
「······はい、問題ありません。三人とも登録可能です」
お姉さんが驚きを抑え、言葉を出す。わりとすんなり登録できたな。
オレ達はそれぞれ自分用のギルドカードが渡される。
冒険者ランクF。まあなったばかりだし当然か。
これがこの世界での身分証になるのか。
「それでは冒険者について説明します」
お姉さんの説明を簡単にまとめると冒険者ギルドには様々な人から仕事の依頼が来て、それをランク分けして、ランクに応じた冒険者がその依頼を受けられるそうだ。
ランクFの新人が受けられる依頼はランクFと1つ上のEだけらしい。
もっと上のランクの依頼を受けたければ多くの依頼をこなしてランクを上げる必要がある。
当然ランクが高い程、難しく報酬の高い依頼がある。
依頼を失敗し続けるとランクを下げられる。下手をすれば冒険者の資格を失うそうだ。
依頼達成数や魔物の討伐数はギルドカードに自動で書き込まれるらしい。便利だな。
依頼の内容は素材集めや魔物の討伐といったものだ。まあゲームとかでよく見る設定と同じだな。
魔物の討伐はその魔物を倒すだけで報酬がもらえる(ギルドカードに討伐記録が載るので本当に討伐したのかわかる)が魔物の死体を持ってくれば素材の買い取りもしてくれるそうだ。
「じゃあさっきアイラ姉達が倒した魔物も売れるのかな?」
サイクロプスのことだ。
オレのアイテムボックス(?)でいいのかな······に入っているので取り出すことは可能だ。
「はい、魔物の素材の買い取りはいつでも出来ます。······しかし、見たところ魔物を持っていないようですが?」
お姉さんが不思議そうに首を傾げる。
オレ達三人ともほぼ手ぶらだからかな。
アイテムボックスってこの世界の人は使えないのかな? まあいいや、とりあえず出すか。
オレはアイテム欄からサイクロプスを選ぶ。
――――――――ドスンッ!!
ギルド内の素材用魔物スペースにサイクロプスの巨体が置かれた。
「ひゃあっ!?」
お姉さんが驚き、尻餅をつく。
周りの冒険者達もこっちに注目している。
「お、おいあれっ」「サイクロプスか!?」「マジかよ······すげえ」「ていうか今どこから出した?」
ザワザワと騒ぎが起こる。
「しっ、失礼しました······収納魔法ですか? そしてこれはサイクロプス!? 一体どうやって倒したのですか」
お姉さんが起き上がり言う。
アイテムボックスって収納魔法って言うのか。見た感じ収納魔法の使い手は珍しいようだ。
「それより買い取ってもらえるのかな?」
説明するのは面倒なので、少し強引に行こう。
「あ、はい······少々お待ちくださいっ」
そう言ってお姉さんは何人かの別の職員を呼んでサイクロプスの査定を始める。
査定は10分程で終わった。
「査定が完了しました。魔石を含めてすべて買い取りでよろしいですか?」
魔石······?
そういえば魔物には魔石と呼ばれる核があって、それらは色々な用途で使われるから売れるってさっき説明されたっけ。
サイクロプスの魔石となると結構貴重なのかもしれないけど、今はまったくの無一文だしな、売っちゃうか。
「ええ、それで構いませんよ」
「では金貨55枚と銀貨70枚の買い取りになります」
そう言ってお金の入った布袋を渡された。
結構重い。まあアイテムボックスに入れれば関係ないけど。
ちなみにこの世界の通貨は銅貨、小銀貨、銀貨、金貨、白金貨、王帝金貨という種類があるらしい。
銅貨が大体10円くらいの価値かな。
小銀貨が100円くらい。
銀貨が1000円。
金貨は10万円くらいになる。
白金貨は1000万円、王帝金貨は1億円にもなる。
つまりサイクロプス1体で557万円になったということだ。······すげえ。
一般人が使う通貨はせいぜい銀貨や金貨までで、白金貨や王帝金貨は豪華な屋敷を買う時など、よほど大きな買い物でないと使わないらしい。
それにしても無一文から一気に増えたな。
当分はお金には困らなそうだ。
「アイラ姉、シノブ、この後どうしようか?」
「フム、まずこの世界にどういう物があるのか見たいから色々な店を回ろうか。それと宿だな、泊まる場所は決めておきたい」
アイラ姉が言う。その意見にはオレも賛成だ。
冒険者になったのはいいがオレ達はまともな武器も防具も持ってないからな。
ゲームのような町なら武器防具屋などがあるだろう。
シノブも異論はないようだ。
ギルドから出ようとしたオレ達に二人の冒険者が近づいてきた。
「おっと、ちょっと待ちな」
「新人がそんな大金持ってちゃ危ないだろ? 俺達があずかってやるぜ」
いかにも荒くれ者ですといった二人だ。
冒険者ギルドのテンプレってやつだな。
「せっかくの申し出だが、そのような心遣いは無用だ」
アイラ姉が言葉を返す。
まあ、まだこの二人が本当にこちらの身を案じてこういうことを言ってきてる可能性もあるからな。
人を見た目で判断してはいけない。
しかし、次の言葉でそれはあっさり否定された。
「ごちゃごちゃ言ってないで寄越せって言ってるんだよ!」
冒険者の男が怒鳴るように言う。
アイラ姉の眉がピクリと動く。
冒険者ギルド内の揉め事は基本ギルド側は静観する。殺し合いになったりすれば話しは別だが、ちょっとしたケンカやこういう事態は冒険者自身で解決するものだという。
それが出来なければ冒険者としてやっていけないからだろう。
「親切からの言葉だと思ったのだが、つまりお前達は私達のお金を奪おうということか?」
「おいおい姉ちゃん、可愛い顔して頭は悪いのか?見てわかんだろ」
男達が下品に笑う。
それに対してアイラ姉の表情がだんだん険しくなっていく。······これはヤバイ。
「レイ、シノブ、悪いが買い物と宿は任せていいか? 私には少しやることが出来てしまった」
アイラ姉が口元に笑みをうかべる。
怖いっ、怖すぎる。
この顔は地獄の訓練を前にした時の表情だ。アイラ姉はかなりのスパルタで、オレもシノブもアイラ姉の特訓に(強引に)付き合わされて死ぬ思いをしたことが何度もある。
「わ、わかったよアイラ姉」
「しょ、承知したでござるっ」
オレとシノブは反射的に答えた。
やはりシノブにとっても今のアイラ姉は恐怖を覚えるようだ。
というか、ここにいたらオレ達も巻き込まれかねない。一刻も早く脱出しよう。
[ジード] レベル21
〈体力〉440/440
〈力〉225〈敏捷〉80〈魔力〉30
[ザッパー] レベル19
〈体力〉370/370
〈力〉200〈敏捷〉105〈魔力〉45
一応男達のステータスを確認したがどちらも大したことない。アイラ姉にはまず間違いなく勝てないだろう。
オレとシノブは素早くギルドから出た。
············あの男達はどうなることやら。
まあ死ぬことはないだろう。······多分。