299 その頃の迷宮攻略組③
(ミールside)
冒険者ギルドで、何やら騒動が起きているようです。入口の扉を吹き飛ばして出てきた男性は気を失っています。
命に別状はなさそうですが。
「な、何があったのかな······!?」
「ケンカですかねー?」
姉さんとミウネーレさんが建物の中を覗き込みます。ケンカにしては派手すぎます。
扉の壊れ具合を見る限り、相当な力で吹き飛ばされています。
何が起きているかわからないので、ワタシ達は慎重に冒険者ギルドの建物に入ります。
――――――――――!!!
建物の中では、激しい戦闘が繰り広げられていました。
「おとなしく観念するですです!」
「ディリー、あなたは後ろから攻めなさい!」
あれはディリーさんとアトリさんですね。
二人が相手をしているのは小さな女の子です。
その周囲には冒険者達が倒れ伏しています。
死んではいないようですが、何があったのでしょうか?
ギルドの職員の方達は、巻き込まれないように遠目から戦いを見ています。
「にししっ、おねーさん達強いね! 周りのおっちゃん達は一発で気絶しちゃったのに」
女の子は自分よりも一回り大きいハンマーを武器に戦っています。
小柄な見た目とは裏腹に、ものすごい力です。
「スキあり! ですです!」
後ろから女の子に攻撃を仕掛けたディリーさんでしたが、簡単に防がれてしまいました。
ちなみにディリーさんの武器は、アダマンタイトの剣という少々ゴツい物です。
遺跡の迷宮でレイさんが手に入れた物をディリーさんに渡したそうです。
というより、もともとはディリーさんの物でしたが。
アトリさんの武器は、シノブさんが使っているような小太刀です。
オリハルコンではなく、ミスリル製ですが。
そういうわけで、ディリーさんとアトリさんの武器はオリハルコン製には劣りますが、充分強力です。
その上、二人ともかなりの高レベルで、並の冒険者などでは相手にもならない実力者なのですが。
そんな二人を相手に、小さな女の子は余裕で迎え撃っています。
鑑定魔法でステータスを確認してみますか。
おや? 妨害魔法の効果で表示されません。
[メリッサ] レベル459
〈体力〉512000/512000
〈力〉41000〈敏捷〉49500〈魔力〉44400
〈スキル〉
(魔神の加護〈小〉)(身体強化〈極〉)
(神将の祝福)(擬人化)(自己再生)
(防御貫通)(――――――)
一度鑑定を弾かれましたが(神眼)を使って、表示を開きました。
見た目とは裏腹にこの女の子、とんでもなく強いです。ディリーさんとアトリさんは、今ではレベル200を超える実力がありますが、女の子はその倍近いレベルです。
スキルも見たことないものがいくつかある上に、一つだけ(神眼)でも見えないのがあります。
「これで終わりです! アシッドスコール!!」
アトリさんが(強酸)スキルで女の子に向けて、滝のような雨を降らせました。
アトリさんの(強酸)はかなり強力で、触れればワタシでも強い痛みを感じるほどです。
「残念! アチシにそんなの効かないよ!」
女の子は片手で魔法障壁を張り、強酸の雨を防ぎました。そしてもう片方の手で巨大なハンマーを振り回し、二人を弾き飛ばしました。
「まだまだ······ディリーは負けないですです!」
「無様を晒してはマスター様に顔向けできません!」
お二人はすぐに立ち上がりましたが、ダメージが大きそうです。
(耐性)スキルと(自己再生)を持っていても、回復が追い付いていないみたいです。
それにしても、女の子の名前はメリッサと表示されていますね。
もしかしなくても、レニーさんが捜している女の子というのは······。
「メリッサさん! 何やってるんですかっ!」
レニーさんが女の子、メリッサに向かって怒鳴りました。メリッサがこちらに目を向けます。
やはり捜していた女の子とは、この子のことなんですね。
「あ、レニー! どこ行ってたの? アチシ捜したんだよ」
「それはこっちのセリフですよ! こんな大暴れしてたら、バルフィーユさんに怒られますよ!」
こうして言い合いをしているのは、どこにでもいるような兄妹? 姉妹? に見えますね。
しかし、このメリッサという女の子、レベル400を超えているなんて普通ではありません。
もしかしてレニーさんも······?
[レニー] レベル608
〈体力〉729000/729000
〈力〉60900〈敏捷〉59900〈魔力〉52300
〈スキル〉
(狂魔人の加護〈大〉)(魔人化)(自己再生)
(身体強化〈極〉)(状態異常耐性〈中〉)
(物理耐性〈中〉)(――――――)(――――――)
(神眼)の力でレニーさんのステータスを開きました。強い······。
ワタシよりもレベルが上です。
この強さは冥王クラスですよ。
(魔人化)
魔人族がその力を解放し、真の姿へと変化する。
しかも、このスキルは魔人族という種族のものです。獣人族などの(獣化)と違い、魔人族でもエリートクラスしか持ち得ないスキルのはずですが······。
それよりも(魔人化)スキルを持っているということは、レニーさんは魔人族だということですよね。
基本、魔人族は他種族を見下し、侵略や略奪行為を平気でやるような奴らです。
魔王の手先などが代表的ですね。
もしかして、レニーさんは魔王の手先なのですか?
あの気の弱そうな姿も演技で、ワタシ達を油断させていたということですか?
そもそも、この町に来た目的は何でしょうか?
なんにせよ、放っておくわけにはいきませんね。