298 その頃の迷宮攻略組②
(ミールside)
ワタシと姉さん、そしてミウネーレさんの三人で、クラントールの町までやってきました。
シノブさん達が迷宮に入っているので、その間の暇潰しですけどね。
ちなみにワタシ達と同じく迷宮に入っていない、キリシェさんとユーリさんは、里の住人と交流を深めていました。
暇潰しをするだけなら、幻獣人族の里でもできるんですけど、先ほど神樹を見ていたら父様達のことを思い出してしまったので、気分転換したかったんです。
「ここがクラントールって町ですかー。なんだか違う国に来たって実感が湧きませんねー」
ミウネーレさんはクラントールの町に来るのは初めてでしたっけ。
レイさん達の転移魔法で直接、幻獣人族の里に来たのだからそうでしょうね。
ワタシも初めは同じことを思いましたから。
「······ところでこの町、あの正義の仮面って人が現れるんですよねー? 出会ったりしませんかねー?」
ミウネーレさんが周囲をキョロキョロ見ながら、そう言いました。
「ど、どうなんだろ? あの仮面の人って神出鬼没だから······」
姉さんが冒険者ギルドでのことを思い出したのか、顔を赤らめながら言います。
まあ、現れることはないでしょうけどね。
······レイさん達の向かったという、フレンリーズ王国で現れないか心配ですが。
「ミウネーレさん、そんなにあの仮面の男のことが気になるのですか?」
「えーと······気になるというかそのー······」
様子が少しおかしいと思い、詳しく聞くと前に幻獣人族の里の温泉でのぼせて倒れた時に、夢で仮面の男が出てきたそうです。
夢の中とはいえ、かなり恥ずかしい目に合ったとか。
それって本当に夢だったのでしょうか?
あの時は確かレイさんが、のぼせたミウネーレさんを介抱していましたが、まさか······。
これは今度追及する必要がありそうですね。
「メリッサさ〜んっ! どこ行ったんですか〜!」
冒険者ギルドに向かう途中で、そんな声が聞こえてきました。
声の主は男性? 女性?
見た目ではどちらかわからない、中性的な顔立ちの人物でした。
「あ、あの······すみません、この辺りでこれくらいの小さな女の子を見ませんでしたか?」
どうやら迷子を捜しているようですね。
ワタシ達にそう尋ねて来ましたが、当然心当たりはありません。
「ううっ······ちょっと目を離したスキにいなくなっちゃったんです。何か問題を起こしてないといいんですけど······」
泣きそうな表情で············いえ、泣いていますね。
捜している小さな女の子とこの人、どちらが迷子なのかわからなくなります。
「小さな女の子ですかー? あたし達も捜すの手伝いましょうかー?」
「う、うん、わたし達も捜してあげるから、泣きやもうよ······ね?」
ミウネーレさんと姉さんが、そう提案しました。
泣き顔をうかべているので、同情してしまったのでしょう。
まあ、特に予定はありませんし、迷子の女の子を捜すくらい手伝ってあげてもいいですけど。
「ううっ······すみません、助かります。この町は初めてなので、どこに何があるかもわからないんですよ······」
涙を拭き、申し訳なさそうに言いました。
なんだか庇護欲をかきたてられてしまう人ですね。
見たところ、年はワタシ達と同じくらいでしょうか?
この町は初めてというのは、兄妹で旅行に来たのでしょうか? それとも他に家族がいるのかもしれませんね。
「自分はレニーと言います。捜している女の子はメリッサという名前で、これくらいの容姿で······」
レニーさんにメリッサさんですか。
ワタシ達もそれぞれ自己紹介をして一緒に迷子の女の子を捜すのを手伝います。
「その子って妹さんですかー?」
「い、いえ······知り合いの子、になるのかな? しばらく面倒を見るように頼まれていて······」
知り合いの小さな女の子を連れて、この町に来たんですか? 何やら事情がありそうな感じですね。
まあ、それは女の子を見つけてから聞けばいいでしょう。
とりあえずは冒険者ギルドまで向かいますか。
何か情報があるかもしれませんし。
「早く見つけてあげないと······。この町、治安があんまりよくないから、その子が心配だよ······」
姉さんの言う通りですね。
早く見つけないと、良からぬトラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。
それにしても姉さん、初対面の相手とはまともに話せないはずなのですが、レニーさんには普通に接していますね。
失礼な言い方になりますが、レニーさんは姉さんと気弱なところが似ています。
雰囲気が似ているから、安心して話せるのでしょうか?
[レニー]
妨害魔法の効果で鑑定を弾かれました。
(神眼)の効果で表示を開きますか?
············おや? レニーさんを鑑定しようとしたら、魔法を弾かれました。
鑑定を妨害する魔道具を持っているのでしょうか?
そういった魔道具は高価で、一般人には手が出ない物なのですが、レニーさんは貴族か裕福な家庭の方なのかもしれませんね。
(神眼)のスキルを使えば、妨害を除去できるみたいですけど······。
――――――――――!!!!!
突然、大きな音が響きました。
あれは······冒険者ギルドの中から、冒険者と思われる男性が入口の扉を吹き飛ばして出てきました。
出てきた············ではなく吹き飛ばされてきた、ですね。
ケンカだとしても、ずいぶん派手ですね。
何やらトラブルの予感がします。