297 状況説明
「こんなにも早く駆けつけてくれるとは思わなかった。心より感謝する」
リイネさんとアルケミアが、町に侵入してきた魔王軍を撃退したことを話すと、国王が頭を下げ礼を言った。
国王やエネフィーさんの話しによると、魔王軍がこの国に本格的に侵攻してきたのはらおよそ2週間前くらいだそうだ。
周辺の町や村が手当り次第に襲われ、徐々にこの首都まで攻めてきたという。
圧倒的戦力差で防戦一方に追い詰められ、籠城しながら救援を待っていたとのこと。
さっき撃退した魔物達はほんの一部で、魔王軍にはまだまだ余力があるようだ。
「特にギュランと名乗る魔王軍幹部が圧倒的強さで、私達ではとても太刀打ちできなかったのです」
エネフィーさんが悔しそうに言う。
ギュラン······か。
魔王軍の奴らがそんな名前を口にしていたな。
エネフィーさんや隣国の兵士では、そのギュランって奴を鑑定することが出来なかったらしく、正確な強さはわからないようだが。
「魔王軍はどこから攻めてきているのです?」
「首都から目と鼻の先にある、森の中に拠点を作っているのを確認した。じっくり我らを攻めるつもりだったのだろう」
リイネさんの問いに、国王が答えた。
拠点を作っているのか。
そうなると、またすぐにでも攻めてくるかもしれないな。
「ならば、こちらから拠点を叩きに行きましょうか? あまり相手に時間を与えれば、何を企んでくるかわかりません」
リイネさんが強気に言う。
ひょっとしてリイネさん、魔王軍と戦いたくてウズウズしているんじゃないか?
戦闘狂······とまでは言わないが、リイネさんはそんなところがある。
学園地下迷宮でも、未知の領域に進みたがっていたりしていたし。
「いや、そうしたくとも我らにその余裕がない。先の戦いで、多くの兵士達が消耗してしまっている」
国王が難色を示す。
今日まで隣国は、休む暇がないくらい魔王軍との戦いを繰り返していたそうだ。
戦力は数もレベルも向こうの方が上で、神経をすり減らし、隣国の兵士達はもう限界みたいだな。
むしろ、そんな状況でよく今日まで耐えきったものだ。城塞都市と呼ばれ、守りが堅いというのもあるだろうけど、魔王軍の奴らがジワジワ追い詰めるのを楽しみ、一気に攻め込まなかったのかもしれない。
まあ、そうだとしたら、そのおかげで救援が間に合ったんだけどな。
「リイネさん、いくらなんでも魔王軍を甘く見過ぎですのよ? 私達だって、叩けるのなら叩きたいんですのよ」
エネフィーさんも国王と同意見だ。
ずっと魔王軍と戦ってきたのだから、その恐ろしさを肌で感じているのだろう。
「リイネ、エネフィー殿の言うとおりだ。もう少し慎重になるべきだろう」
黙って聞いていたアイラ姉も、さすがに苦言を呈した。オレもそう思う。
アルケミアも黙って頷いている。
いくらオレ達のレベルが高くても、相手の戦力もわからずに敵の本拠地に突っ込むのは無謀だろう。
「だがアイラ、お前なら一人でも魔王軍を蹴散らせるのではないか?」
「まだ幹部とやらの顔も見ていないのに、出来るとは断言出来ん」
アイラ姉の言う通りだ。
魔王軍幹部のギュランって奴がどれくらいの強さかわからないからな。
攻めてきていた魔人族はレベル70〜80くらいだったが、奴らは多分下っ端だろう。
幹部というからには、下っ端とは桁違いに強いと思った方がいいだろうな。
レベル500〜600くらいなら、今のオレ達でなんとかなるだろうけど、それ以上ということもあり得る。
戦闘用の強力なスキルだって持ってるかもしれないし。
そう言われても、リイネさんはまだ戦いたい様子だ。アイラ姉と色々意見を言い合っている。
「先ほどから気になっていたが、その二人は何者だ? そちらの聖女殿はわかるが」
リイネさんとアイラ姉の話し合いを不思議そうに見ていた国王が口を開いた。
そういえば国王にまだ自己紹介をしていなかった。
アイラ姉は王女のリイネさんと対等に話しているんだから、そりゃあ気になるか。
「わたしの学園でのクラスメイトにして友人のアイラ、そちらの男性はレイと言います。二人は我が国の危機を救ってくれた恩人でもあります」
リイネさんがオレ達をそう紹介した。
危機を救ったというのは冥王関連のことだろうな。
「つい先日、我が国に冥王が軍勢を率いて現れ、未曾有の危機に陥っていたのです」
リイネさんが王都での出来事を簡潔に話した。
正確には冥王を倒したのは謎の仮面の男なのだが、話がややこしくなるので、そのことは伏せておいた。
オレはそのことに内心ホッとした。
国王やエネフィーさん、そして兵士達は信じられないといった表情で聞いていた。
「今のリイネ様の話はすべて真実ですわ。私も聖女の名に誓って、証言致しますわ」
聖女アルケミアの言葉も加わり、信憑性が増したようだ。
まあ、国王達もリイネさんの話を疑っていたわけじゃないだろうけど。
リイネさんとアルケミアは、オレ達が異世界人だということは伏せて、とてつもない実力を秘めていることや、成長促進スキルによって他者のレベルアップを早めることなど、話しても問題ない程度に、オレ達のことを説明した。
二人がオレとアイラ姉のことを誇らしげに話すので、少し気恥ずかしかったが。