295 隣国の王女
魔王軍の連中は取り逃がしてしまったが、襲ってきた魔物はすべて撃退して、とりあえずの危機は去った。
けど、あの様子を見る限り、また来るだろうな。
聖女アルケミアが、町の住人の不安を取り除くために動いている。
演説に慣れているようで、的確な言葉で人々を安心させている。
こういう場面でのアルケミアは本当に頼りになるな。
リイネさんは兵士や住人達から、この国の現状を詳しく聞き出していた。
周辺の町や村の住人は、隣国の首都に避難して来ているようだ。
全滅したのかと思ってたけど、無事だったみたいだな。避難する前に犠牲になった人もいるのかもしれないけど······。
「レイ、ちょっとこっちに来てくれ」
アイラ姉に呼ばれたので、そちらに向かう。
アイラ姉は町の入口の門、魔物によって無残に壊された瓦礫の前にいた。
多くの人達が瓦礫の撤去作業をしている。
入口が壊されたため、城塞都市と言われているこの町も、守りがガラ空きの状態だ。
魔王軍が新たな魔物を連れて襲ってくるかもしれないので、すぐにでも修復しなくてはならない。
けど実際問題、そんな短時間で直せるわけないんだよな。
············アイラ姉のスキルが無ければ。
「アイテム錬成」
オレは(素材召喚)スキルで頑丈な材料を出し、アイラ姉の(アイテム錬成)で門を新築した。
アイラ姉の(アイテム錬成)は建物のような大きな物でも、アイテム扱いになる。
巨大な壁や門ですらだ。
入口の門はあっという間に元どおり、いや······以前より頑丈な物になった。
その光景を見て、隣国の兵士達は声も出ずに呆然としていた。
「ウム、これで魔物も簡単には入って来れないだろう」
門を直して、アイラ姉が満足げに言う。
壊される前の素材もかなり頑丈な物で出来ていたが、今はオリハルコンなども少し混ぜて、より強度を増している。
少なくとも、さっきまで攻めてきていた魔物や魔人族達では傷一つつけられないだろう。
「相変わらず流石だな、アイラ。レイも」
リイネさんが直った外壁を見て言う。
リイネさんはオレ達のやることを見慣れているためか、隣国の兵士達のように驚いてはいない。
横でグレンダさんも同じような感想を漏らしていた。
「これは······どういう状況ですの?」
多くの兵士を引き連れてきた女の人が、周囲を見回して言う。
他の人達よりも、きらびやかな武器と鎧を身につけている女騎士タイプの人だ。
長い金髪をなびかせて、かなりの美人さんだ。
年齢はアイラ姉やリイネさんと同じくらいかな?
「久しぶりだな、エネフィー王女殿」
リイネさんが女の人に声をかけた。
············王女、か。
女の人はリイネさんを見て、驚きの表情をうかべた。
「······!? リイネさんですの? 何故、あなたがここに······」
「貴女の国から救援要請を受け、参上したのだが?」
リイネさんとエネフィー王女と呼ばれた女の人、ずいぶん親しげだな。
王女同士ということで交流があったのかな?
「リイネ、この方は?」
「ああ、フレンリーズ王国のエネフィー王女だ」
アイラ姉の問いにリイネさんが答えた。
隣国の王女様か。
リイネさんのように姫騎士タイプの王女かな。
口調はお嬢様タイプっぽいけど。
レベルは29で全体的にステータスも高めだ。
「王女のリイネさんを呼び捨てで? どちら様ですの、そちらの方は」
エネフィー王女が首を傾げて言う。
「こちらは冒険者のアイラだ。そして、そちらの男性はレイという。どちらもわたしの大切な親友だ」
「冒険者の············親友?」
リイネさんの紹介に疑問顔をうかべている。
まあ、普通に考えてただの平民にすぎない冒険者と王女様なんて、接点がないはずだもんな。
「今、紹介された通り、私の名はアイラという。リイネとは学園寮で同室となり、交流を深めています」
「どうも、オレはレイ······です。リイネさんと学園で同じクラスに入りました······」
オレとアイラ姉が改めて自己紹介をする。
相手は王女様だし、言葉遣いには気をつけたけど、やっぱり敬語は苦手だ。
「私はフレンリーズ王国王女エネフィーですの。以後、お見知り置きを」
エネフィー王女とアイラ姉が握手を交わす。
オレは握手はせずに顔を合わせただけだが。
オレ達が平民の冒険者と聞いて戸惑っているみたいだけど、見下すような感じはないな。
リイネさんの国と友好的なだけあって、王族も悪い人じゃないみたいだな。
「兵士や住人達からある程度現状を聞いたが、国王陛下からも話を聞きたい。謁見は可能か?」
「わかりましたわ。私も貴女から色々と聞きたいですし。お父様には私から話を通しますから、少し待っててくださいませ」
リイネさんの問いにエネフィー王女が答えた。
隣国の国王か······。どんな人だろうか?
まあ、王女様を見る限り、悪いような人ではないと思いたいが。
こうしてオレ達は、隣国の国王に謁見することとなった。