294 魔王軍の動揺
隣国の首都を襲っていた魔物の群れを、騎士達と協力して撃退していく。
数が多いが大した強さじゃないので、片っ端から問題なく蹴散らした。
オレ達や騎士達が魔物達を圧倒していく様子を、隣国の兵士達が驚愕して見ていた。
おや? 驚愕しているのは隣国の兵士達だけじゃないな。
「バ、バカな······」
「なんだ、この人族共は······!?」
魔物の群れの中に、人間っぽい奴らが何人か混じっている。
だが、ツノや翼が生えていたりと人間ではない特徴を持っている。
コイツらが魔人族······魔王軍の連中か?
「貴様らが、魔物共を率いている魔王軍の者か?」
リイネさんも、そいつらに気付いて剣を向けた。
リイネさんの護衛役として、アイラ姉とグレンダさんが隣に立つ。
オレはその様子を伺いつつ、周囲の魔物を倒していく。
「ちきしょう······ようやく外壁を破って、人族共を蹂躙出来ると思ってたのによ······!」
魔人族がそんな悪態をついているのが聞こえた。
なかなかにクズっぽいセリフだな。
魔人族のレベルは80〜90くらいで、周囲の魔物と比べればステータスは高い。
けどレベル400を超えているリイネさんやグレンダさん、ましてや、それ以上の強さを持つアイラ姉の敵ではない。
魔人族達がリイネさん達に向けて魔法を放つが、少し剣を振っただけで、簡単に打ち消した。
「とんでもなく強いぞ、この人族共!?」
「おいっ、早くアレを喚べ!」
魔人族の中で魔術師っぽい姿をした奴が詠唱を始め、地面に魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣から巨大な影が姿を現す。
これは何度か見たことのある、召喚陣というやつだな。
召喚陣から出てきたのは、デスワイバーンという飛竜の亜種だった。
レベルは120。
街道で倒した通常種のワイバーンの倍くらいのレベルとステータスだ。
大きさも、通常種よりも一回りでかい。
「グルアアアーーッ!!!」
デスワイバーンが目の前のリイネさん達を見て、唸り声をあげて襲いかかってきた。
隣国の兵士達はそんな魔物を見て、恐れを抱いた表情を見せる。
だが、リイネさん達は目の前のデスワイバーンをまったく恐れていない。
まあレベル120くらいじゃ、どうにでもなるからな。
「ホーリーリュオーラ!!!」
リイネさん達が動く前にアルケミアが「聖」属性の最上級魔法を放ち、デスワイバーンを滅した。
おそらくは奴らの切り札だったと思われる、デスワイバーンが一瞬で倒されたことで、魔人族達の動揺がさらに大きくなった。
「私は女神リヴィア様より遣わされし聖女アルケミアですわ! 私が来たからには、あなた達魔王軍の好きにはさせませんわよ!」
アルケミアが名乗りを上げた。
さすがはアルケミアだな。
とても凛として決まっている。
「バカな、聖女だと!?」
「くっ······聖女が率いる人族共だったのか!!」
確か、聖女は魔王軍にとって天敵のような存在だったかな?
アルケミアの名乗りを聞いて、魔人族達が完全に狼狽えている。
「ギ、ギュラン様に報告を······!!」
「お、覚えていろ······! 聖女共め!」
三下のような捨てゼリフを言って、撤退しようとする魔人族達。
ギュラン? 魔王軍の幹部の名前かな。
むざむざと逃したくはなかったんだが、多数の魔物が壁となって阻んできた。
この乱戦の中、しかも町中で強力な全体魔法は撃てない。
味方を巻き添えにしかねないし。
そう躊躇していたのがマズかったかな?
魔物を倒している内に、魔人族達を取り逃がしてしまった。
魔王軍の連中は撤退して、魔物達はすべて撃退した。これでとりあえずの危機は去ったな。
「聖女アルケミア様、リイネ様。この度の救援、感謝致します!」
隣国の兵士の隊長と思われる人が、二人に敬礼した。
「ああ、間に合ってよかった。この状況を見れば大体わかるが、詳しい現状を知りたい」
リイネさんがそれに応えて、隣国の現状を問う。
その辺りの詳しい話は、リイネさんやアイラ姉達に任せよう。
今の戦いで死者は出ていないようだけど、怪我人の姿が結構目立つ。
隣国の兵士の平均レベルは20〜30くらいで、襲ってきた魔物と同じくらいだ。
数では魔物の方が圧倒的に多かったから、オレ達が間に合わなかったらやられていただろう。
「不浄なる傷を癒やせ······エリアヒール!」
アルケミアが「聖」魔法で傷付いた兵士達を癒やしていく。
この魔法は、アルケミアの周囲にいる者すべてを癒やす効果がある。
潜在魔力によって範囲と効果が変わるのだが、今のアルケミアのレベルなら町全体の怪我人を完全回復させることも可能かもしれない。
怪我人の中には命の危ない重傷者もいたが、全員問題なく回復していた。
「聖」魔法の神々しい光を放つ聖女の姿を見て、涙を流しながら拝んでいる兵士もいる。
······ちょっと感動しすぎじゃないかな?