290 隣国に向けて出発
他の皆にも事情を話した。
ミールやキリシェさん、そしてスミレがオレ達について行きたいと言ってきたが、遊びに行くわけじゃないので遠慮してもらった。
転移魔法があるので、その気になれば途中からでも連れて行けるから、状況を見極めるまで我慢してくれ。
迷宮攻略はオレ達が戻るまでは、あまり無理をしないようにとアイラ姉が念押ししていた。
まあ、シノブは先ほどの出来事で大幅に強くなったし、保護者役として、ゲンライさんとフウゲツさんがいるから大丈夫だと思うけど。
他の皆もかなりの高レベルだしね。
案外、戻ってきたら迷宮攻略が完了していたということもあり得るかもな。
報告を済ませ、オレとアイラ姉は再び王都へ戻った。
すでにリイネさんとグレンダさん率いる第三王国騎士団、そして聖女アルケミアと神殿騎士団の出陣の準備は万端だ。
王国騎士団の騎士は、およそ50名だ。
これで第三王国騎士団は全員というわけではなく、隣国に急行するために人数を厳選したらしい。
あまり人数が多すぎると、進軍に時間がかかるからな。
神殿騎士団も同じくらいの人数だ。
合わせて約100名か。
騎士団の規模としては、かなりの少人数になる。
援軍として見るなら頼りない人数になるが、王国騎士団の平均レベルは80くらいある。
アイラ姉が協力して、相当鍛えていたからな。
特に王国騎士隊長のグレンダさんは、冥王を倒した時にその経験値を得て、レベル400を超えているし。
神殿騎士団も同じく、アイラ姉が鍛えて同等のレベルを持っている。
そのため、神殿騎士も王国騎士達もアイラ姉を見るなり、敬礼していた。
騎士団は年上の人達ばかりのはずなんだけど、完全にアイラ姉が総隊長みたいになってるな······。
まあ、さすがアイラ姉だと思っておこう。
聖女アルケミアもグレンダさん同様にレベル400超えだ。
もともとの騎士のレベルは20〜30くらいだったので、人数が少なくても充分過ぎるくらい、強力な援軍となるだろう。
ちなみに神殿騎士団の隊長はレベル130で、グレンダさんより少し年上の男性だ。
この人がアルケミアの専属護衛騎士なのかな?
「本日はよろしくお願い致しますわ、レイさん、アイラさん。こうして、また行動を共に出来ることを嬉しく思いますわ」
聖女アルケミアが言う。
アルケミアとは前に試練の同行として、一緒に冒険したことがある。
なんだかんだで、あれから結構経ったものだな。
「こちらこそ、よろしく頼みます。アルケミア殿」
アイラ姉が応えて、アルケミアと握手を交わす。
オレも軽く挨拶をする。
「お二人の学園での評判は、ネアから色々聞いていましたわ」
アルケミアの言うネアとは、学園で同じクラスメイトのフレネイアという女の子のことだ。
アルケミアの妹だと聞いていたからな。
姉妹というだけあり、アルケミアとよく似た性格でカリスマ性もあり、風紀委員の副長なんて活動もやっていた。
······そのために学園に現れる黒いマスクの謎の男と衝突する出来事もあったが。
それだけでは終わらずに、その後もフレネイアは同じ特別クラスのフェニアや、報道部に所属しているリーフィと協力して、正義の仮面の正体を探ろうと騒動を起こしたりしたこともあった。
おかげでオレは仮面男の姿になって、彼女達に色々と酷い目に合わせてしまった。
けどそれ以来、何故か三人とも仮面の男に熱を上げるようになったのだが············下手にトラウマになるよりはいいのかな?
············ちょっと前のことなのに、あれからずいぶん経った気がする。
まあ話が逸れるので、そのことは置いておこう。
それよりも魔王軍に攻め込まれているという、隣国まで急がないとな。
隣国の首都は城塞都市と呼ばれ、守りが強固だという話だ。
劣勢に追い込まれているといっても、簡単には落とせないだろうとのことだ。
とはいえ悠長にはしていられない。
隣国の首都まで通常の馬車なら2〜3週間はかかる距離だそうだが、それだと遅すぎる。
なので騎士達は専用の早馬(普通の馬と違い、丸一日くらい休みなしで走り続けられるらしい)に乗り、オレ達はアルケミアと共に、専用の高速馬車に乗ることになった。
頑丈な造りで、かなりのスピードにも耐えられるようだ。
オレとアイラ姉、そして聖女のアルケミアは乗馬の経験なんてないからな。
これなら三日くらいで、首都にたどり着けるとのことだ。
2〜3週間かかる距離を三日って相当な速さじゃないかな?
出来ればゆっくり観光しながら行きたかったけど、事情が事情だし、仕方無いか。
こうして、オレ達は隣国に向けて出発した。